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あなたの理想のケアとは?

あるイベントの申し込みフォームに「あなたの理想のケアは何ですか?」という質問があった。200字以内で書くという難問だ。
私は理想のケアとは当事者が理想のケアとして答えを出すものであり、支援者視点で理想のケアを語るべきではないと捻くれた考えをしている。そうすると答えは成立しないので、この質問に関しては、あなたの理想のケア=私が受けたいケアと理解して入力することにした。

「皆さぁん。お元気ですか?」というCM
40歳以上の方なら多分ご存知のキャッチコピーだと思うが「くうねるあそぶ」が僕の出した答えだった。くうねるあそぶとは、1988年に日産自動車のコマーシャルに使われたキャッチコピーで「食う」「寝る」「遊ぶ」を一つの言葉で表している。このコピーを考えたのはコピーライターの糸井重里さんである。

美味しいの概念
まず、「食う」「寝る」は生きていく為にとても大切な事である。例えば「食べる」とは、いつ、何を、どこで、どれくらい、誰と…等、色々な要素が重なって「食べる」という行動につながっている。
話は少し逸れるが、以前「美味しい」という概念を研究で調べた事があり、概念を示している文献がなくて苦慮した経験がある。JAS規格だったと思うが、「美味しい」の概念で示されていたのは、味だけでなく、匂いや見た目の色彩、食べる時間や場所、そして誰と食べるかいった部分が美味しさを作り出している。
つまり、味覚だけでなく、視覚や嗅覚、食べる環境によって美味しさの感じ方が違うという事である。確かに昔、富士山の頂上で食べた豚汁は最高に美味しかったとか、上司や偉い方々との会食はどんなに高級な料理であっても美味しいと感じなかったとか、自分の生活の中でも美味しいの基準は環境によって変わる事が理解できる。
食べる(食事)の理想のケアとは、どんなに介護が必要になっても、いつ、何を、どこで、どれくらい、誰とという当事者の思いが満たされる事が重要だと思う。


遊ぶの意味
生きていく為に大切な「食べる」「寝る」の他に「遊ぶ」とはどういう事だろうか。
遊びを広辞苑で調べると、①あそぶこと、なぐさみ(心がなごやかになること)、②仕事や勉強の合い間、③気持のゆとりや余裕、④機械の部分と部分とが密着せず、その間にある程度動きうる余裕のあること等、多くの意味がある事が分かる。色々な解釈があると思うが、私が考える理想のケアでの遊ぶとは、介護が必要になっても心のゆとりを持てる事だと考えている。
当事者自身の心のゆとりが持てる事は当然の事であるが、心のゆとりとは介護者や家族、当事者を取り巻く人達にも必要な事である。逆にその人達の心のゆとりがなければ当事者がゆとりを持つ事は出来ないのかもしれない。

「くうねるあそぶ」の実現
支援者が当事者の「くうねるあそぶ」を実現するために何を重視するか(理想のケアの実現)は当然、意見が分かれると思う。しかし、当事者の健康管理やリスクマネジメント、制度や制約等を理由にして(もちろん大切な事が前提である)建設的かつ理想的なケアの実現にブレーキをかけているケースは多くあると思う。
今一度、支援者として、専門職として、一人の人として何を大切にして、何を追求して、何を実践するのか、コロナ禍の長期化によって更に理想のケアの実現、理想の暮らしの実現の実践力が試されていると感じている。

土曜日の午後
ビールを片手に大好きな柿の種を食べて、ソファーで寝そべりながら吉本新喜劇を観て大笑いし、何からも解放された土曜日の午後、「くうねるあそぶ」がたくさん詰まった時間だなって思いながら、この日常の時間が介護が必要になっても同じ空気感を感じられたら嬉しいと思う。
決して特別な事ではないはずだ。

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