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読書感想文『柴田哲孝の「暗殺」』

柴田哲孝の「暗殺」は、現実とフィクションの境界線を巧みに揺るがす作品です。この小説は、あくまでフィクションとして書かれていますが、その背後には思い当たる現実の事件が数多く浮かび上がります。これが、読者に対して一種の不気味なリアリティを感じさせ、物語の重厚さを増しています。

物語の進行に伴って、いくつもの違和感が次第に一つに繋がっていく過程は、まるでパズルのピースが次々とはまっていくような感覚を覚えます。これが読者に対して緊張感と共に一種の恐怖をもたらします。特に、登場人物たちが次第に明かしていく陰謀の糸口や、複雑に絡み合った事件の背後に潜む真実が明らかになる瞬間は、ページをめくる手が止まらなくなるほどの引力を持っています。

しかし、物語の終盤に差し掛かると、解決に向かうかと思われたストーリーが再び闇に包まれ、読者をさらなる混乱と不安に突き落とします。この展開は、ただのエンターテインメントとしての小説ではなく、現実の社会問題や陰謀論への深い考察を促す作品であることを強調しています。特に、最後のページを閉じた後に残る深い闇は、読者に対して多くの問いを投げかけ、考えさせられる余韻を残します。

本作の中で、特に興味深いのは「なぜ元号が令和なのか?」という問いです。令和という元号は、日本の新しい時代の象徴として選ばれましたが、本作ではその背景に潜む陰謀や政治的な動きが示唆されています。令和という言葉が持つ意味や、それが選ばれた経緯に対する作者の独自の視点は、現実の歴史とフィクションが交錯する瞬間を鮮やかに描き出しています。

柴田哲孝の「暗殺」は、ただのミステリー小説ではなく、現実の事件や社会の暗部に鋭く切り込む作品です。いくつもの違和感が一つに繋がり、最後には再び闇が深まる展開は、読者に対して強烈なインパクトを与えます。そして、令和という元号の選定に対する考察は、この小説が持つ現実とのリンクをさらに強固なものとしています。現実とフィクションの狭間で揺れ動くこの作品は、読者に対して深い思索を促す一冊です。

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