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《読書メモ》『スクラップ・アンド・ビルド』/羽田 圭介著

昨日投稿した『傲慢と善良』よりも先に読み終わっていた作品ですが、あらゆることを考察していった結果、自分が誰がわからなくなってしまったので、せめて備忘録だけでも、と。

まずはこの一文から。

カーテンと窓枠の間から漏れ入る明かりは白い。

『スクラップ・アンド・ビルド』P5

なぜ、この一文が印象に残っているのか。
『「北向きの部屋(家)」ということがわかり、かなり興奮した。』
ただ、それだけのことなんですよね。

当小説の始まりの文章でもあるんですが、時間・季節・天気といった情報がなく、この文章を書くことで「日当たりの悪さ」がイメージしやすくなってるような気がします。
たぶん、羽田先生の意図とはちがうかもしれませんし、芥川賞作家の一技術かもしれませんが、個人的には好きな文章です。

さて、当著は第153回芥川賞受賞作品です。
文庫文150ページほどで、日常生活を切り取った内容ですので読みやすく、読書の苦手な方にもオススメな小説です。
転職を考えているまたは、転職中の20代後半の方(どちらかというと男性)には、特にオススメです。

さらに、ポエトリーリーディング・狐火さんの「27歳のリアル」を聴けば、20代後半で人生悩んでる方は勇気と活力をもらえると思います。
ちなみに、ぼくのような人間はこの2つじゃ足りません。汗

というのはさて置き、最後に印象に残っている文章を1つ載せて、終わりたいと思います。

同じ車両の遠くの位置で、ドアによりかかり立つ老男性に気づいた。棒状の手すりにつかまっていることからも、ある程度は身体の支えを必要としていることがわかる。・・・(中略)・・・ここで自らの席を老人に譲るのは優しさだ。しかしあの老人がまだ元気に行きたいのであれば、席を譲る行為は本人の足腰を弱らさせることにほかならない。真に相手のことを思うと席を譲れない。[主人公の彼女である]亜美たち大多数の乗客のようにただ自分の席を守りたがっている利己的なメンタリティーと変わらないように見られてしまうのが、行為の裏側にひそむ己の優しさを見せられないのが、健斗としてはものすごく歯がゆかった。

『スクラップ・アンド・ビルド』P60,61、[]内・強調引用者


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