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開発思想について

●設備開発と製品開発


ものづくりにおいて、同じ製品を扱っていても企業によって全く異なる開発の仕方をしています。

例えば家電でも企業によって品質が良い悪いがあると思います。
その品質を左右するのは構成部品などではなく、ものづくりのやり方、開発の思想によるものです。

開発思想は開発プロセスに反映され、ものづくりはそれに準拠して進められていきます。

私は転職を繰り返すことで、設備と製品の開発思想は大きく異なることを学びました。特に開発の思想が違うと関連する部門の考え方も大きく変わります。

それでは設備開発と製品開発とは何が違うのか。
各部門の目線から何が異なるのかを列挙してみました。

私が考える設備開発、製品開発は以下です。



●設備開発とは

「特定の法人顧客に合わせたアフターフォローありきの開発」


◆購買目線:
・構成部品の継続購入性、ものの確からしさなどは優先順位を下げられる。つまり、部品の品質保証よりも入手性に焦点を当てられる。
・BtoBでのやり取りのため、出荷品の価格が多少高くても購入してもらえる場合がある


◆品証目線:
・設備開発途中で品証部門の介入がなくても問題ない場合がある
・N=1での品質保証で良い
・受け入れ、出荷検査の継続性はなくて良い
・工数削減のため工程全体で品質保証するよりも、単一最適での保証としても良い


◆製造目線:
・手順書が簡易的、もしくは図面のみでも良い
・効率よりも納期が優先される
・製造工数を最優先に考えなくても良い
・製造専用治具を開発するよりも汎用工具で組み立てできればそれで良い


◆メンテ目線:
・図面を読める能力が必要
・専用工具のみならず汎用工具を使う能力が必要
・現場で突発的な問題が起きても解決できるような知識と能力が必要


◆開発目線:
・量産を意識した設計よりも、時間をかけずに設計を完了することが優先される
・重要管理ポイントを考慮せずともものの合わせ込みで良い場合があり、工数の削減が可能
・他の設備で使用されている部品を共用することを考えなくても良い
・最低限の評価のみでも良い


◆全般的に…
・不具合発生時にはリソースを投入することで、収束を図れる
・装置の性能さえ出ていれば良いので、開発フェーズを飛ばしても問題ないことが多い
・製造のし易さ、メンテのし易さを放置しても大きな問題にならず、短納期で出荷できる
・顧客に合わせて機能を柔軟に拡充できる



●製品開発とは

「不特定多数の顧客を想定し、不具合を出さないようにする開発」


◆購買目線:
・構成部品は継続購入性を意識し、出所のわからないような部品は保証の観点から使わない
・部品をまとまった量で購入するため、単価を下げ易い
・各製品で使用されている共通部品を熟知し、横展開できるように開発に働きかける
・完成品の価格はできるだけ抑えるように、メーカとの折衝が必要


◆品証目線:
・製品開発の段階では仕様の構築時から参画する
・出荷する製品全てに品質保証をする
・受け入れ、出荷検査は部品ごとに決め、完成品の出荷検査の基準決めをする
・開発と重要管理ポイントを決定し、部品メーカに監査に出向く
・各工程で品質が問題ないか確認し、保証する


◆製造目線:
・図面と試作から誰でも作れるような手順書を作成する
・製造し難い部分は開発にフィードバックし、設計を見直してもらう
・製造工数は何にどれくらいの時間がかかっているか定量化し、分析し工数の削減をする
・製造専用治具の開発が必要


◆メンテ目線:
・メンテナンス手順書に従い作業するのみ
・手順書を見ながら専用工具、汎用工具を使い分ける
・手順書以外の問題は対応しない


◆開発目線:
・量産を意識し、製造からのフィードバックを設計に反映する
・購買指定のメーカとやりとりした情報を設計に反映する
・重要管理ポイントを指定し、品証に保証してもらう
・決まった性能評価をクリアしないと量産に着手できない
・設計不良を出すと大量に市場からクレームが返ってくるので、開発プロセスは疎かにできない


◆全般的に…
・不具合流出を悪と考えるため、品質の高い製品ができる
・製造がし易く、専門の知識が無くても組み立てできる
・メンテナンスは決まった手順のみを現場で行なってもらうだけで、それ以上の作業を求められない。つまり、メンテ性は高くないといけない。
・開発プロセスを遵守して出荷するので、顧客に合わせた機能拡充が困難。機能拡充の場合は特注品となり、別途リードタイムがかかる。設備開発より製品開発の方がリードタイムがかかる。
・QCDを意識するため、各部門のコミュニケーションが肝要になる



●最適な開発思想

どの開発思想が良いのかは、扱う製品、設備の特性によるので、一概に何が良いとは言い切れません。

また製品を扱っていても、納期やコストの関係から設備開発の思想を取り入れる方が良い場合もあるし、設備を扱っていても、品質保証の観点から製品開発の思想を取り入れた方が良い場合もあります。

正直なところ、製品開発、設備開発ということにこだわった思想ではなく、扱っているモノの特性をしっかりと見極めた上で開発思想を設定し、開発プロセスを構築するのことが最も良いです。

製品開発も一般論だけで述べていますが、例えば医療機器は不具合悪よりも不安全悪の側面が強く、少し過剰な設計、部品の選定をしたりします。

今回は製品、設備と2極に分けましたが、実際はその中でも思想は細かく分かれていきます。


●私の経験

私が勤めた3社目は年間15台くらい出荷される製品を扱っていたのですが、私から見て開発思想は設備開発でした。
しかし、中にいる人達は製品開発の思想でものづくりをしている認識でした。

私が設備開発だと感じたのは、
都合の良い時に製品開発の思想を持ってきて評価をしたり、一方で都合が悪くなると、開発プロセスのフェーズを飛ばしたりと各部門、各個人の裁量権を持つ人物の都合に合わせてものづくりを進めていたからです。

また年間15台といってもただベースが同じだけで、仕様の異なる製品(設備)を出荷していました。

このことからも設備開発の思想で、ものづくりを行えば良いのですが、変に製品開発の思想でものづくりを行っており、不要な工数がかかる一方で必要な工数を削除していました。

都合の良いものづくりのため、各部門がバラバラに製品(設備)に関わり、非効率的で、責任の押し付け合いも酷かったです。

ものづくりの開発思想について、ISOの規格に準じて開発プロセスを構築するのは良いですが、前述している通り、まずは自社製品のものづくりの特性を認識しないといけません。

その上で開発思想として確立し、プロセスに落とし込まないと、各部門や各個人の都合の良いものづくりとなり製品、設備開発のレベルは一向に上がってきません。

年を追うごとに技術は進みますが、ものづくりのやり方が成長しないと、ビジネスとしてはいつか終わりがくることになります。


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