コロナ禍で収入激減! 沖縄のトゥムヌイ福祉会の新たな挑戦
沖縄にあるトゥムヌイ福祉会の障害者就労支援施設イノーは、障害のある方27名が働く就労継続支援B型事業所として、道の駅というロケーションをいかして、ターゲットをインバウンド(海外からの観光客)集客に特化した、「沖縄式焼肉ばんない」(焼肉屋さん)の運営をしていました。
ところが、コロナウイルスの影響でメインターゲットのお客様が渡航規制を受けたことにより店舗を休業し、年間7000万円ほどあった収入が0円になってしまいました。休業により業態変更が余儀なくされましたが、これを新しいことに挑戦するチャンスととらえ、これまでやってこなかった農作業やクラフト作業、YouTube配信などの活動を新たに始めました。
「コロナになってお客さんがゼロになり大変でしたが、逆にやりたいことにどんどん挑戦できるようになりました」
そう語るのはスタッフの瀬底美月さん。先日のオンラインイベントでは代表の喜納さんと現場のスタッフのみなさんにもお話をお聞きしました。
(*文中特にお名前の表記のない発言は、瀬底さんのご発言です)
これまで運営してきたのは沖縄に遊びに来ていた観光客への焼肉屋さん
Q. お仕事の内容を教えてください。
コロナが流行するまえは、わたしたちの就労支援事業所では焼肉店舗の運営と、バーベキュー商材を製造し車で5分ほどの場所にあるビーチに卸すというしごとをしていました。焼肉屋さんでは、障害のある方がレジ業務から接客、調理、清掃など様々な作業を行っていました。
法人内の別事業所では、伝統工芸の銀細工の手法を用いたアクセサリーの制作も行っています。
Q.働いているのはどのような障害の方が多いんですか?
知的障害と発達障害を持っている方が多いです。また、身体障害がある方が1名いらっしゃいます。精神障害がある方はいらっしゃいません。
Q. 障害のある利用者さんは接客して注文を取ったりするんですか?
はい。バイキング形式の焼肉屋で、入店時にお金を払う前払いシステムになっています。そこでのレジ対応や席案内を利用者さんがやります。また、ビールの注文を受け、ジョッキについで客席に運ぶまでの一通りを利用者さんがやっています。接客をやりたい方が主に利用する事業所です。
Q. すごいなと思ったのは焼肉屋さんに日本にきた海外のお客さんを団体で呼び込むようなシステムを作っていたんですよね。
はい。そうです。120名まで入れる広い店舗があって、観光に来てくれる海外のお客様をメインターゲットにして、営業していました。食品ロスを減らし、みんなの働きやすい時間にするため、予約のある時だけ営業するスタイルでやっていました。
元々一人ひとりの個性を生かしてやりたいことをやってもらうスタンスで
Q.焼肉屋で収入を得てしっかり仕事をされているイメージだったんですが、同時に一人ひとりの個性や表現を生かしながら活動しているイメージもあるんですね。その辺りは皆さんで作り出しているものなのですか?
そうですね。やっぱりその人の個性を生かしながらじゃないとその人も多分楽しくないはずだし。こっちもなんだか苦しいじゃないですか。
その人がやりたくないことを無理やりおしつけたりするとお互いのためにも良くないので。やりたいことをやろうっていうスタンスでやっています。
お店を休業してから新しく始めた農作業
Q.お客さんがかなり少なくなったので、いろんな展開をされたとお聞きしました。コロナが始まってから現在まで、どのように仕事を変えて来ましたか?
店舗は2020年の2月から休業して、今は全くやっていない状態です。メインの海外のお客様の入国制限が始まってしまって。県内のお客さんは来ていたんですが、メインのお客さんがゼロになってしまったので休業に踏み切りました。(*2021年10月現在も休業中)ビーチの方は一応まだ続けていますが、お客さんも発注もすごく減っている状況です。
新しい取り組みとして、農作業をはじめました。障害のある利用者さんの工賃を生み出さなければいけないため、市内の農家さんと提携して施設外就労として草刈りをしたり、肥料をまいたり、種まきをしたり、収穫と袋詰めまでをやっています。
どんな作物を育ててるんですか?
ゴーヤーやピーマンなどです。ビニールハウスで作業をするんですが、ハウスの気温は夏だと50度とか超えるんですよ。
50度…!
はい。めちゃめちゃ暑く暑くてすごく大変なので、なかなか1日を通しての作業は難しいとなって。午前午後で畑の作業とそうでない作業を作ろうとなりました。それがクラフト作業です。
商品としておろせない素材を価値を高めてリサイクル
牛乳パックをアップサイクルしてカバンを作っている会社(Le coconル・ココン )と提携して、コンビニでカフェオレに使われている牛乳パックを回収し、洗浄して、クシャクシャするシワ加工の作業をさせてもらうようになりました。
なので、午前中事業所内でしわ加工の仕事した人は, 午後は外で畑仕事をするなど時間でくぎって分担しています。
でも牛乳パックの切り方を間違えたり、シワ加工の段階でいいシワができなかったものは卸せなくって。卸せない牛乳パックの素材を使って何かできないかと思った時に、アップサイクルとしてその素材を加工しよう、と自分たちでもブックカバーやティッシュカバーをつくってみました。
紙も作ってみよう、と紙も作り出したので、張り子人形を作ったりいろんな作業の展開ができるようになりました。
そこで利用者さんの得意や不得意がわかったんです。やりたいことがどんどんできるようになってきました。イラストが得意な方は、その方のイラストを使ってポチ袋のデザインをしたり。という感じで紙製品をどんどん作るようになってきました。
手作りしたポチ袋。牛乳パック→紙科をつくる→紙すき→封筒づくり と全て手作業です。作ったグッズは地域のイベントやminneやcreemaなどの手作りサイトでも販売中。
新しい展開を始めて利用者さんの反応&いまの沖縄の状況について
Q.利用者さんは自分たちの絵が商品化されることにどんな感想を持っておられますか?
めっちゃ喜んでいます。笑 今までは自分で絵を描いても、描いて終わりみたいな感じだったんですけれど。今はそれを集めて作品展にしたり、展開して商品にしたりするので、表現することがあって、より好きになっているなーって感じます。(稲福さん:デザイン&広報担当)
Q.沖縄の他の福祉の団体の仕事がどう変わっているのか…。わかる範囲で教えていただけますか。
どんどん仕事少なくなってきているみたいで。閉めているところや時間を営業少なくしている対応をしているところもあるみたいです。
観光業に紐づいたお仕事も多いですよね。沖縄は。
レンタカーの仕事に勤めている方はお仕事がなくなって、辞めざるを得ない状況になったりとか。観光は本当に大ダメージです。
Q.焼肉屋さんが今閉めている状況だと思うんですが、コロナの状況が好転したらまた再開する予定ですか?
はい。入国制限が解除されてお客さんが戻ってきたら営業を再開します。
Q.利用者の方もいまは畑仕事だったり、絵を描いたり色々されていると思うんですが、いつかその焼肉の仕事に戻るぞっていう気持ちもあるってことですか?
やっぱり接客や調理などの方にやりがいを感じていて、そっちが好きな方もいらっしゃるので。その人たちは焼肉を頑張って頂いて。
その一方で、今回初めてアートやクラフト作業をやってみて好きだなと感じた人は、逆にそっちもできるようになったというか。やりたいことを自分で選べるようになったかなーと思います。
変わってきた職員の意識 / 「お客さん第一」「決められたことを決まられた通りに」からもっと自由な発想へ
Q.職種自体がコロナによって広がったとのことですが、職員さんの意識の変化はあるんでしょうか?もともと焼肉屋としてサポートすると思っていた方々が、畑とかいろんな表現やものづくりに活動が変わっていくんですけれども、職員さん自体がそういう変化についていくことはできましたか。
以前は与えられたことをこなすことを頑張っていたんですよ。接客業というのもあって、お客さんが一番大事で。利用者さんにも決まったことを決められた通りにできるように、って。職員もそういう意識だったんですね。
でもいまはもっともっと自由な発想で取り組めるようになりました。
こうした方がいいんじゃないかという工夫の提案だったり、もっとこういう風にやってみようよ。とこれからの展開を考えることが、意見として出てくるようになりました。その分モチベーションが上がったのかなと思います。
自由な発想で作業に出取り組むことができるようになって、利用者さんからもいろんな意見が出てくるようになったんですね。こういう風にやってみたいとか。それでYouTuberになりたい人がいて。「え、じゃあYoutubeやってみる?」みたいな感じで。
利用者さんのやりたいことで工賃を生み出す仕組みが作れたらいいなと、動画サイトやウェブコンテンツを充実させていくチームを作りました。そこから今までのようなアート作品を売ったり、描いてもらったイラストをグッズに展開して売るっていうやり方ではなくて。YouTubeで利用者さんの作品が完成するまでの過程の動画作成をしました。
再生数が上がるにつれて利用者さんの工賃が上がる仕組みが作れたらと思っています。
より利用者のキャラクターが見えるようなコンテンツがどんどん増えると言うことですね。面白いですね。
はい。YouTubeもできるし、好きな作業もできるし。すきなことでどんどん工賃を生み出す仕組みを作って行こうよ という取り組みに挑戦しています。(瀬底さん)
あとはTikTokで遊んでいます。(代表 喜納さん)
上:トゥムヌイ福祉会代表、喜納平さん。今回は瀬底さんたち若いスタッフに任せ、優しく見守る一方で「自分はいいです」と最初は遠慮されていたのですが、こちらのリクエストに応え少しだけ前に出てお話してくれました。
動画あげるのもお仕事の1つですよね。それは柔軟にやっておられて面白いですね。
制作風景だけ7時間ずっと撮り続けるとか。定点で撮影していると流しっぱなしとかです。焚き火と一緒です。焚き火と。キャンプみたいなノリでずーと撮りまくります。あとは投げ銭とかですね。(喜納さん)
Q.焼肉屋さんがきっと売り上げとしてはすごく大きかったんじゃないかと思うんですが、いろんなことに挑戦したのは素晴らしい。売り上げ自体はなかなかカバーできない感じなのですか?
売り上げのカバーはできないです。全く。年間7千万円くらい売っていたのでそれは回収できないですね。去年1年間はなんとかやり過ごしたんですけれど、これからどうするかはまた考えないといけない。(喜納さん)
逆にやりたいことにどんどん挑戦できるようになった
Q かわいい絵もたくさんあるんですけれど、もともと描かれていたのか。それともコロナで才能が開かれた方もいるんですか?
もともと趣味で描いていて、それがグッズ展開できるようになって。仕事としてできるようになって。という感じです。コロナ前からやっている方が多いです。
その描いている方を見て影響を受けて、「ああ、じゃあ自分もやってみようかな」とやってみる人も増えてきて。いい影響が今広がっていっている感じです。(瀬底さん)
そういう意味ではコロナがあって時間の余裕が生まれてきた感じですね。
そうですね。コロナで時間の余裕もできたし、心の余裕もできたっていう感じです。
コロナでお客さんもゼロになったりして大変で。今までとは違うことをしないといけないっていう大変さはあったんですけれど、それよりもやりたいことにどんどん挑戦できるようになったっていう感じです。コロナになったことが、いい機会というと変ですけれど、そんなに悪くなかったかなと思っています。(瀬底さん)
いろいろお話を聞かせて頂いてありがとうございました。
今回メインでお話をお伺いしたスタッフの瀬底さん(左)と代表の喜納さん(右)。動物園フォトブースを建てたときに作成したというキリンの特大クッション, スタッフの稲福さんも一緒に,いろんな写真やグッズを見せてくれました。
(イベント当日聞き手:岡部太郎& 当日参加者の皆さん
トップ画像制作 トゥムヌイ福祉会 稲福さん )
*この記事は、4月16日に行われたオンラインでの「コロナ禍における障害のある人の仕事づくり」の情報交換会でのお話をまとめています。
* 本事業は休眠預金を活用した事業です *
「コロナ禍を契機とした障害のある人との新しい仕事づくり」は休眠預金等活用法に基づき、公益社団法人日本サードセクター経営者協会 [JACEVO]から助成を受けて実施しています。
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