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#6 お通夜の価値【前編】

こんにちは。
~蓮華の笑顔で花道を飾る~
株式会社花道代表の木下英之です。

コロナも大分落ち着き、この春はお花見や観光地の人出が大分増えてきました。ご葬儀業界では、ここ数年クラスターなどの懸念から、人が集まるお通夜を行わない「一日葬」の需要が更に高まりました。

日常が戻りつつある今、「お通夜」も戻ってくるのか?その価値を一緒に考えてみましょう。

※内容は、前編・後編に分けてお届けします。ぜひ後編も併せてお読みください。


1.お通夜とは

「お通夜」というとどんなイメージでしょうか?
一般的には、親族をはじめ知人・友人など、故人様と縁のある人々が集まり、在りし日を偲ぶ時間。仏式であればお焼香をして、その後にお寿司や天婦羅といった「通夜振舞い」を皆で召し上がっていただく。関東ではそんなイメージだと思います。

お通夜は、仏教のイメージが強いかもしれませんが、神道やキリスト教でも葬儀・告別式の前に行われます。

また、お通夜には「仮通夜」と「本通夜」があり、「仮通夜」はご遺族のための儀式と言われ、故人様とご遺族とで一晩を共にします。基本ご遺族だけで行いますが、地域・宗派によっては、僧侶を招き、仮通夜のご回向をしていただくこともあります。

一方、「本通夜」は親族や慰問客に参列してもらう正式なお通夜です。一般に「お通夜」といわれるのは「本通夜」を指します。
昨今は、ご遺体が自宅ではなく、直接斎場や安置設備に行かれることが多くなっていることから、仮通夜は行わず、葬儀前日の本通夜を「お通夜」とするケースが一般的になっています。

2.従来のお通夜

従来のお通夜は、ご遺体を安置した部屋で朝まで灯りをともし、ろうそくやお線香を絶やさないよう枕元でご遺体をお守りし続けました。そういった「寝ずの番」を夜から朝まで通して行うのが「お通夜」の語源のようです。故人と長い時間を共にし、息が戻らないことを確認する。そのために、お通夜があったとも言われています。

現代では、心拍停止、瞳孔散大、呼吸停止の3つをもって死と判定しています。しかし、その基準がなかった時代には、何をもってお亡くなりになったのか、その判定があいまいでした。

例えば、1872(明治5)年に愛媛県でおきた「田中藤作蘇生事件」はご存知でしょうか?
ある事件がおこり、田中藤作という人が逮捕されました。田中さんは絞首刑として処刑され、棺桶に入れられた状態でご遺族に引き渡されました。
ご遺体が故郷に戻る道中でのこと。にわかに棺の中からうめき声が…その後、田中さんは救出され、完全に蘇生。その後26年間、生きたといわれています。
今となってはツッコミどころが沢山ありますが…

また、よくお通夜にはお線香を絶やさないというイメージがあるかと思います。香りをお供えする以外にも、昔の衛生状況を思えば、遺体の臭いを緩和するという実用的な面でも、線香の煙や香りが必要だったのかもしれませんね。

明かりを絶やさないという行為については、日本古来の風習で、喪中であることを周囲に知らせる役割や、ローソクの火で故人の旅路の足元を照らすという意味合いもあったようです。

ちなみに、日本では古代に行われていた殯(もがり)と呼ばれる儀式が存在していました。葬儀儀礼のひとつで、故人が亡くなってから埋葬するまでの期間、棺に安置した死者を見守ります。
その間は、死者のことを考え、その魂を慰めながらご遺体の変化を見守ることで物理的に死者が亡くなったと認識するために行われていました。
殯(もがり)は古事記や日本書紀などの歴史書や万葉集などでも記述が見られており、具体的な儀式の内容は不明とされながらも古代には執り行われていたとされています。

3.現代のお通夜~半通夜~

時代の流れとともにお通夜も変化しています。

近親者が故人に夜通し付き添う「寝ずの番」も少なくなり、夜は帰宅、就寝するようになりました。その背景として、家族葬の普及で近親者のみのご葬儀が増え、また高齢化によりご遺族も体力的に厳しいなどの理由があげられます。
また、自宅でなく斎場での葬儀が増えたことにより、防犯・防災上の理由から一晩中火をつけておくことを禁じている斎場が多いことも原因の一つです。

そして、冒頭お伝えしたようにコロナの影響で、葬儀式の簡略化が更に加速し、お通夜を省いた「一日葬」が非常に多くなってきました。特に食事を伴うお通夜は感染防止の面から激減しました。

ただ、こうして古来の殯(もがり)などの意味を考えていくと、何か重要なヒントが隠れているように思えます。
命、絆、恩といった従来「当たり前」に存在した大切なものが段々と忘れ去られていく現代で、それを思い出させてくれる価値。生きている人にとって、残されたものにとっての価値。そんな価値が隠れているように思えるのですが、みなさんはいかがでしょうか?
私たちのご先祖は、そのご先祖のご遺体の前に佇み、一体何を考え、何を感じていたのでしょうか?



おわりに

政府は新型コロナウイルスの感染法上の分類を、5月8日から季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げると決めました。果たしてお通夜はもとの形に戻るのか、このまま「一日葬」が葬儀の主流となるのか、いずれにしても、私たち葬祭にかかわる者の使命はお通夜の価値を再定義し伝えていくことではないかと思います。
後編では、コロナ禍におけるお通夜の取り組みと、これからのお通夜の価値について更に深掘りしていきます。


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