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茶カマ

 11月下旬に差し掛かろうという時、時期外れのカマキリがベランダに現れた。しかも、縁起がいいとか聞く「茶カマ」。グゥワッと斧を振り上げる。カッコイイ。
 子どもの頃は、さして珍しいものでもなかった。メダカもエビもザリガニも田んぼの用水路でよく捕まえた。田のわら焼きの火で焼いて食ったこともある。しかし、例えばメダカは2003年5月に環境省が発表したレッドデータブックに絶滅危惧種として指定された。また、稲刈り後の風物詩のわら焼きは、大気汚染や人体への悪影響、交通障害の原因になるということで、条例で原則禁止されているという。
 当時と今とが違いすぎて、少年時代の思い出が単なるノスタルジーの創造物であるかのような錯覚に囚われる。ただ、カマキリを見て、改めて「少年時代」の存在の確信を得た。こういう、過去から今まで継続している具体的なモノを媒介として、人は懐古する。自分の存在を確かめることができる。カマキリが絶滅危惧種に指定されたら、日常的にそれを確かめる機会も絶滅する。

 
 久しぶりに見たけど、やっぱりカッコいいからテンションが上がる。特に子どもができてからは、宝探しをするかのように昆虫を探している。子どもにとっては、ダンゴムシでも嬉しいのだから、カマキリなんて、神だろう。
 何歳になっても男の好きなものは変わらないなーと思う。ずっとドラゴンボールやキン肉マンが好きだ。女の子は、きちんとプリキュアから卒業できるのに。

 カマキリといえば、「ストライク」だろう。「ポケモン赤緑」世代のぼくは、リザードンと並ぶくらい好きなポケモンの一つだった。
しかし、赤と緑でゲットできるポケモンが一部違ってて、「赤」にしかストライクは出なかった。ストライクと対になるポケモンは、「カイロス」。まるで親指と人差し指でピースしたような見た目で、しかも弱い。剣を持っているわけでも火を吹けるわけでもない。
緑を選んだ最大の後悔と言っても過言ではない。

 1996年に「ポケットモンスター赤緑」が発売されてから、ポケモンの世界が日常化したらいいなと思っていたその20年後の2016年に、AR技術を使った「ポケモンGO」が登場した。当時は、脇見運転による事故や深夜でもポケモントレーナーがあちこちに出没して問題になった。こうはなりたくないと思ってアプリを消したのを覚えている。それはともかく、ある意味では、もっと前からポケモンの世界は現実化していて、それをポケモンが象徴していると考えることもできるかもしれない。 
 あと10年もしたら、もはや象徴でなくなるかもしれない。ポケモンの世界に人間がお邪魔する日も近いだろう。いや、それらの二つの世界は融解し、一つの新しいリアリティを持つようになっていると思う。そんな世界になった時、ぼくは、あの「茶カマ」のように斧を振り上げて、はかなくも抵抗できるだろうか。

 「茶カマ」を見る息子の手をキュッと握る。

あなたの何かを、心許り充たせる記事をお届けするために。一杯の珈琲をいただきます。