十二社の池の主

主に読書感想文を毎週日曜日に配信しています。

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読書感想文『柴田哲孝の「暗殺」』

柴田哲孝の「暗殺」は、現実とフィクションの境界線を巧みに揺るがす作品です。この小説は、あくまでフィクションとして書かれていますが、その背後には思い当たる現実の事件が数多く浮かび上がります。これが、読者に対して一種の不気味なリアリティを感じさせ、物語の重厚さを増しています。 物語の進行に伴って、いくつもの違和感が次第に一つに繋がっていく過程は、まるでパズルのピースが次々とはまっていくような感覚を覚えます。これが読者に対して緊張感と共に一種の恐怖をもたらします。特に、登場人物た

    • 読書感想文 樋口清之の『食物と日本人』

      樋口清之の『食物と日本人』を読んで、改めて日本の食文化の深さと多様性に感銘を受けました。 まず、日本の気候は湿度が高く四季がはっきりしているため、食材の保存方法として発酵食品が発達しました。納豆、味噌、醤油など、日常的に親しまれている発酵食品は、長い歴史の中で生まれた知恵の結晶です。 また、日本列島は豊かな自然に恵まれ、多様な食材が手に入る土地柄です。そのため、特定の食べ物が宗教的に禁じられることなく、幅広い食材が日本人の食卓に上りました。この自由な食文化が、日本人の食へ

      • 読書感想文『橋爪大三郎氏の「正しい本の読み方」』

        この本を読んで、私は本を読むことの意義とその方法について深く考えさせられました。この本は、本を読む際にどのように選び、どのように理解し、どのように活用するかについて具体的な指針を示しています。 まず、読むべき本として古典を薦めていますが、その際に入門編から始めることを推奨しています。古典は時代を超えて価値が認められたものであり、その内容は普遍的な真理や洞察を含んでいます。しかし、いきなり難解な原典に挑むのではなく、入門編から読み始めることで、より深く理解しやすくなるという考

        • 読書感想文 樋口清之『自然と日本人』

          この本はは、日本人の風習や迷信の由来を科学的に分析し、日本文化の奥深さとその背後にある自然との関係を明らかにする書籍です。この書籍を読んで、私は日本人がどのように自然を理解し、それを生活の一部として取り入れてきたのかに強く感銘を受けました。 まず、樋口氏は日本人の風習を科学的に解明しています。例えば、日本の伝統的な祭りや儀式の多くは農業に関連しており、その季節ごとの風習は、農作物の成長や収穫のタイミングと深く結びついていることを示しています。これは、日本が四季の変化がはっき

        読書感想文『柴田哲孝の「暗殺」』

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        • 怠け者の徒然草
          2本
          ¥5,000
        • めいろま用マガジン
          7本

        記事

          読書感想文「礼法教育研究会 解説:竹内久美子[復刻版]国民礼法」

          この本は、小学生でも理解できるように基本的な立ち居振る舞いから、国や皇室に対する礼儀作法までが詳細に書かれています。具体的な日常の動作や言葉遣いだけでなく、日本の伝統や文化に基づく礼儀作法が丁寧に解説されており、非常に分かりやすく、そして実践的な内容となっています。 特に興味深かったのは、本書が「マナー本はいらない」と帯紙に掲げている点です。多くのマナー本が現代のビジネスマナーやカジュアルな礼儀作法に焦点を当てる中で、『国民礼法』は一貫して日本の伝統的な礼法を重視しています

          読書感想文「礼法教育研究会 解説:竹内久美子[復刻版]国民礼法」

          読書感想文 「樋口清之 梅干と日本刀 日本人の知恵と独創の歴史(祥伝社新書)」

          この本を読んで、私は日本古来の風習の起源を科学的に紐解く視点に感銘を受けました。この本は、我々が日常的に行っている習慣や伝統の多くが、実は非常に合理的で科学的な根拠に基づいていることを明らかにしています。 まず、この本の最大の魅力は、日本の風習や伝統に対する深い理解と、それを科学的に説明する試みです。例えば、梅干しや日本刀といった具体的な例を通じて、それぞれの風習や技術がどのようにして発展し、なぜ今日まで続いているのかを解説しています。梅干しの保存食としての効用や、日本刀の

          読書感想文 「樋口清之 梅干と日本刀 日本人の知恵と独創の歴史(祥伝社新書)」

          読書感想文『[復刻版]高等科修身[男子用]』

          この本を読んで、まず最初に感じたのは、その内容が持つ緊迫感でした。戦時中に書かれたものであるため、当時の社会的背景や情勢が強く反映されており、読者に対して真剣さと緊張感をもたらします。戦争の影響下での教育内容は、現在の平和な時代とは異なる重みがあります。この本を通じて、戦時中の日本における教育の一端を垣間見ることができ、その緊迫した空気感が伝わってくる点が非常に印象的でした。 次に、戦前の教科書であるにもかかわらず、内容が現代の教科書よりも一本筋が通っており、非常に読みやす

          読書感想文『[復刻版]高等科修身[男子用]』

          山久瀬洋二「日本人のこころ Japanese Values and Virtues (ラダーシリーズ Level 5)」

          この本は日本人の精神と価値観を深く理解するための貴重な一冊です。この本を通じて、私は日本人の心の中心にある「和」の概念、「美」の意識、そして「徳」の積み上げという三つの重要なテーマについて考えさせられました。 まず、「和」の概念は日本人の心の中心にあるとされています。「和」とは、調和や協調を意味し、個人よりも集団の調和を重んじる日本文化の基盤となる考え方です。これは、家族や社会、職場などあらゆる場面で見られ、日本人の行動や考え方に深く根付いています。山久瀬はこの「和」の重要

          山久瀬洋二「日本人のこころ Japanese Values and Virtues (ラダーシリーズ Level 5)」

          読書感想文「矢羽野隆男の『大学・中庸 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 (角川ソフィア文庫)』

          矢羽野隆男の『大学・中庸 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 (角川ソフィア文庫)』は、古代中国の二つの重要な哲学書「大学」と「中庸」を解説し、その現代における意義を伝える一冊です。本書を通じて、儒教の根本的な教えに触れ、自己の成長と人間関係の在り方について深く考える機会を得ました。 まず、「大学」について。この書は、なぜ人が学ぶのか、そして勉強の方法の大枠を説いています。「大学」は、個人の自己修養を通じて社会全体の調和を目指すことを教えています。特に、「明明徳」(めいめ

          読書感想文「矢羽野隆男の『大学・中庸 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 (角川ソフィア文庫)』

          読書感想文 谷本真由美「世界のニュースを日本人は何も知らない5」

          この本は、世界の現状について日本の視点から解き明かした興味深い一冊です。本書は特に、AI技術の進化がもたらす労働市場への影響、世界各国の厳しい現実、そして日本の音楽グループYOASOBIが如何にして国際的な成功を収めたかという三つの重要なテーマを掘り下げています。 まず、AIによる職業の自動化は、多くの人々にとって驚くべき変化となります。例えば、AIがライターやデザイナーなど創造的とされる職業まで担うようになり、これらの職業の専門家たちも新たなスキルを習得しなければならなく

          読書感想文 谷本真由美「世界のニュースを日本人は何も知らない5」

          OJTソリューションズの「トヨタの片づけ」

          この本は、非常にシンプルな方法で片づけを進めることができる点が魅力的です。 本が伝える方法は理にかなった片づけ方を提案しており、納得しながら実践に移すことが可能です。 そのため、継続しやすく、毎日の生活に取り入れやすい内容となっています。実際にこの方法を試してみると、スッキリとした空間が生まれ、心地よい気分になれるのが大きな利点です。 整理整頓が苦手な人でも、この本の指南に従えば、効果的に片づけを行うことができるでしょう。

          OJTソリューションズの「トヨタの片づけ」

          読書感想文「竜馬がゆく」司馬遼太郎

          この本では、坂本竜馬の禅に通じる生き方が描かれています。彼は内面の静寂と集中を保ちながら、時代の変革者として動いていく姿が感銘を与えます。 本作を通して、地道に目標に向かって努力することの重要性が強調されています。竜馬は小さな一歩を積み重ねることで大きな成果を上げ、目標達成へと進んでいきます。 また、彼の行動は口先だけではなく、実際の行動によって時代の流れを変えていくことを教えてくれます。この物語は、言葉だけではなく行動が重要であることを強く印象づけるものであり、読む者に

          読書感想文「竜馬がゆく」司馬遼太郎

          読書感想文「君の背中に見た夢は」(外山薫)

          この本は、子育てを通じた親の自己表現とその果ての自己発見について描かれた作品です。 物語は子供たちの成績争いを軸に展開され、家族間の比較や競争が激しく描かれています。この過程で、親たちは自らの価値や存在意義を子供の成績や成功に見出そうとする姿がリアルに描かれます。しかし物語の終盤にさしかかると、登場人物たちは「程々が良い」という大切な教訓を学びます。 この作品は、子育てにおける圧倒的な競争心や比較から解放され、子供たちと共に成長していく過程を描いており、読後感としては非常

          読書感想文「君の背中に見た夢は」(外山薫)

          読書感想文 「巨人軍論」野村克也

          野村克也氏の「巨人軍論」は、長い歴史を持つ巨人軍の伝統と革新のバランスについての洞察を提供する。本書では、伝統は組織の脊骨であり、新しい技術や革新は筋肉のようなものだと例えられています。これは、伝統が組織の基盤を形成し、革新がそれを動かし、成長させる力であることを意味しています。しかし、著者は伝統を無視して革新を行うことはできないと主張しています。つまり、過去を尊重し、そこから学びながら、新しい技術や方法を取り入れるべきだというわけです。 野村氏はまた、「何かを変える」とい

          読書感想文 「巨人軍論」野村克也

          読書感想文:谷本真由美「日本では報道されない世界のファクト」

          世界のリアルを見据えた警鐘 ー 谷本真由美の洞察 谷本真由美の「日本では報道されない世界のファクト」は、世界各地で起こっている事実を基に、リベラルな思想や政策がもたらす影響を深く掘り下げた作品です。本書は、リベラルな思想に傾倒し、その結果苦悩する人々への一種の福音書として書かれています。著者は、リベラルな思想によって将来が暗いとされる英国王や、ヨーロッパの政策を盲目的に模倣することの危険性を警告しています。また、日本政府に対しても、欧州の政策を無批判に取り入れることのリスク

          読書感想文:谷本真由美「日本では報道されない世界のファクト」

          読書感想文 清沢洌の「暗黒日記:1942-1945」

           この本は、戦時中の日本社会における厳しい現実と、戦争に対する著者の深い洞察に深く感銘を受けました。この日記は、戦争の悲惨さと、その中での個人の思索を率直に描いています。 まず、著者は戦争の非人道性を強調しつつも、いったん戦争を選択した以上は、勝利を目指すべきだと述べています。これは、戦争の避けられない現実に直面した時の厳しい決断を示しており、読者に深い印象を与えます。 次に、著者は国民を騙さないことの重要性を強調しています。戦時下のプロパガンダや情報操作が盛んだった時代

          読書感想文 清沢洌の「暗黒日記:1942-1945」