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5月読書感想文:あの子が欲しい/朝比奈あすか先生

今年引っ越しをして、去年まで通っていた大きな図書館から、区民会館にある図書室のようなこじんまりとした図書館にお世話になることになった。
小さいからといって侮るなかれ。
お!こういう本も置いてあるのかと思える本が揃っている。

表紙とタイトルを見たときの運命の出会いに賭けているので、図書館が変わったことで、また新たな出会いにワクワクしている。

そんな状況であ行から探索する私と、運命的な出会いをした朝比奈あすか先生の小説!
「憧れの女の子」と「あの子が欲しい」に惹かれた。
読み進めていくうちに朝比奈先生の文章、ストーリーが好きになっていった。早く図書館に行って他の本も読みたくて仕方ない。

今回はそのうち「あの子が欲しい」の方について読書感想文を書きたいと思う。
※ネタバレを含みますのでご注意ください

  ○○○

この本の表紙は、スーツ姿の男の人がずらりと並んでいてて、タイトルがあの子が欲しいだったので見た瞬間、花いちもんめの歌を思い出した。
婚活市場をテーマにした小説かなぁ?と想像して読んでみると、新卒採用がテーマだった。

新卒採用のプロジェクトリーダーに選ばれた志保子の視点で物語は完結する。
中堅IT会社に転職して数年が経った志保子。
そんな外様大名の志保子が任命された理由は、昨年の新卒採用がことごとく失敗したため。

親しみをアピールしようとして過剰になった内輪ノリやその他にも様々な要因で、就活生及びその両親のなかでのイメージは最悪になり、内定を出したあとに辞退されることもあり。
内定獲得ではなく、人材獲得(つまり入社まで)をノルマとされ内側からも外側からも改革を起こして奮闘する物語。

就活は騙し合い。
そう強く思わせるエピソードばかりで、人の感情のドロドロさの話が好きな私には面白く読み進めることができた。

あと単純に志保子の仕事っぷりが見てて気持ちがいい。
昨年はフレンドリーに軸を傾けすぎた失敗を挽回するために、就活生の親からも信頼を得るために保護者向けセミナーや、茶道などのマナー講座を行い地道に信頼を積み重ねていく。
もちろん他の企業も行う社内ツアーや、女子学生限定の女子会なども行い、昔は業界内で最低の評価だったこの会社も、徐々に就活生の間で人気になっていく。

順調に物事が進んでいき、成功に近づいていくようにみえる。

しかし、これはあくまでも志保子目線でのストーリー。
自分の悪いところや失敗って、あまり見えてないというか、見たくないというか。
飲み会でも、失敗談を盛って話すことはあるけど、たいていは良いこと話そうとすると思う。

だから、志保子にとって都合の良いことが主に書かれているように思えた。

そんな志保子に、現実は甘くないぞと冷水をかけるような文章が要所要所にあり、ぞくっとする。

例えば志保子が猫カフェに訪れるエピソード。

感想サイトを見ると、なんでこのエピソードがあるか分からないなど不評だったけど
私は、このエピソードがあるからこそ志保子の人間味を感じられたので面白かった。

帰宅中、会社の近くにたまたま猫カフェを見つけた志保子。
いつも夜遅くに帰宅するので行けないけど、ある日ちょうどタイミング良く行くことができる機会があって、訪れてみると
実家で昔飼っていた猫と似ている子がいることに気づく。

物語が進むにつれて、採用活動もどんどん忙しくなり、プライベートもうまくいかなくなる志保子。
どんなに落ち込むようなことがあっても、リーダーとして昼夜走り回らないといけない。

面白いのはここから!

最初の心が充実していたときは、そんなに訪れることもないだろうと買わずにいた回数券を、このころになるとスタンプカードが貯まるくらい通っていたり。
昔飼っていた猫がいても、クールに振る舞えていたのが最終的には・・・。

キャリアウーマンで颯爽と仕事をこなし、活躍している人もこんなにも弱い部分があるのかと読んでてしみじみ思った。
志保子は人に弱みをみせるのが苦手そうなので、余計に。

そういう志保子の心の揺れ具合を感じさせるために、猫カフェのエピソードがあるんだと考える。
なのでもしこれから読む方は、ぜひこの猫カフェのシーンは注意深く読んでいただきたい。

そして、この本が伝えたいことって、人を選ぶ立場になったときの精神の危険性じゃないかなと読んでて考える。

採用担当になり会社の権限で、1年間ずっとこの人はいる、あの人はいらない、この人は…と考えているとだんだんと自分は人を選べる特別な立場なんだと、まるで神になったかのような気持ちになってしまうのではないか。
その時、自分の心とどう向き合うのか。

志保子はどのような選択をしたのか。
そう考えて読んでいくと、とても面白いと思う。

  ○○○

今回の本は、自分の就活時代を思い出して似たような採用活動もあったなぁと思えたりとても面白い本でした!
朝比奈先生の本、今年は色々読んでみようと考えています。

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