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私を救った音楽(1)ルネサンス期の宗教曲

2021年にうつ病を発症し、休職した後は、何をするのも面倒になりました。寝ても寝ても眠い状態の中で、私の乾いた心を癒したのは、やはり音楽でした。

一口にクラシック音楽といっても、その歴史は長く、曲調も多種多様です。うつ症状が酷い時期の自分には、19世紀ロマン派以降の音楽は、振幅の大きくて苦手になりました。ダイナミックレンジが広いので、トロトロと寝付いたときに、フォルティシモにたたき起こされてしまいます。動悸の原因になるので聴かなくなりました。

もっぱら聴いていたのが、ルネサンス期の宗教音楽です。起き上がることすら面倒なので、スマホに入れておいた楽曲をBluetoothで飛ばし、小型スピーカーを耳元に置いて聴いていました。

私はクリスチャンではありませんが、若い頃から合唱に親しんできたため、他のクラシック音楽好きの方よりも、宗教音楽に拒絶感がありません。合唱団の良し悪しもすぐわかるので、一定維持の水準でないと、コレクションに入れません。

今でこそ市民権を得た古楽器演奏の萌芽は1970年代でした。レオンハルト、ブリュッヘン、ガーディナー、ピノック、ホグウッドなどなど、多士済済の演奏家がこぞって、クラシック音楽界に革命を起こしました。

彼らによって、バロック時代の音楽の名演奏が次々に生まれましたが、それと時を同じくしてら更に古いルネサンス期の宗教音楽を得意とする優れた合唱団も生まれました。

無伴奏(ア・カペラ)の合唱の場合、団員の高度なスキルが必要です。声質も、ロマン派以降のオペラ歌手のようなビブラートがかかった声は向きません。精緻なアンサンブルのためには、ノンビブラートでなければなりません。音程もシビアにピタッと決めねばならない。

私は大学生の頃、初めてルネサンス期のポリフォニーに触れました。ハーモニーの素晴らしさに愕然とし、その抗し難い魅力に取り憑かれました。社会人になって以降も、少しずつCDを買い足していきましたが、それが、五十を過ぎた私を救ったのです。

ここでは、ルネサンス期の音楽のスペシャリストを紹介しましょう。

・タリス・スコラーズ(指揮:ピーター・フィリップス)
指揮者ピーター・フィリップスによって1973年に結成されたルネサンス期の宗教音楽を専門とする合唱団。この時代の音楽演奏を語る上で、この団体のことを触れないわけにはいきません。これまで買い貯めたCDは十数枚。どれをとっても素晴らしいです。

個人的には、デビュー盤のパレストリーナのミサ「教皇マルチェルスのミサ」をはじめとした、1980年代の録音が特に好きです。大学生の頃、バードの3声、4声、5声のミサや、タリスの40声のモテット「御身のほかに我は」を聴き、バロック期より前に、こんな素晴らしい音楽があるのかと驚嘆しました。

ヴィクトリアの「レクイエム」、パレストリーナのミサ「ニグラ・スム」など、何度聴いたでしょう!録音から40年近く経っても、その魅力は全く色褪せません。

今年来日が予定されています。

・ヒリヤード・アンサンブル
ポール・ヒリアーによって結成されたスーパーアンサンブル集団です。ヒリアーは1980年代に退団しましたが、その後も、ルネサンス期から現代音楽まで幅広いレパートリーを演奏しました。アルヴォ・ペルト(1935-)のアルバムでも素晴らしい歌唱を聴かせてくれます。

学生の時、彼らがECMに録音したタリスの「エレミアの哀歌」を聴き、言葉にできない魅力に取り憑かれました。ところどころのメロディーが頭の中から離れないのです。モノクロ写真のジャケットが実に印象的です(焼酎いいちこのテレビCMの世界に似ているように感じるのは自分だけでしょうか)。

15世紀に活躍したヨハネス・オケゲムの《レクイエム(Missa pro Defunctis)》や、《ミサ・プロラツィオーヌム(種々の比率のミサ曲)Missa Prolationum》を初めて聴いた時のインパクトは忘れられません。初期ルネサンスの音楽の魅力を私に教えてくれた大切なCDです。

・プロ・カンティオーネ・アンティクワ
彼らが活躍したのは、上記の2つの団体よりひと世代前になりますが、名歌手揃いのアンサンブルです。テノールのポール・エリオットは、後にヒリヤード・アンサンブルのメンバーになりました。彼らは、ハーモニーも素晴らしいのですが、透明感よりも人間的な温かみを感じます。CARLTONレーベルに録音されたパレストリーナの宗教音楽集が、BrilliantからCD5枚組で廉価盤として発売されています。この演奏、何とも言えぬ味わい深さがあります。

この他にも、素晴らしい演奏は数えきれない演奏は数えきれない程あるのですが、とりあえず今日はここまでにします。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。




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