一人ひとりと向きあう手探りの表現と仕事づくり | 社会福祉法人みぬま福祉会 工房集
新型コロナウィルス感染症(以下、コロナ)の影響がある中でも立ち止まらず、障害のある人とともに仕事を生みだしている取り組みがあります。そのような取り組みが今後の活動のヒントになると考え、「コロナ禍における障害のある人の仕事づくり」と題して情報交換会をオンラインで開催しました。本noteではオンラインで話された内容に加筆してお届けします。
今回ご紹介するのは埼玉県で活動する「社会福祉法人みぬま福祉会・工房集」。どんなに障害が重くても社会との関わりや働くことをつくりだしているみぬま福祉会は、表現活動の拠点として2002年に「工房集」を開設。コロナ禍においても、作品制作の継続や展覧会の開催、公募展への応募、オンラインショップの開設など、どのような障害があっても参加できる仕事の生みだす工夫を学びます。
[話者]
工房集 中村 亮子さん、渡邊 早葉さん
- 工房集について教えてください
「工房集」は社会福祉法人みぬま福祉会が運営している施設で、アトリエやギャラリーやショップなどが併設して表現活動を支えている場所です。
社会福祉法人みぬま福祉会は1984年に発足しました。「困難な状況にある人を切り捨てない」「 繋いだ手を離さない」「一人を大切にすることはみんなを大切にすることにつながる」ということを大きな柱として「どんな障害があっても希望すれば誰でも入れる施設」をめざしています。
現在(2021年4月)は、入所施設、通所施設、グループホーム、相談支援、居宅介護など 22事業を運営していて300名以上が利用しています。
私たちは施設を利用する人たちのことを「仲間」と呼んでいます。同じ時代をともに生きる仲間として、ともに働き、ともに生活し、ともに地域を創っていく仲間と考えています。
入所施設と通所施設で12ヵ所のアトリエがあります。300名の仲間のうち150名が表現活動を仕事にしています。
【表現活動を仕事にしていくために大事にしていること】
① "できる"ではなく"好きな"や"得意な"に当てた視点
② 主体性を大事にし、自分のペースで活動する
③ 余暇活動ではなく、表現活動を仕事にする
④ 社会とつながる
⑤ 新しい価値観が生まれる
2002年4月に「工房集」を開所しました。施設の仲間のためだけではなく、新しい社会や歴史的価値観をつくるために、いろんな人が集まって、外に開かれた場所にしていこうという思いを込めて「集」と名付けました。
表現活動を支え、ひろめて、社会とつながることで、仲間とともに社会をより良いものに変えていきたいと考えています。
工房集の機能としては、アトリエ、ショップ、ギャラリー、カフェがあります。アトリエでは現在13名の仲間たちが表現活動を仕事にしています。ショップでは仲間の作品から生まれたものをグッズにして販売しています。
-表現を仕事に:発信の機会をつくる
工房集では毎年30回ほど展覧会を開催したり公募展に参加しています。昨年(2020年)はコロナの影響で延期や中止が重なり展覧会に出展する機会は大幅に減りました。
そのような状況下においても「さいたま国際芸術祭」の中で工房集の『問いかけるアート展』を開催できました。もともとは2020年3月に開催する予定だったものが2回延期を経て、2020年10月にコロナ対策をしてなんとか開催することができました。
『問いかけるアート展』@埼玉会館 第3展示室
2012年に東京都美術館で工房集の作品展『生きるための表現』を開催したことがあり、そのときは121名の仲間の作品を展示しましたが、今回の『問いかけるアート展』は工房集の作家78名に絞って展覧会を開催しました。
コロナ禍でしたが来場者数は1000名を超え、感染対策をしながらも多くの方々に観ていただき、仲間たちも小グループに分かれて展覧会を鑑賞することができました。
※展覧会における感染対策
・来場者の検温、手指消毒、マスク着用
・連絡先(お名前、電話番号)の記入
・展覧会受付および物販会計で飛沫防止のシートを貼る
・団体でご来場の場合は、事前に予約していただき、会場の人数を制限
・会場が混んでいるときは受付で待っていただく
実は工房集には毎年2000名ほどの施設見学を受け入れています。しかし、コロナで見学者がほとんど来なかったり、展覧会の中止や延期があって、仲間の作品を評価される場が少なくなっていました。今回の『問いかけるアート展』を開催することで仲間たちのモチベーションを上げることにもつながりました。
展覧会の内容としては二部構成になっていて、Ⅰ部は30名の作家一人ひとりを個展形式で紹介し、絵画作品だけではなく、木工作品やホットボンドを使った作品などを展示しました。
Ⅱ部のテーマは「表現することは生きること」として、"スクリブル"、"イメージ"、"行為の痕跡"という3つのカテゴリーに分けて展示して、みぬま福祉会の実践を伝えました。
展覧会の作品集はオンラインショップでも販売しているのでぜひご覧ください。
公募展に関しては、 第一回アートパラ深川に応募をして、880点の応募の中から西川泰弘さんが大賞を受賞することができました。西川さんはNHK の『no art, no life』でも紹介されています。それから作家の林真理子さんの賞を田中悠紀さんが受賞したり、協賛企業の奨励賞に2人の作家(栗田英二さん、梅澤勝典さん)が受賞することができました。
「春」 西川 泰弘
さきほども言いましたが、毎年30回ほど展覧会を行っているものが減り、今年は15回と少なくなりましたが、その中でも色々な展覧会の企画に参加することができました。
・特別展 あるがままのアート - 人知れず表現し続ける者たち
・埼玉県障害者アート魅力発信事業
・ボーダレス・エリア近江八幡芸術祭 ちかくのまち(NO-MA)
・The Art of the Rough Diamonds VR展
・cafe & gallery温々 工房集展
・さいたま国際芸術祭2020 「工房集問いかけるアート展」
・2020 Art of the Rough Diamonds 展
・アートパラ深川おしゃべりな芸術祭
・ヨコハマ・パラトリエンナーレ
・おうちクリスマスを彩る 織り&グッズ展
・第11回埼玉県障害者アート企画展「Coming art 2020」
・NAKANO 街中まるごと美術館!
・アール・ブリュット展「まなざすかぞく」
・工房集セレクション展 12の月のおくりものⅣ
・The Flower BOX Exhibition
-表現を仕事に:作品使用とグッズ販売
作品の二次使用に関しては、富士フイルムの年賀状、さいたま市にあるMOGU DESIGN COMPANYとのマスクケース、東京都北区にあるCinema Chupki Tabata(シネマ・チュプキ・タバタ)の上映案内の表紙など、さまざまな形でデザイン使用されています。
工房集にあるギャラリーでは、仲間の作品を展示したり商品の販売会をしています。ギャラリーで展覧会を開催するときには、一緒にカフェを楽しめるスペースもあります。たとえば、後援会の家族の人たちが手づくりのケーキやお茶を展覧会と一緒に出したりしています。
2020年12月に工房集のギャラリーを使って『織り&グッズ展』というグッズを中心にした展覧会を行いました。今回で12回目になります。
また、工房集は「障害者芸術文化活動普及支援事業」を埼玉県より採択を受け、「埼玉県障害者芸術文化活動支援センター アートセンター集」を運営しています。
障害者芸術文化活動普及支援事業
障害のある人が芸術文化を享受し、多様な芸術文化活動を行うことができるように、地域における支援体制を全国に展開し、障害のある人の芸術文化活動の振興を図るとともに、自立と社会参加を促進する事業
この事業のネットワークに参加している県内30施設の団体から、13の施設が『織り&グッズ展』に参加しました。開催するにあたって、外部の専門家を招いてグッズ製作の研修や相談会を4回実施して、グッズをブラッシュアップしたものを出品しました。
出店していた県内施設の関係者以外にも、2020年10月に開催した展覧会「さいたま国際芸術祭」に来たお客さんなどさまざまな人たちにご来場いただきました。『問いかけるアート展』のときには作品の原画販売はしなかったのですが、原画作品を欲しいというお客さんもいらしたので、この『織り&グッズ展』では原画も同時に販売することで売上も伸びました。1週間で120万の売上をあげることができました。
『織り&グッズ展』は施設内のギャラリーで、しかも室内で開催をしたので「感染対策は大丈夫かな?」と内部でもいろいろ議論がありました。その対応として、カフェは中止にして、アトリエで日中活動を行なっている仲間たち13人のうち数名は別の施設(川口太陽の家)に移動してもらいました。
ギャラリーとアトリエが同じ敷地内に併設しているので、仲間たちが感染したら大変だということで、アトリエの中で活動する仲間をしぼって、安全対策が難しい仲間たち半分ぐらいは『織り&グッズ展』の期間中は別の施設で活動してもらっていました。
-作品が売れた場合の作家への報酬は?
作品が売れた場合には、法人で定めた規定に沿って作家に報酬を支払い、そのための簡単な規約を作成しています。事前に家族と確認しあい、法人と家族で同意書を交わしています。
原画が売れた場合は2割、グッズが売れた場合は1割が個人に支払われます。残りの売上は他の仲間の給料としてみんなに分配されています。
販路としては、展覧会やイベント、工房集のギャラリーのほかに、20箇所のミュージアムショップやギャラリーショップなど委託販売していただいています。
- オンラインショップへの挑戦
ここからは工房集のオンラインショップについて紹介します。見学の受け入れを中止したり制限したりということで施設への訪問者がかなり減ってしまったことや、イベントの自粛や展覧会の減少などがあり、グッズを販売する機会が大幅に減ってしまうということで、2020年6月からオンラインショップを開設いたしました(ECプラットフォームはBASEを使用)。
今まで(2021年4月16日現在)で400点ほどの商品を登録して販売しています。1週間に数点ずつ出品して、新しい製品や季節に合わせたものを様子を見ながら出品数を増やしています。
主な商品としてはステンドグラスのアクセサリーや小物、オブジェ、ステンドグラス、陶芸など、それぞれの製作グループが法人内のアトリエにあり、そこで生み出されたものを販売しています。
展覧会の図録、個人の作品集などの書籍や冊子もあれば、作家の作品をデザイン使用したポーチやノート、ペンケースなどの雑貨も紹介しています。
「おひさま」 伊藤 裕
オンラインショップを始めるにあたって、他のオンラインショップをリサーチしながら、自分たちなり工夫もしています。
たとえば、送付用のラベルを作家の作品を使って書いたり、お礼のカードに作品を使用したり、ギフトラッピングに対応し始めたり、購入してくださる人たちのニーズにも応えられるように工夫しています。
毎週数点ずつアップしているのはスタッフ(施設職員)がしています。仲間たちをサポートする支援員とは別でデザインスタッフが数名おり、その中で作業をしています。
写真を専門にやっていたスタッフがいるわけではありませんが、美術系の大学出身のスタッフも数名いるので、他のショップも参考にしながら、こういう感じは良いとか、みんなで研究して改良しながら運営しています。
デザインスタッフはもともと、展覧会の補佐的な業務や、広報業務、販売業務、グッズの企画やパッケージのデザインなど色々していますが、昨年はコロナの影響で展覧会がかなり減ってしまったこともあり、むしろ手が空いている状態でしたので、そこを活用して撮影作業などに時間と労力を割いていました。
-WEB掲載の商品や展覧会の作品はどのように管理していますか?
作品や商品の管理はどこの施設でも大変だと思います。工房集は母体の法人が比較的大きい施設なので、倉庫がいくつかあるという利点はあります。法人内の「川口太陽の家」という施設には作品の収蔵庫にしている部屋がありかなりの作品を収納していますが、そこもいっぱいになってきている状態です。
販売するもの、壊れていて修理するもの、廃棄するもの、など作品を仕分けしてジャッジしながら整理を進めていく必要がある段階に来ています。
工房集にも倉庫スペースが2部屋ありますが、グッズの在庫もかなり抱えていて、しかも限られたスペースなので、オンラインショップを始めてからは在庫管理用の棚を作りました。
-オンラインショップの発信の工夫は?
オンラインショップの立ち上げと同時に、展覧会などが減ったということもあり、作家さんの活動をどのように紹介していくかをしっかり考え、グッズの背景を伝えるために、オンラインショップのブログ機能を使って記事や動画でも紹介することにしました。
商品の写真だけでは伝わらない内容をブログで補足できないかということで記事を書いています。 たとえば、岡田亜弓さんと成宮咲来さんに関する記事はこちら。
YouTube チャンネルも立ち上げて制作風景の動画を配信したり、今までFacebook はありましたがInstagramもやってみようと始めました。
陶器やイヤリングなどのアクセサリーのほかにも、手織りにも取り組んでいるので、「textile by KOBO-SYU」というブランドで一人ひとりの個性的な反物を使ったポーチやバックなどの商品を発信しています。たとえば「HISASHI IGARASHI」という個人ブランドも立ち上げています。
まだ手探りではありますが、オンラインショップで発信することで、今までよりもファンも増えたり、想像よりも反響が大きい商品が発見されたり、意外な反応を受け取ったり、どういう作品が売れていくかの感触がつかめたりしています。
オンラインショップに掲載されることで作家さんがとてもやる気になったり、お客さんからの反応も分かることでこれからもぜひオンラインショップでどんどん出してほしいというような感想があったりもしています。
今のところはアクセサリーが一番売れ筋です。作家さんそれぞれの個性を生かしたアイテムが多く、ステンドグラスの作品は、コラボのアクセサリーや一点ものばかりです。
ほかには作家さんの原画も販売しています。金子隆夫さんという文章を書く仲間がいます。"ぼやきパフォーマー"とも呼ばれていまして、その金子さんの書き下ろしの作品も販売を始めました。
もともと芸能人やテレビのニュースやアトリエの仲間のことをぼやいた文書作品をたくさん書きとめられています。それを原画作品にしたり、冊子にして『生きるための名言集』として毎年発行しています。その8まで完成していて番外編を合わせれば10冊ほどできています。
金子さんは普段「お客さんと対面で話をして、その内容をぼやいてプレゼントする」というワークショップをやっています。昨年はコロナの影響でそのイベントもできなかったので、オンラインで活動を紹介する場があることが制作のモチベーションにもつながっています。
成宮咲来さんの銅線を使ったオブジェも、それを活用してアクセサリーにして「さくらハート」というブランドで打ち出しています。とても人気の商品で、パッケージなどは外部のコーディネーターが入って1つのプロジェクトとして製品化した事例です。
グッズをつくるときに大切にしていることは、製品に合わせて作品を作っているわけではなく、作品がどのような製品になれば魅力的になるか、生まれた作品をどういう風に魅力的にグッズとして生かしていくかということです。
成宮さんのオブジェは銅線を優しく丸めた作品で、職員も支援の関わりの中でピアスとネックレスにする方法を考えて一つ一つ大事につくられています。今年で7年目の人気商品でファンも多い商品です。
岡田亜弓さんは小さな用紙(ポストカードサイズ)に野菜や春夏秋冬など小さなモチーフをたくさん散りばめた絵を書いています。スターバックスコーヒーつくば学園の森店で展示されたり、昨年は富士フィルムの年賀状にデザインに使用されたりと活躍の場が広がっている作家さんです。
そんな岡田さんがいま熱心に取り組んでいるのは、色とりどりの小さなガラスを組み合わせたアクセサリーです。ガラスを取り扱っている製作グループがあり、そのグループからステンドグラスの作品づくりで残った端材をもらってきて、それらを細かくカットしてアクセサリーに使用しています。
クリスマスツリーやヨットなど、岡田さんの絵をモチーフにオブジェを作って、それをアクセサリーとして展開しています。
そのほかにもステンドグラスのチームの長谷川昌彦さんは、長年培われた技術で、ガラスをルーター(切削加工ができる電動工具)で削ったり、イヤリングにするためにワイヤーを取り付ける作業をされています。
その作業を撮影し、家族に動画を見てもらったり、仲間同士で動画を見たりと、外部だけじゃなく内部の人たちにとって影響を与えていることもあります。
-「表現活動を仕事にしていくために大事にしていること」をどのように実現できるのか?
【表現活動を仕事にしていくために大事にしていること】
①"できる"ではなく"好きな"や"得意な"に当てた視点
②主体性を大事にし、自分のペースで活動する
③余暇活動ではなく、表現活動を仕事にする
④社会とつながる
⑤新しい価値観が生まれる
重い障害がある中で、上記のような理念を実現するために実際には難しいところがあると思います。そこを実現するためにどういう工夫をされていますか?
成宮さんの例で考えると、すぐ簡単にできたものではありませんでした。成宮さんは元々は和紙を製作する班に所属していて、そこで牛乳パックをはぐという仕事をずっとしていました。
その中で和紙をつくる仕事に限界を感じて、表現活動を仕事にするように変わりました。成宮さんはとても障害が重いので、何かできることはないかと探していく中で、障害の特性で紙などをちぎっては丸めるという手の動きがありました。
その動きを見て、手の動きで何か面白い作品を作れないかなと職員が考えて、細い銅線を渡したらその銅線を柔らかく丸めるようになってあの作品ができました。
すぐに作品づくりということではなくて、日々仲間と関わりながら、その仲間がどういうことが好きなんだろうとか、どういうことができるんだろうというのも一緒に関わりながら可能性を見つけていって、そこから作品ができたりグッズができたりしているので、そういう日々の関わりをすごく大事にしながら表現活動を仕事にしています。
「工房集」をもっと知りたい方へ
■工房集 ホームページ
https://kobo-syu.com/
■オンラインショップ(BASE)
https://kobosyu.thebase.in/
https://www.facebook.com/kobosyu/
■ Instagram @kobo_syu
https://www.instagram.com/kobo_syu/
■YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UC8aiZG5yeJimtCzGr9qNI9Q
■埼玉県障害者芸術文化活動支援センター「アートセンター集」
https://artcenter-syu.com/
■川口太陽の家
https://minuma-hukushi.com/facilities/kawaguchitaiyou/
参考・引用
■さいたま国際芸術祭2020「工房集問いかけるアート展」
■工房集作品展『生きるための表現』@東京都美術館 2012年
■アートパラ深川 おしゃべりな芸術祭
■情報交換会(第2回) 4月16日~4月17日
コロナ禍における新しい仕事づくり:そのほかの事例はこちら ↓
本事業は休眠預金を活用した事業です
「コロナ禍を契機とした障害のある人との新しい仕事づくり」は休眠預金等活用法に基づき、公益社団法人日本サードセクター経営者協会 [JACEVO]から助成を受けて実施しています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?