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本がみんなの恐怖心を悪化させたのは間違いない

実家に帰省し、朝、目覚める。寝室の壁一面が窓、その外は崖、眼下には蒼色の海が広がる。朝日に波光がきらめいている。わ、すごい景色、これどうしたの?と騒ぐと、親がやってきて、最近部屋をリフォームしたので、と言うので、なるほどと思った。

夢だった。実家にも帰っていなかった。実家の立地を考えれば、いくら部屋をリフォームしても、オーシャンビューが実現できる訳がなかった。

ドトールでランチ。リニューアルしたばかりのミラノサンドA。ハムとその親戚の切れ端を控えめに挟んだパンを食べながら、Kindleで夏目漱石『吾輩は猫である』。何だかんだ言って、仲の良い夫婦である。

ふと眼を開いて見ると主人はいつの間にか書斎から寝室へ来て細君の隣に延べてある布団の中にいつの間にか潜り込んでいる。主人の癖として寝る時は必ず横文字の小本を書斎から携えて来る。しかし横になってこの本を二頁と続けて読んだ事はない。ある時は持って来て枕元へ置いたなり、まるで手を触れぬ事さえある。一行も読まぬくらいならわざわざ提げてくる必要もなさそうなものだが、そこが主人の主人たるところでいくら細君が笑っても、止せと云っても、決して承知しない。毎夜読まない本をご苦労千万にも寝室まで運んでくる。ある時は慾張って三四冊も抱えて来る。せんだってじゅうは毎晩ウェブスターの大字典さえ抱えて来たくらいである。思うにこれは主人の病気で贅沢な人が竜文堂に鳴る松風の音を聞かないと寝つかれないごとく、主人も書物を枕元に置かないと眠れないのであろう、して見ると主人に取っては書物は読む者ではない眠を誘う器械である。活版の睡眠剤である。

夏目漱石『吾輩は猫である』[Kindle版]青空文庫,Kindleの位置No.3014

仕事で脳がショートしたのか、退社する頃には眠くて仕方がなかった。

帰宅するが、部屋には誰もいない。眠気で気怠い。Radikoで過去のラジオ番組を再生する。ベランダに向かい、洗濯物を取り込んで、畳みながらしまう。ベッドの上に伏せて、束の間、すぐに起き上がり、日記を書く。眠気が少し晴れる。部屋を出て、夜、隣町まで歩く。イヤホンからは、常にラジオが流れている。

私の実家は、8月15日であろうと12月25日であろうと、1月1日であろうと、毎日が、終戦特集でした。親戚が一族郎党全員、私と愚兄を除く、全ての、一人残らずが、太平洋戦争を経験しているからです。極端な経験が人を縛ることは、アドラー心理学を持ち出すまでもなく、まあ一般論ですが、とにかく彼らは、冠婚葬祭から始まり、特に何の用のない日まで、集まると、必ず最後は太平洋戦争の話になったので、私はある意味、一族郎党から英才教育を受けていたのかもしれません。現在、彼らのほとんどは、存命していません。

彼らをとことん痛めつけたアメリカ合衆国が、世界の最強国でなくなった、つまりアメリカのポテンツが折れた状態の大統領が、合衆国史上最もマッチョな男だ、というのは、男根主義の断末魔として図式的ですらある、と言えるでしょう。

70年代再現物の映画としてベスト・ワンに輝くであろう傑作、『バトル・オブ・セクシーズ』のなかで、ジョディ・フォスターそっくりのエマ・ストーンは、劇中の最悪漢である全米テニス協会のトップであり、アメリカンマッチョの代表であるような男性に、おおよそこういうことを言います。「あなたが、愛妻家の紳士であることは認めるわ。でもそれは、女がベッドと台所にいる限りにおいてよ。ひとたび、彼女たちが権利を主張すれば、あなかは硬化して絶対に許さない。あなたは根本的に、女性を尊敬できない。」

この台詞が、われわれの胸に突き刺さるのは、普遍性でしょう。70年代の合衆国におけるウーマン・リブ運動を描いているから、この台詞はこういう構図をとっただけで、支配に関するあらゆる構図は、あらゆる時代の、誰から誰にでも存在する、人類の属性と言えるでしょう。私は、メールの交換や三次元でも、どっちもありますけど、自称フェミニストや自称LGBT、などの被差別者、あるいは進歩主義者の女性を数多く知っていますが、彼女たちはおしなべて、性欲丸出しで、ドラスティックな、つまりおっさん化しています。自分の敵に同化するしかない状態というのは、戦況としては、かなり苦しいものだと言えるでしょう。

私はトランプと正恩のファンです。あれほど北朝鮮の代表に似た合衆国大統領はいないし、あれほど合衆国大統領に似た北朝鮮の総書記はいないからです。先代は喜び組だとかね、プリンセス天功さんが大好きで、なかなか返してくれなかったとか。童話に出てくる悪い王様みたいでかわいいもんでした。妹を愛し、常にクールな正恩は、先進国のトップの面構えをしています。

本日、ノンストップDJのスタイルでお送りするアーティストは、DCPRG、結成当時はデート・コース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデンという長い名前でした。日本のジャズバンドですので、さながら、ジャズ・アティテュード・ジャパンの番外編、という趣ですが、このバンドは、私が作りました。1999年、未来は明るいものになるというオプティミズムが溢れた世界のなか、私は、英才教育の賜物か、戦争について考えていました。このバンドは、結成し、最初のアルバムを録音し、レコ発のライブが2001年の9月11日、あの同時多発テロの3日後でした。この番組がいつ始まったか。私のあらゆる始まりには、ほぼほぼ、平穏がありません。合衆国軍が、バグダッドに侵攻した年に一度活動を休止して、また再開し、現在も活動中のバンドです。現行メンバーのひとりである小田朋美をサポートに擁するceroや、直近のエンドリケリ・エンドリケリのライヴアクトなど、国内に一部、微弱な影響関係を持つだけで、音楽的なマッピングが困難もしくは不可能なバンドであると自認しています。私のあらゆる活動には、ほぼほぼマッピングの落ち着きがなく、孤独がつきまとっています。

それでは、ご自宅の住宅環境、もしくはあなたの、鼓膜のコンディションが許す限り、最大音量でお楽しみください。当番組の、終戦特集として。本日は、ノンストップDCPRG特集をお届けいたします。力道山刺されたる街、赤坂はTBSラジオより。今後に起こる戦争は、もうおそらく戦争とは呼ばれずに、テロだとか紛争だとか呼ばれるはずです。では、戦争と呼ばれうる、新たな戦争は、一体どういった姿なのでしょうか。それはもう、ひょっとして、とっくに開戦し、泥仕合の様相を呈しているのかもしれません。しかし、戦勝することへの、畏れや恐怖を恥じてはいけない。それでは最後まで、音楽の戦場をお楽しみください。

TBSラジオ『菊地成孔の粋な夜電波』第379回/2018年9月1日放送・番組冒頭前口上より

夜、隣町の交差点でジム帰りの奥さんと待ち合わせ。交差点に向かう最後の一本道、前方に彼女の歩く姿が見えた。一緒にサラダを食べて、カフェに行く。そこで、ダニエル・デフォーの『ペストの記憶』。

 人びとの不安が異様に高まったのは、誤った考えがこの時代に広まったせいでもあった。当時の人びとは、どういう信念からか想像もつかないけれど、予言や星占いの呪文、夢占いや根も葉もない俗説にかぶれていて、これほどひどい時代はあとにも先にもなかった。こんな嘆かわしい状況をたどると、占いで金儲けをするやつらのバカげた所業のせいなのか、つまりこの連中が、予言やら予知やらを続々と出版したせいなのか、ぼくには分からない。けれども、本がみんなの恐怖心を悪化させたのは間違いない。『リリーの予言歴』、『ギャドベリーの占星歴』、『貧乏ロビンの予言歴』のようなものもあり、さらには信心めかした本もいくつかあった。『わが民よ、その女から離れ去れ。その災いに巻き込まれぬようにせよ』という題名のものもあれば、『正しい警告』や『イギリス国民の覚書』というものもあり、ほかにもこの手の本がたくさん出まわった。そのすべてとは言わないまでもほとんどが、あけすけに、あるいは曖昧に、ロンドンの滅亡を予告していた。それどころか、神がかった厚かましい連中は、この町に神の言葉を説いてまわったヨナのように、「あと四十日すれば、ロンドンは滅びる」と街なかで叫んでいた。いや、あれは「四十日すれば」と言っていたか、それとも「数日すれば」と言っていたか、ちょっと自信がない。裸で、ただ腰に下着だけをつけて走りまわり、昼も夜も叫んでいる者もいた。

ダニエル・デフォー(著),武田将明(訳)『ペストの記憶』研究社,p.26-27

まだ全体の10分の一も読んでいないのだが、当時の人々の混乱がもはやフルスロットル。これ以上の混沌が、この先に待ち受けているのか。

 こういう公共の場で見られる迷信のほか、「おばあさんの夢占い」なるものもあった。正確には、他人が見た夢をおばあさんが解釈するのである。おかげでたくさんの人びとがすっかり正気を失くしてしまった。「去れ、ロンドンに大変なペストが来る、生き残った者が死者を埋葬できなくなるほどひどいものだ」と警告する者や、空に幻影を見たという者が現れた。心の冷たい人間と思わないでほしいが、この当時の人びとの想像力は常軌を逸していて、なにかに取り憑かれたようだった。こんな人びとがずっと雲を眺めていれば、なにかを象(かたど)った姿や形が現れたように見えても不思議ではない。しかしそれは、なんら実体のない、宙に浮いた妄想にすぎないのだ。こちらには、「燃え上がる剣を持った手が雲のあいだから飛び出した、切っ先はこの町を真上から窺っているぞ」と言う者たち。あちらには、「霊柩車と棺が見える、埋葬するために走っているんだ」と言う者たち。さらにあちらでは、「埋めずに放り出された死体の山があるぞ」という声。

ダニエル・デフォー(著),武田将明(訳)『ペストの記憶』研究社,p.28

今年のテニス全米オープンはWOWOWでしか放映されないことが分かり、落胆。就寝、睡眠導入のためポッドキャストのバイリンガルニュースを聞く。人工知能による不気味な肖像画の話題。

人工知能が芸術の分野で使用されることが増えてきていますが、その結果、なかなか不気味なものが登場しています。”Obvious Art”というフランスのプロジェクトで、人工知能が人物画を描いており、魂が抜き取られているかのような人物像が次々できあがっているほか、特定のキーワードを元に画像を作成するAttn(GANs)でも、奇妙な画像ができると話題です。

330.バイリンガルニュース09.06.18

Obvious Art”のサイトを覗いてみる。それほど不気味ではないが、もし魂が抜き取られているかのような印象を受けるとすれば、おそらく目だ。目が死んでる。

SmartNewsのトップに並んだ記事。

・2人死亡、30人安否不明5人心肺停止か 北海道地震(朝日新聞デジタル)
・電力の全面復旧は少なくとも1週間と経産相(共同通信)
・台風のたまご発生 まだまだ台風シーズン(tenki.jp)

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