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『デザインのまなざし』のこぼれ話 vol.3

マガジンハウスが運営している、福祉をたずねるクリエイティブマガジン「こここ」で、グッドデザイン賞の連載『デザインのまなざし』の最新エピソードが公開されました。

『デザインのまなざし』とは
「福祉」と「デザイン」の交わるところにある、人を中心に考えるまなざし。その中に、これからの社会を豊かにするヒントがあるのではと考え、福祉に関わるプロダクトやプロジェクトと、それを生み出したり実践されたりしている方々を訪ねる連載です。
https://co-coco.jp/series/design/

第三回に登場してもらったのは、2019年度グッドデザイン賞を受賞した「シブヤフォント」プロデューサーの一般社団法人シブヤフォント 共同代表  磯村歩さんです。

〈一般社団法人シブヤフォント〉共同代表、〈株式会社フクフクプラス〉共同代表の磯村歩さん

「シブヤフォント」は、障害のある人が描く「文字や絵柄」を、渋谷区にある「桑沢デザイン研究所」の学生が、障害のある人と協働してフォントやパターンデータにデザインし、「渋谷区公認のパブリックデータ」として公開する渋谷区の事業活動です。

このnoteでは、本編からはこぼれたお話として、最新の活動を中心に、さらにアップデートしているシブヤフォントについてお伝えします。

撮影:加藤甫 / 写真提供:マガジンハウス〈こここ〉編集部

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様々なパートナーとコラボレーションを展開

―最近のシブヤフォントは、積極的に外部と関わるアクティブな活動をされていますが、いくつかトピックスを教えてください。

磯村:そうですね。まず原宿駅近くにあった商業施設「原宿クエスト」が昨年10月に閉館したのですが、その際に私たちシブヤフォントも一緒になってクロージングイベントを行いました。障害のあるアーティスト、デザインを学ぶ学生、そして店舗スタッフによる共創デザインが館内各所を彩りました。店舗スタッフにシブヤフォントに色付けをしてもらいオリジナルマスクを製作し、スタッフが身につけたり、プレゼントで配布したりしました。

また、2022年1月にはユニクロ原宿店とコラボレーションをして、店頭のiPadを使い、シブヤフォントの文字や絵柄を使ったオリジナルTシャツが作れるサービスがスタートしました。その場でレイアウトして、約10分で購入できてしまうのです。

それからこの3月に桑沢デザイン研究所を卒業した学生の一人が、在学中にアルバイトスタッフとして参加してくれ、最後に卒業制作として、障害者と一緒に「常用漢字フォント(2,000文字以上)」を製作してくれたという、とても嬉しい話もあります。

―活動範囲が一緒に広がっていますね。本編でも触れていますが、GoogleのWeb用フォントサービス「Google Fonts」にも採用が決まりましたね。

磯村:はい、1,000種以上が無料でダウンロードできるGoogle Fontsにシブヤフォントが採用されました。ここでは商用・私用問わず、誰でも自由に利用できるのです。実は契約から約2年かかるほど、苦労の連続でしたが、海外の方にもシブヤフォントを使ってもらえる機会になります。

―2022年に入って、また素敵な賞を受賞されたと聞きましたが、どんな賞でしょうか?

磯村:内閣府が毎年実施している「日本オープンイノベーション大賞」で、選考委員会特別賞を受賞させていただきました。この賞は、日本でロールモデルとなる先導的で独創的な取組みを表彰することで、オープンイノベーションを普及させることを目的としたものです。いくつかの種類があるのですが、シブヤフォントは「選考委員会特別賞」に選ばれたのです。

選考委員会からは「創作活動を通じた障害者支援事業所と、地域とのつながりの創出で、パブリックデータとしての無償利用と商業利用におけるデータ利用料徴収というプロジェクトはSDGsに資するものとして評価できる」という嬉しいコメントをいただきました。

2月2日に内閣府の講堂で表彰式があったので、アートディレクターであるライラ・カセムさんと一緒に行ってきました。

これで、「グッドデザイン賞」の他、「ソーシャルプロダクツ・アワード2021」「IAUD国際デザイン賞」「東急グループ環境・社会貢献賞受賞」「桑沢学園賞」と6つ目の賞になります。これからは、海外の賞にもチャレンジしていきたいと思っています。

街全体を障害者アートの美術館に

―障害のある人のアート活動や作品に注目したイベントや展覧会も増えてきましたよね。

磯村:そうなのです。東京オリンピック・パラリンピックの影響もあると思いますが、ギャラリーだけでなく、エリア広域で展開する催しが増えてきました。

フクフクプラスの共同代表の一人、福島治がクリエイティブデイレクターを務める「アートパラ深川おしゃべりな芸術祭」は、神社仏閣巡りとアート鑑賞が合体したユニークな企画で、街全体が美術館のようになりました。

渋谷区事業「シブヤファクトリー 428/294」では、渋谷区庁舎を美術館に見立てて、アートを100点ほど飾りました。また同時開催でフォントづくり体験を別の会場で行うなど、エリア内での回遊性を生み出す取り組みも行っています。

―磯村さんたちが、フクフクプラスとして注力されている障害者アートのレンタル業とアート鑑賞研修に関しても少しご説明ください。

磯村:主に法人向けとして、社員への癒し効果が期待できるアートレンタルは、年4種のアートが楽しめるなどとても好評です。また、テレワークが進む中、チームの対話を生むプログラムとして障害者アートを活用したオンラインの研修プログラムの導入も広がっています。さらに、社内におけるダイバーシティ&インクルージョンの理念をより社内に浸透させるべく、障害のある社員の新たな仕事としてアート制作に取り組む企業もあり、フクフクプラスとしては、こうした制作の現場も支援しています。

いずれも、社会貢献活動に加えて、企業価値向上も兼ね備えたCSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)事業として提供しています。

―磯村さんの今の肩書きってなんですか?

磯村:最近は「経営者」がしっくりくるかな。そう言えば、もうデザイナーと名乗ってはいませんね。


―読んでくれた方に最後に一言お願いします。

磯村:シブヤフォントのオフィスは、渋谷区文化総合センター大和田の8Fにありますが、ギャラリーを兼ねていますので、近くに来た際は気軽に遊びに来ていただきたいと思います。

また、渋谷に来られない場合は、タオルやTシャツ、トートバックなどがオンラインショップで購入できますので、一度のぞいてみてください。渋谷区の象徴であるハチ公を「張り子」と「3Dプリンター」を使って、幡ヶ谷のぞみ作業所でひとつひとつ手作りした「のぞみ叶う招きハチ公」はとてもかわいくて人気ですよ。

プロダクトデザイナーとしての経験を経て、退職後留学したデンマークの教育機関で先生から言われた「あなたは今をどう生きるかではなく、すべて未来のために今を生きているよね」という一言で、目標の達成に注力するあまり、いま本当に自分がしたいことについて、考えていなかったことに気づかされた磯村さん。
帰国後に始めたプロジェクトが、学校や区、福祉施設を巻き込んで、大きなうねりとなっていきます。その様子はぜひ、「こここ」の連載『デザインのまなざし』でご覧ください。