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一人でも、誰かとでも。『こっち向いてよ向井くん』が教えてくれた自分だけの幸せな生き方

『こっち向いてよ向井くん』の最終話。フィナーレにして一番登場人物たちのセリフが印象深い回だった。

特にグッときたのは、麻美が美和子に手向けた言葉。


言葉足らずで不器用な性格。制度や一般論といった外的要因などにも縛られない、これまで通りの「二人らしさ」を求めるあまり、結婚し夫としての役割を普遍的に全うしようとしていた元気とすれ違い、毎話揉めていた彼女は、向井くん以上に拗らせていたように映った。


元気を愛するがゆえ、"ありのままで居ること"に忠実すぎたゆえに彼女を覆う膜はどんどん分厚くなってしまった。

麻美と一緒に生きていきたい。それは麻美もまったく同じ願いを持っているはずなのに、その膜は“目の前の”元気を見えなくしてしまっていたと思う。


『ただ好きだから一緒にいるって素敵だな。私の人生は父親の言いなりかその反対かっていう二択になってた。自分の人生を見つけていきたい』という美和子に対して、麻美は

「今あたしが思ってることだけど。一人で強くなる必要なんてないんじゃないかって。

誰かと一緒にいるから強くなれるってこと、あると思う。
自分の人生を自分で生きていきたいって思っていたけど、
元気がいて、両親とお兄ちゃんがいて、みんなに支えて貰っている。

美和子ちゃんも一人で頑張んなくてもいいんじゃないかな。
一緒にいるだけで楽しくて頑張れる。
そんな人がまた見つかったらその人と人生を見つけたら良いんじゃないかな。

『こっち向いてよ向井くん 第10話』


縛りつけていた「こう在らなければ」の糸が解けて、“今目の前”の元気と向き合うことができた麻美。パイレオで元気と話したり、元気を手伝ったりするシーンではこんなにも可愛らしい人だったのかと思わせるほど、ゆるんだ柔らかい微笑みを見せていた。


お互いに歩み寄り合えた2人



そんなやりとりを目の当たりにしながら、ぼんやりと自分自身と重ねていた。私の彼は、私が夢を語るたびに「俺がいるから絶対大丈夫」と言ってくれる。

一度普遍的な社会人レールから外れて堕ちて、本当にやりたい道に進み直している私に彼は、いつもこんな言葉をかけてくれる。

「君の好きなこと、やりたいことに没頭できるように俺も働いて稼いでくるし、支えるから。君も無理ない程度に、息抜きするぐらいの気持ちで働いて。二人の稼ぎを合わせたらいいんだから心配ないよ。それに俺は君の味方だし、心の底から君なら夢を叶えられると信じてる。だから、俺がそばにいれば君は大丈夫だよ。」

こんな大きな愛と優しさに溢れた言葉、まるで元気だ。

凄く有難くてうれしい反面、少し前までの私、向井くんを観る前の私なら、この言葉は響かなかったと思う。




自分って、結局この人がいないとダメなのかな。幸せになれないのかな。


そんな不安がどうしても過ってしまっていた。


こんなことを言ってくれる彼が支えだし、そんな彼が傍に居てくれるだけで何でも出来そうだと希望に満ちるし、いろんなことが捗る。

逆に彼が居ないと、まるで元気のように何も手につかなくなってしまうし、やっぱり自分にはできないや.....と塞いでしまう。


でもそう感じてしまうのって、彼ありきってことだよな?彼が居ないとなんにも頑張れそうにないって、「自分の人生」を生きてるってことになるの?

一人で輝けてない自分なんて、情けなくない?彼が居ても居なくても、結婚してもしなくても、私は私だし私の人生の舵は私しか握れないはずなのに。そういう時代なのに。

一人で生きていけてないと、精神的にも経済的にも自立してないと世間から疎外されてしまう。


なんか、「守ってもらってる」感じがして、「頼り切ってしまってる」感じがして、なんかなぁ.....



そんなふうに思いすぎていた。


でも彼の言葉は、私が彼に依存しないと何もできない、と言っているのではなく、お互いの存在があるからこそ輝けるし頑張れるものなんだよということなのだ。


それは、本作品で元気も言っていた。元気は元気の人生を幸せに歩んで欲しいとぶつける麻美に対して、『無理だよ、そんなの。だって俺、知っちゃったんだもん.....まみんが隣にいる幸せ』と。

麻美と出会うまでは自分の好きにして、一人の人生を謳歌していた。でもその中で麻美と出会って、『麻美を幸せにしたい、二人でずっと一緒にいて幸せになりたい。』そう感じるようになったのだと。

それは決して、麻美のせいで元気が自分らしさを見失ってるのではなく、それも含めて「元気の人生」になったということだ。
それこそが「元気自身の夢」になったのだから、元気は自分の人生を蔑ろにしていたり“麻美最優先”になって「元気らしさ」を失っていたりしたわけではない。


確かに、結婚したって子供ができたって私の人生は続くし私だけのもの。結婚しなくても幸せになれる時代。沢山の選択肢が私たちにはあるし一人で生きていけるし幸せになれる。それはそう。

だけど、多様性が謳われるあまり、「一人で生きていけないのはこの時代どうなんだ」に囚われすぎている節があると感じる。

「この人がいるから頑張れる」「この人の支えがあるからもっと跳べる」。正直、それで全然良くないか?

だから、見る人が見ればかなりめんどくさい性格に映る麻美の態度にも妙に共感できた。あのめんどくささ、言葉足らずな感じはそんな社会の中でサバイブしていくための、麻美の自己防衛だったのかもしれない。


一人で生きてける強い女性で在りたい。
いや、ある程度とし重ねたら在らなければならない。そんな思いが彼女にあったかもしれない。



何者にも何物巻かれず、"個"で成り立っている自分や二人で在りたい。でも本当は結構脆くて、人並みにブレてしまう。そんな自分がなんか"違和感"で、認めることができない。



そんな弱さ脆さを跳ね除けるように「強い自分」を演じてしまう。「大丈夫、頼らなくてもできる」と平気なフリをしてしまう。


今思えば、何も0か100かでならなければならない理由なんてない。
いつでも一人で、何もかもしなければならないわけはない。それこそ向井くんの言うように、時には一人で頑張れたらいいし、時には誰かと手を取り合って進んでもいい。「この人がいるから、この存在があるから頑張れる。」は、決して弱さや依存なんかじゃない。その思いを含めて、「自分自身の人生」なのだから。


結婚しなくても幸せになれる。ではどうしていきたいのか。一人で生きていきたいのか、その上で誰かと一緒になりたいのか、結婚という形には縛られないけど誰かと生きていきたいのか。そしてその思いは、時と場合で当然変わることもある。日々揺らぐ自分の思いと向き合って、その都度選択していけばいいのだ。







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