「デザイン経営」とはどういうことか
先日、こちらの記事で、サービスとUXとデザインの関係について、全体を俯瞰する視点で一旦まとめました。今回は、それらと経営の関係についてまとめたいと思います。
経営=ステークホルダー全員のUXを向上させる取り組み
経営とは、サービスやブランドを通じてステークホルダー全員のUXを継続的に向上させる取り組みであると整理しました。
継続的にUXを向上させる方法=サービスデザインによる発見
UXに影響する要素の一つとしてサービスがあり、
サービス「の」デザインを行うことで、継続的なUXの向上に寄与できます。
サービス「の」デザインとは、図のこの部分のことを指すと整理しました。
サービスデザインの定義
上記の図と同様のことは、サービスデザインを取り扱う様々な書籍でも定義されています。
サービスデザインとは、ひと言でいってしまえば、既存の事業体視点ではなく顧客観点で事業を全体的に見直す=再構築(リフレーミング)するための方法論です。
ー長谷川敦士.『サービスデザイン』 (2014)
サービスデザインは、ビジネスや社会を取り巻く環境の変化に対して、使用価値の共創やリソースの統合といった視点から事業の改善や改革、創出の機会を見つけだし、実現させるデザインの方法である
ー武山政直 『サービスデザインの教科書:共創するビジネスのつくりかた 』(2017).
「サービスデザインとは、サービスの質と、サービス提供者と顧客の間のインタラクションの改善を目的として、人・インフラ・コミュニケーション、そしてサービスを構成する有形の要素をプランニングし、まとめあげる活動である。」
-Wikipedia
サービスデザインを実践する組織が目指すこと
サービスデザインが目指すゴールは、サービスの実現だけではなく、
デザイン手法による発見・思考法によって、
ユーザビリティが向上し、UXがよりよい方向に向き、
社会がより豊かになること
です。
サービスデザインで継続的にUXを向上させ、
経営に好循環をもたらすという活動は、
料理に例えていうならば、
「道具を使うこと」ではなく
「道具でなんの料理をつくるか」を問うこと、
さらには「その料理がおいしそうか?」を共有し一緒につくることです。
その活動にはデザインの力が存分に発揮できるフィールドがあります。
ここで経営とデザインが繋がります。
デザイン+経営
デザインの最大の力として、「可視化」と「伝達」があると考えています。
社外への「可視化の力」と「伝達する力」はブランドメッセージとなり、
社内への「可視化の力」と「伝達する力」は文化の醸成に繋がります。
その効果を最大化できている組織が、デザインを経営に活かしている組織だと言い換えてもいいでしょう。
デザインによる見立て=経営におけるデザイン
意味のイノベーションにも通じる観点かもしれませんが、
デザインとは社会に対する「新たな発見」ではなく
「実はもう存在している視点(意味)を掘り起こす」こと、
「見立てること」にほかなりません。
あるいは、「自身が提供できるもの」と「必要とされてるもの」の
マッチングを「見立てる」要素もあるかもしれません。
すなわち、
ビジネスをスペキュラティブにデザインする(見立てる)ことが、
経営におけるデザイン と言えます。
経営におけるデザインを推し進める方法が「デザイン経営」であり、
そのための組織体制が、「デザイン経営」組織といえます。
「デザイン経営」宣言とのマッチング
以上のような定義は、経済産業省・特許庁の発行した「デザイン経営」宣言にも書かれています。
デザインは、企業が⼤切にしている価値、それを実現しようとする意志を表現する営みである。
「デザイン経営」は、ブランドとイノベーションを通じて、企業の産業競争力の向上に寄与する。
イノベーションの本来の意味は、発明そのものではなく、発明を実用化し、その結果として社会を変えることだとされている。
革新的な技術を開発するだけでイノベーションが起きるのではなく、社会のニーズを利用者視点で見極め、新しい価値に結び付けること、すなわちデザインが介在してはじめてイノベーションが実現する。
「デザイナーは、技術と人間中心的視点をうまく組み合わせることでイノベーションを起こすのだ」
出典;「デザイン経営」宣言(経済産業省・特許庁,2018年)
では「デザイン経営」ができる組織とはどのようなものでしょうか。
従来型ピラミッド組織での限界
上意下達のピラミッド組織においては、しばしば、その成長およびリスク回避の戦略として、定期的に組織長が異動したりします。また、ピラミッドを構成する下位構造どうしは情報共有が難しくなり、サイロ化します。
そのような組織において、果たして、社会のニーズに継続的に寄り添うことができるのでしょうか?
目先の利益の追求がインセンティブになるような組織では、定量化できないユーザーの感情・心理・誘導などによる相対的な行動変容を継続的に経営に活かしていくことはできないと考えます。
「デザイン経営」ができる組織
「デザイン経営」を実践する組織については『デザイン組織のつくりかた』に以下のような言及があります。
「デザイン経営」を実践するには、
①経営チームにデザイン責任者がいること
②事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること
の2点が必要条件
ーピーター・メルホルツ,クリスティン・スキナー, 長谷川敦士『デザイン組織のつくりかた-デザイン思考を駆動させるインハウスチームの構築&運用ガイド』(2017)
この部分だけではいささか外形的すぎる気がしますが、これを参考に「CXOを据えればいいんだね!」としても成功することは少ないでしょう。
先日発行された「デザイン経営」ハンドブックでも、そのあたりが透けて見えていました。
それが明らかだと思ったのは、デザイン責任者が経営に参画しているにも関わらず、デザインに期待するものが「サービスの企画設計」や「プロダクトの外形」であったからです。
当然、その「デザインする対象のミスマッチ」は課題として浮かび上がってきます。「デザイン経営の課題と解決事例」では全社的な意識の不統一、さらに言うと、やることはブランディングなのかイノベーションなのか組織改革なのか、といった点の解決には至っていないということがみてとれました。
ビジネスを見立てて、サービスやブランドを通じてステークホルダー全員のUXを継続的に向上させるには、
CXOやデザイン管掌役員を外部から連れてきて据えるだけだったり、
たんにスタイリングができるグラフィックデザイナーを経営陣に昇格させるだけでは足りない。
では、具体的にどのような組織構造になるんだろうか?次回かきます。
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