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学校でも会社でも教わらなかった物ごとの考えかた:奈良のあたつく組合

「家賃が高くて狭いとこで満員電車に揺られて暮らすなんて。若い時はいいけど、35歳くらいになったらめんどうくさくなりますよね 笑」

「福祉事務所がパンを作って売っても利益でないのは当たりまえだよね。効率が悪くて、機械化も遅れていて。おいしいかおいしくないか、っていったら民間企業のパンの方がはるかにおいしいですからね 笑」

と、ニコニコと穏やかにユーモラスに話すのは奈良にある 、あたつく組合(あたらしい・はたらくを・つくる福祉型事業協同組合)代表理事の山内民興さん。自分が住んでいるまちで人とのつながりを大事にしながら、福祉とビジネスの良いところ両方をかけ合わせる新しいみんなのための共同体をつくりたくって活動を始めた。

ストレートなもの言いだけれど、実際聞くと全く嫌味じゃない。むしろ逆に深い愛情と優しさを感じるのは、山内さん自身がその両方、福祉とビジネスの世界にどっぷり身を置いて自分ごととして経験してきたからではないかと思います。

先日のオンラインイベントでは、長年ビジネスと福祉の良いところを掛け合わせようと試行錯誤してこられた山内さんが、 “仕事の単価を上げるヒント”から、“安い通販よりちょっと高くても近くのおっちゃん&おばちゃん”の大事さの話まで。 コロナ禍後の「これからの暮らし/仕事」の新しい視座になるお話を共有してくれました。

あたらしい・はたらくを・つくる

山内さんは、ITを活用して就労支援を行う社会福祉法人ぷろぼのを立ち上げ、福祉現場をオンラインで実施するための工夫や、テレワークなど障害のある人の活動エリアや可能性をひろげてこられました。

そして、奈良の地に、ぷろぼのさん単体の活動だけではなく「組合」という関係性で多くの実践と成果を生みだすことに挑戦する、あたつく組合(あたらしい・はたらくを・つくる福祉型事業協同組合)も立ち上げました。

あたつく組合は、障害のある人も、お母さんも、シニアの皆さんも、今の社会的システムにうまくはまらず働きづらさを抱えた人たちに働ける機会とお仕事が生み出されるように、いろんな人や組織が繋がって働けるよう「組合」のかたちをとって生まれた組織です。

同じ奈良内のネットワークの中で、多様な人と一緒に仕事をしたり、その団体の人たちができる強みを生かしていくことで、幸いにもコロナ禍は逆風にならず、かえって収益を伸ばしたそうです。

山内さんに、あたつく組合の活動で大事にしてきたポイントを教えてもらいました。

1:安い単価の単発仕事だけにならないよう、一括セットで仕事を引き受ける

「仕事っていうのは、切り分けて受注すると1つ1つの仕事の単価は安くなるんですよ。ところが全体の仕事を受けて、こちらで切り分けると1つ1つの仕事の単価は高くなるんですよ。笑  ここがポイントなんですね。」

そういう大きな仕事を丸々引き受けて、全体的にディレクションをしていくような仕組みをつくっていけば、あたつく組合のような体制や共同体はいつでもできますよ、と山内さん。

例を出して教えてくれたのは、最近あたつく組合で受けた奈良市からのお仕事。

去年まで別の会社が引き受けていた障害福祉計画の策定の仕事だった。アンケートを取るものだったが、アンケート内容を考える事、配布物などのデザイン、アンケート先に発送する事など全てをいちどに全て引き受けて、その中のいくつかのしごとを他の障害のある人が働く福祉団体にお願いした。

「最初の福祉計画のアンケート内容をつくるのは、僕らでみんなワイワイとやって。その後のデザインや袋詰めの作業を向こうでやってもらったわけですね。そうしないと単価が全然違うんですよ。全体の仕事を取るから袋詰めのしごとも出せるんですよ。」

だからこそ、と山内さんは続ける。

「福祉事務所は全体のどの仕事のどの部分を障害者がやれるしごとか、というのをひごろからずっとリサーチしていないといけませんよっていう話なんですよね。

袋詰めならできますけど、パソコンのデータの入力ならできません。これじゃダメですよね。でも、アンケートの仕事もセットに全部一緒くたに受けたら、袋詰めの仕事の単価もはるかに良くなるんですね。」

2:便利で安くてもネットやスーパーで買わず専門のお店で買う

インターネットやスーパーマーケットは安いし早い、でもちょっとでも高くても近所のおじちゃん、おばちゃんや専門の業者さんのところで買うように心がけているそう。そして、これが福祉とビジネス(民間企業)の連携の図式のいちばんのポイントでもあるそう。

例えば、お菓子をつくっている福祉の事業所は、小麦や砂糖などの材料をスーパーで買わず商社の卸やさんで品物を仕入れてくる。それは安いから?

「安いからだけじゃないんですよ。卸業者の人たちはこの調味料の買い方とか小麦の成分とか、“これはこういう特徴がありますよ”って教えてくれるんですね。だから、安いからこっちです、ではなく、知りたいからそういう専門業者に頼む、という考え方をもつべきなんですね。」 

「どこかの知らない印刷会社に印刷をお願いしたらただ単に仕事をやってくれるだけなんだけど、地元の印刷会社に頼んだら情や仲間意識もあるから、やはり気心が知れているような仕事をしてくれますよね。」

そして便利で安くてもネットで買わずに、少し高くても近所のおじちゃんおばちゃんから買うのは、商店が成立しなくなってしまい、地域の力が落ちていくから。

この変え方はあたつく組合の考え方の基本だそう。

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写真  Peter Wendt @unsplash

3:福祉の組織の組合だけど、受けた仕事の内容によって福祉以外のいろんな人・団体に声をかけてそのつどプロジェクトチームを作る。

「仕組みとしては、福祉と企業と専門家、いろんなN P Oとか、いろんな人たちがいろんな仕事の内容によってプロジェクトチームをつくって、それで仕事に対処していきます。だから、福祉の組織だけで発注して対処するわけではないんです。これがいちばんのポイントなんですね。」

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去年、商品化された奈良の春日大社の杉を使った燈台。木材の認証管理を行うあたつく組合さんからGood job! センターにもお話をいただき、いろんな人たちが一緒に関わり完成。

つながりが大事

山内さんの世代は戦後の時代的背景もあって、1つの企業に属して定年までがむしゃらに一生懸命働く事が当たり前だった世代。

「そうやって働くことをずっとやってきたわけだけど、50歳で障害者になり、ふと立ち止まって福祉の考え方に触れて本当に僕は気がついたんだけど、やっぱり家族を大事にすること。一緒に働いている仲間を大事にすること。社会というものを住みやすくすること。こういう事が大事。

だから自分も仕事をバリバリやれていたんだなと改めて感じるわけですよ。何も会社でも一生安心安全で働けるんだなんてそんなものではなくて、
“つながり”が大事だと。そういうふうになっているのが福祉なんだって。」

福祉の持っているいい点と産業界のいい点をくっつけていく

「でも、一方で、福祉の分野で仕事して自立しましょうよ、っていったって、福祉の分野には産業や事業という概念がないわけですよ。その概念がない人たちがお金儲けのしくみを作ろうなんて言ったって、無理でしょう。品物を作るのも商品とか言わないで受産品とかいうんですよ。請け負い型のものしか考えてない。」

その反面、山内さんにはずっとこんな思いもある。

「企業からみた産業だけが仕事なんだ、みたいな概念で、21世紀を生きていたら、誰かが弱くて誰かが強いみたいな構造にそのままなっちゃうので、それは嫌だなぁと思っていますね。」

であれば、と、山内さんは考えた。

「今の時代の福祉のコンセプト + ビジネス界の働き方 + テクノロジー。そういったものが合体すれば必ず何かが生まれるはず。」

お互いにメリットがあるので、そういうことに挑戦しよう。お互いのいいところをいろいろな形で融合していけば今までにない企業体ができるはず。

こういった想いがあたつく組合のスタートになり、今もその思いで奈良に根付いた多様な活動を続けている。

学校では習っていないけど横軸でものを考える

こうしたあたつくの活動の根本にあるのは、従来の縦割りの構成をこわして、横のつながりを取り戻す姿勢だ。あたつくは、「福祉」「ビジネス」「障害者」「障害のない人」などといったカテゴリーや分野、上下関係にとらわれずフラットに一緒に仕事を行っている。

「世のなかって割と縦割りの構造になっているわけです 笑

行政も学校の教育の仕組みもそう。そうするとどうしてもみんな縦割りで考える習慣を持っているから、横軸でものを考えるっていう概念が薄いんですよ。」

福祉の人もそうだと山内さんはいう。

「大学で社会学部福祉学科を卒業した人っていうのはどうしても、福祉とは… 障害者とは…生活介護とは…こういうもので、障害者がはたらくなんてとんでもないことだっていう概念があって。学校時代に障害者がはたらくなんてことを学んでいないからね。」

学校でも今まで学んできていないことをそっくりすり替えるなんて難しい。

そんな縦割りの構造の中だと、どうしても福祉の人は福祉の枠を飛び出して、ビジネス的なお金儲けの事業をするという概念が自然となくなる。でも実際は、障害があったって、働ける人も能力のある人もたくさんいる。

障害者は普通じゃない?

「障害者はわかりやすくいうと“普通じゃない”って思われていますよね。
福祉の職員さんは障害者の能力をすごく低く考えています。助けてあげないといけない。守ってあげないといけないって。」

「でも、企業の人は仕事さえできたら、“あ、この人は仕事できるね” という視点で一人ひとりを見てくれるんで早いんですね。彼らの意識は仕事さえできたら “おおーやるじゃないか” というだけなんで笑。
だから、福祉と産業界が連携したような事業体をまずは作ろうと思ったんです。」

「産業と、支援というものと、人間のベーシックな生き様であるカルチャーの概念から障害の方々がどう生きるか、どう働くかと言う視点とは、僕はきちんと総合的に作りあげていくようにしていかないといけないと思っています。」

それにしても…どうして仕事を頼まれるんでしょうか?

質問:例えば、福祉事業所がICTを導入したいとき、一般のコンピューター会社に発注するより、あたつく組合さんに発注した方がいいから、仕事が入ってきているってことですよね。どこがいいと 笑 言われていますか?

山内さん:「笑 面白い質問だけど。だってね。例えばお店にお魚を買いに行くとしますよね。で、スーパーだとお魚を一匹売ってると。

自分でお魚3枚のおろし方を知らなかったら、“あれあれ…困ったな…”となるじゃないですか。1匹買ってきてYouTube見ながら“こうやるのかなあ”って、自分で3枚におろしますでしょう。

でもその時にお店の方がバーと出てきて、“こうしたらお姉さん3枚におろせます”って、そこでちゃんとやってくれたりしたら嬉しくないですか。同じお魚買うのでも、お料理の仕方まで教えてくれるようなところにオーダーをかけたほうが、お魚だけ持ってこられるだけよりも親切だと思うでしょう、ということですよ。

(福祉に関わっている自分たちの組合組織は)福祉の事業所からすると全部普段の困りごとがわかっているわけですよ。そういう事情が分かっているところにオーダーをかけた方が、“よろしく頼みます”の一言で終わっちゃうじゃないですか。“予算こんな中でこんなことしたいんだけど” “わかった、仕様書書くからちょっと見てね” と。“OKです。やってください” って。

追加のオーダーがあれこれ来ても、一般企業と違って追加費用もとらず、“ああいいですよ。やっときます”って、僕らやりますし。笑

僕たちは仕事をもらうことが目的ではなくて、その事業所がいい福祉の仕事ができるように、システムを使ってもらうことをいちばん大事にしている。

お魚も一緒で、お魚を買うんじゃなくて、それをお刺身とかにして食べるところが目的ですよね。その目的をしっかりとわかってやってる業者の方がオーダーしやすい。それだけのことですよね。」

これからのオンラインの可能性

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写真 Danielle Machinnes@unsplash

山内さんは、社会福祉法人ぷろぼのの理事長でもある。ぷろぼのでは、テレワークという概念で民間企業と契約して仕事をするような日が近々来るぞ、という想定のもと、在宅で障害者のある人たちもいろんな雇用訓練のトレーニングや福祉的な支援が受けられる取り組みを3年前から進めてきた。

「精神障害の方は通所するだけで疲れちゃうわけですよね。であれば、そのエネルギーを仕事に回そうよ、という話でもともとやっていました。 通所できなかったら在宅でやろうって。」

コロナ禍で生活がガラッと変わった去年、今年。今後について山内さんはこうも語ってくれた。

「生活のスタイルが情報端末とインターネットの仕組みができたことによって、言葉でいうといろんな多様な生き方、働き方ができるようになったわけですね。今地方に移住する方がだいぶ増えてきていて、ある大きな会社が淡路島に本社を移したなんて話もあるし。でも楽しいじゃないですか。自分の好きなところに行って、仕事をしながら、ライフスタイルを形成したいっていう働き方があると。

だから今までだと打ち合わせにいかないと、“あいつなんかやる気ないんじゃないか” と思われた概念が今は、“こっちの方が便利だよね” と。やっとそう思うようになったわけですよね。

パンデミックは慎重な対応が必要なんですけれども、働くとか仕事をする分野だけに限っていえば、日本人が持っている今までの生き方や働き方の概念を変える役目があったのかなと。そんなふうに思いますけどね。」

テクノロジーのような技術が変わっていくとき、人間の価値観や生き方、カルチャーも当然変わっていかなければいけない。山内さんは、今まではビジネスの中にあったテクノロジーをいかに普通の人々の生活のレベルまで持っていくことができるのかを最近意識しているという。
そんな風に今までも、新しい未来をみすえて活動に取り組んできたあたつく組合。

「今ね、世界的なSDGSとか、E S Gって言葉がありますけれど、そういう概念で組織体を運営していくことが必要じゃないんですか。ちょうど時代にあってきたかなと思ってますけれどね。」

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*この記事は、2月20日に行われたオンラインでの「コロナ禍における障害のある人の仕事づくり」の情報交換会でのお話をまとめています。(山内さんお話のご共有どうもありがとうございました。)

文:Uga   当日聞き手:後安美紀   

↓ 全国の団体がコロナ禍の中、新しい仕事作りととしてどんな取り組みをしているのかシリーズでお伝えしています⭐︎

* 本事業は休眠預金を活用した事業です *

「コロナ禍を契機とした障害のある人との新しい仕事づくり」は休眠預金等活用法に基づき、公益社団法人日本サードセクター経営者協会 [JACEVO]から助成を受けて実施しています。

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