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最先端テクノロジーと人との融和〜2020年度グッドデザイン賞 審査ユニット08(映像機器) 審査の視点レポート

グッドデザイン賞では、毎年その年の審査について各審査ユニットごとに担当審査委員からお話する「審査の視点レポート」を公開しています。グッドデザイン賞では今年、カテゴリーごとに20の審査ユニットに分かれて審査を行いました。審査の視点レポートでは、そのカテゴリーにおける受賞デザインの背景やストーリーを読み解きながら、各ユニットの「評価のポイント」や「今年の潮流」について担当審査委員にお話しいただきます。
本記事では、審査ユニット8(映像機器)の審査の視点のダイジェスト版をレポートします。
ダイジェストではない全部入りは、YouTubeで映像を公開していますので、よろしければこちらもどうぞご覧ください。

2020年度グッドデザイン賞審査の視点[Unit 8 - 映像機器]
担当審査委員(敬称略):
宮沢 哲(ユニット8リーダー | デザインディレクター/プロダクトデザイナー|アンドデザイン 代表取締役)
青木 俊介(ロボットクリエイター|ユカイ工学 代表)
橋倉 誠(プロダクトデザイナー|MAKOTO HASHIKURA DESIGN 代表取締役)
山﨑 宣由(プロダクトデザイナー|東京藝術大学 美術学部デザイン科 准教授)

使う人と物がお互いにより良い反応を生み出だすデザイン

宮沢 本ユニットでは、主にカメラ、レンズ、通信端末、モニター、ソフトウェアなどの審査を行いました。今年からは二次審査では別に審査をしていた中国・韓国・台湾から応募された製品も加わって、同じ会場での審査が行われました。
今年のテーマは「交感」で、この言葉には、使う人と製品がお互いによりよい反応を生み出だすという意味を含んでおり、まさにこの「交感」がユニットとして重要な審査基準の一つとなりました。
このユニット8で受賞したものを俯瞰して見た時に、いくつかのキーワードが見えてきました。その一つが「なめらかさ」という言葉です。いままでも多くの製品が、迷わずにスムーズに操作できるように、全体の操作体験がデザインされてきましたが、今年はさらにAI技術など新しいテクノロジーをうまく活用することで、ユーザーのやりたい事がとても簡単に、これまで以上にスムーズにつながっていくものが目立ちました。このように、この「なめらかさ」という言葉が、ものと人とのあいだに存在することで、よりよい関係を生み出し、ものへの愛着につながっていくという、今後も重要なキーワードになると思います。
二つ目のキーワードは「ゆたかな情緒表現」です。このユニットに応募される製品の中には、使うことで喜びや楽しさを感じられるものが多く存在しました。それらを表現するために欠かせない豊かな情緒表現は、目に見えない部分にこそ潜んでいます。たとえばカメラのレンズの場合は、操作するときの最適な重さ。カメラ本体では、ボタンのクリック感や操作することを実感させるシャッター音、持った時に感じる手触り感などです。スマートフォンであれば、手にしっくりくる、こだわりのある質感やスムーズな画面UI。TVであれば、映像と音の感動的なバランスなど感性的なこだわりを多く感じました。
三つ目のキーワードが「道具」です。ここでの「道具」という意味には、「人と技術と製品文化」が融合しながら、ものとしての完成に近づくというニュアンスを持っています。このように、「道具」という言葉に含まれる意味は、着実に進化しながら、時間を重ねたものにしか使えない言葉だと思います。以上がこのユニットでのキーワードとして挙げさせていただきました。
審査に関しては、私たちは徹底的に現物主義で進めていきました。触って操作できるものは、時間をかけながらコンセプトと製品との整合性がとれているか、また品質や完成度なども判断し、趣味や嗜好性を求められるものに関しては、その製品が持つ目的と機能とのバランスや、時代にとって求められる表現なのか、などを慎重に見ていきました。
また、感性的な情報が含まれている部分、たとえば持った時の手触り感や、ボタン・トルクの重さ、UIのここちよいレスポンスなど、目に見えない部分の表現にも気を配りつつ、応募書類も丁寧に読みこみ、書かれていない部分も想像しながら、できるだけ時間をかけて審査をさせていただきました。
全体を通して、それぞれ着実な進化をしている製品が多かったと思う反面、その完成度の高さからか、やや窮屈ともいえる印象を受けたこと、また循環型社会への積極的な取組みを訴えたものが少なかった印象をうけたことも事実です。このコロナ禍で、今後、人々の意識は確実に変化します。その深い洞察力で生活がどう変化し、新しい価値が生まれるか。そんな製品の出現にも同じように期待したいと思います。

スタビライザー搭載ハンドヘルドカメラ [DJI Osmo Pocket]

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宮沢 日本でも2018年に発売されたのでご存知の方も多いかと思いますが、自社の空撮ドローン技術を応用して作られた超小型3軸ジンバルカメラモジュール採用のカメラで動きながら撮ってもブレにくいことが特徴です。この製品のコンセプトである「新しい撮影体験」によって多くのユーザーに手軽でありながら、本格的な映像が撮れるという魅力を伝えたという功績はとても大きいと思います。また、単純に小さい=使いにくいではなく、大きな画面が欲しい場合は、スマートフォンと接続するなどして、小型であることの欠点を補う拡張性にも優れています。中でも、撮影対象物を中心でとらえつづける機能などは、ジンバルならではの機能です。この製品によって、Vlogerと言われる新たな表現者も多く増えました。以上を踏まえ、多くの審査委員の評価を得て、グッドデザイン・ベスト100に選ばれました。

山崎 この製品はメカニカルジンバルという形で非常に構造的なジンバルをもっているんですけど、プロダクトとしてのアイデンティティになっていて、アイコニックで、他の造形物にはないような特徴的な形になっています。また、そのジンバルが動く独特な動きを手の中で感じられることが、わくわくする体験にもなっています。そのような新しい「撮影体験」を提供できているところが高い評価を得たポイントだったと思います。
UI自体も非常にシンプルで、ボタンは2つしかなく、小さな画面は確認用とタッチパネルになっていて、明確なユーザーインターフェースとなっていることで、滞りなく創作に集中できる点もよく配慮されています。
もちろん単体でも使えますが、スマートフォンと接続して使うなどの拡張性も充実しているのが特徴です。

宮沢 小さいプロダクトは細部までの高い完成度を求められますが、これは質感も良く、よくまとまった製品だと思います。

全天球カメラ [IQUI]

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宮沢 超小型ペン型サイズを実現した360°カメラです。これは同じリコーの全天球カメラであるTHETAの開発チームが、社内スタートアップ制度を利用して、独立したベンチャー企業によって作られました。今までの360°カメラは製品サイズが大きくなりがちでしたが、これは4つの小型カメラを組み合わせることで、ペン型の超小型サイズを実現しています。まず評価したのは、360°カメラをさらに一般普及させたいという強い気持ちから生まれ、結果としてそれが、ブレずに具現化されている点です。この製品は、撮影体験の一連の流れがとてもスムーズで、例えば、ケースから出す時に、取り出しやすいように、少しだけ起きあがったり、スマートフォンとのペアリングでは、アプリを立ち上げ、本体をスマートフォンに近づけるだけで完了したり、撮った後もアプリの自動編集で、SNSにあげやすいデータを自動生成したりと入り口から出口までのなめらかさは、デジタルツールのお手本のようでした。この製品によって、新しい表現者や作品が増えていく事を期待したいと思います。

山崎 この製品は女性をターゲットとして意識していることもあって、ケースや色のこだわりが徹底されていて、今までの全天球カメラとは違った嗜好性が出ているという気もしました。

宮沢 もともとこういう製品は、本体色に黒を採用する事が多いのですが、珍しいシャンパン色の採用は製品のコンセプトをぶれずに体現するための強い意志を感じます。本体の出来も重要ですが、収納ケースの出来が本当に良い。こういう気の配り方が、とても丁寧で360度カメラを皆に使ってもらいたいという思いが、綺麗にあの形に美しくまとまっており、すばらしいと思いました。

RAW現像ソフトウェア [FUJIFILM X RAW STUDIO]

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宮沢 富士フィルムが発売した、Xシリーズカメラ専用のRAW画像編集ソフトです。もともとRAW画像フォーマットは非常にデータ自体が大きくて、PC側の負担がとても大きいため、結果として動作が遅くなったりしていました。このソフトはPCの処理能力の影響を一切受けずに、カメラ側の画像処理エンジンを利用する事で、従来比約20倍の高速処理を可能にしました。今までのソフトとハードが分業する関係から、お互いを補完しあう関係が生まれたことは、積極的に参考にすべき事例かと思います。処理の速さゆえに画像の試行錯誤が少しでもストレスなくできることは、良い作品を生み出すことにも貢献します。また無料のダウンロード・ソフトでありながら、丁寧なバージョンアップを行っているメーカーの姿勢も審査委員一同高く評価させていただきました。そういう環境を作ることによって、このXシリーズカメラの価値が上がっているという非常に参考にしたい事例の一つだと思います。

青木 画像処理用のフィルム・シミュレーションの機能が富士フイルムのカメラで非常に特徴的で、ファンも多くいます。その機能はパソコン側から呼び出して、シミュレーション処理だけをカメラ側のICを使って行うことはすごくユニークな構成です。

Mobile Phone [Punkt. MP 02 Mobile Phone]

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宮沢 この端末は、機能としては音声やショートメッセージ、デザリングのみ搭載しています。「私たちの生活の多くの時間を端末に支配されていないか?」という問題を提起し、「情報との適切な距離感」をコンセプトにしてています。通常、通信機器は新しい技術を採用することで、右肩上がり進化していきますが、近年スマートフォンの普及によるSNSやネット中毒といった問題なども顕在化しています。本製品は、メーカーも明言していますが、スマホと対立しているわけではなく、必要に応じてテザリングによる二台持ちなど、情報密度を物理的にコントロールすることを推奨しています。あくまでも、この製品は選択肢の一つと言い切るメーカーのその提案は、心地よい暮らしの実現に対する挑戦でもあるし、この製品によって、生活に「間」を生み出すという、私たちにも新たな気付きを与えた点が高く評価されました。盲目的な技術進化にただ従うだけではなく、意思を持って選択し生み出される製品コンセプトの強い提案性に感銘しました。
何よりも快適というキーワードで製品が作られていて、細かい処理や持ったときの感じ、ボタンのクリック感など、とても良くできた製品だと感じます。画面はフルカラー液晶ですが、わざとプロベースに白反転の文字にすることで一体感を作るような雰囲気づくりも含めて、快適さということを表現した端末になっています。

橋倉 携帯電話の審査が非常に難しくなってきているのですが、とくにスマホは成熟してきていて、どれも高いクオリティで、モノとしての作り込みもよくできている。その反面、デザインが画一化し、プロダクトとしての違いが明確に見えない市場になってきているからこそ、このPunktが際立った年だったのかと思っています。ちょっと話が飛ぶかもしれませんが、「シンギュラリティ」が最近しばしば議論されますが、技術との付き合い方でいうと、SF映画のようにコンピューターが人間を攻撃してくるというよりは、知らず知らずのうちにスマホやテクノロジーに行動をコントロールされて、人間本来のバランスみたいなものが崩れてしまうことの方がリアルで、皆なんとなくその危機感を感じているのに、つい使い続けてしまう。
成熟期を迎えて、スマホやテクノロジーとの付き合い方を真剣に考えるフェーズになってきていて、そのきっかけになる製品だと思います。

山崎 液晶画面に支配されているような今の世の中で、こういう情緒的にフィジカルな部分で自分たちの触感に頼れるというプロダクトが出てきて、久しぶりにこういうものを触って、プロダクトの源流のようなものを触った心地よさを非常に感じました。そういう感性刺激に回帰させられて、源流の存在を痛感した製品だと思います。

デジタルシネマカメラ [EOS C500 Mark II/EOS C300 Mark III]

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宮沢 ワンマンオペレーションにこだわった、プロ向け業務用デジタルシネマカメラです。撮影時に本体を振った時のモーションによる映像ブレが少なくなるように、全体の重量バランスを加味したキューブ状の本体形状になっており、本体の操作部のデザインは、形状や、CMFの工夫によって、ノールック操作による即時性を実現しています。高品位な映像が求められる映画やドラマから、機動力が重視されるニュースやドキュメンタリーまで、幅広い映像コンテンツの制作に対応できるように、オプションによって手持ち、肩乗せ、ドローンなど、多彩な撮影に対応します。それら、ひとつひとつの物理的制約を丁寧な仕事によって解決されたディテールは、会社の姿勢や哲学がカタチとなって現れていました。世の中の潮流である「簡単・シンプル」とは真逆の、現場を支える機能と操作性がパッケージとして見事に融合しており、プロダクトデザインとして一つの集大成であるように思います。これらを踏まえ、審査委員一同、高く評価させていただきました。
一般のコンシューマ向けの製品ではないので、皆さんが現物を見ることは少ないと思いますが、こういう製品があって初めて美しい映像や、楽しい映像が享受できるということは非常に大きいかなとも感じました。

橋倉 これは多くの審査委員が見惚れて高く評価した製品でした。これだけ要素が多いものを一つの魅力的な塊として仕上げる力、デザイナーとしての個の力もそうですけど、その質をコントロールしているメーカーとしての力も感じていて、ディテールの集積が一つの雰囲気を作り上げているところがやはりすごい製品だと思います。キヤノンのカメラは全般的にそうなのですが、その質感やディテールが極まっていて、そこにキヤノンらしさのフレンドリーな魅力も備わり、本当にいい製品だと思いました。

山崎 スイッチ類、コネクターなどたくさんある複雑なインターフェース要素をこれだけ綺麗にレイアウトする実装力、視覚的にわかりやすくグルーピングしている見せ方とデザイン力を含めて、両方その力のすごさが表現されているかなり優れたデザインで言えるのではないかと思いました。

宮沢 メーカーのデザイナーの方に実際にお話を伺うと、開発に2〜3年かかったと言っていました。やはりそれだけ時間をかけて作り込んでいるだけあって、かなり細かい部分までディテールの作り込みに迫力と説得力があって、文句なしに多くの審査委員が高く評価したモデルだと思います。

デジタルカメラ [Panasonic LUMIX DC-G100]

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宮沢 レンズ交換式のデジタル一眼カメラとしては珍しく、シューティンググリップを含めたVloger向けの製品提案している点が特徴で、先ほどお話した通りデジタルカメラの世界はかなり成熟していることを感じる部分が強くありました。新しすぎるモノを提供するとお客さんが受け入れられないし、新しいものにチャレンジすることのバランスが求められていると思います。Vloger向けの製品でありながら、一眼のクオリティを持っていたり、レンズが交換できる価値を提供していたり、新しいモノを作っていきたいことと、成熟されている製品の二つのバランスが見事に表現できていると思いました。最近こういう製品は結構ありますが、このタイミングで出せていることは、おそらく数年前から開発しているだろうと思いますし、生活変化を読み取って、新しい製品を提供できた点が非常に優れて、挙げさせていただきました。

アクションカメラ [Insta360 ONE R]

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青木 Insta360というメーカーは、ずっと360度カメラ出してきた創業5〜6年ぐらいのベンチャー企業で、社長さんも若い世代の方です。これだけのクオリティのあるものを作ってきていることは本当にすごいと思います。レンズ部分とモニター部分とバッテリーなどがモジュール化されて、分解して、レンズだけを交換していくという使い方もできて、かなりチャレンジングな設計だと思います。その嵌め合わせた感じのかっちり感とか、ケースなしの状態で防水を実現していることもメーカーの実力を感じます。
ソフトウェアはシリーズを重ねて、共通のアプリなので、どんどん機能が進化していて、アクションカメラの概念を変えてしまうのではないかと言われています。とりあえず、360度で撮っておいて、後で気になった方向を指定して、そこの画像だけ自動的に抜き出してくれます。後できれいなところを選べばいいわけです。これはカメラに対する概念を変えてしまうようなパワーを持った製品だと思います。

アソビカメラ [iNSPiC REC]

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山崎 遊びカメラという形が特徴的なスナップカメラをキヤノンが作りました。私がこれを取り上げるのは、写真の撮り方がどんどん高品質を求めている方向に行っている中で、「こんなものを撮れちゃった」とか「失敗したけど偶然こんなものが撮れた」みたいな撮り方ができる、という撮り方自体に新しい変革を与える可能性を持っているという点が良いなと思ったからです。高価なものを大事に扱うのではなく、これは楽に使えるので、子供でも、どこでも使えるという新しい体験を提供できる可能性があると思いました。老舗メーカーが新しい使い方を模索しながら、若い人たちのアイディアを具現化して、製品に落とし込んでリリースしている、そういうメーカーの取組が今後の新しいイノベーションにどんどん繋がっていくのではないかというところは高く評価したいと思っています。

カメラ用交換レンズ [RF600mm F11 IS STM/RF800mm F11 IS STM]

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山崎 600ミリと800ミリは本来ならば、大型になる望遠レンズはプロユースに近いような製品ですが、ミラーレスカメラの発展により、非常に軽量でコンパクトになっています。見えないものが見える体験をこれによって、アマチュアレベルの方々も体験できるような低価格になっていますし、扱いやすくなっていて、非常に革新的だと思いました。仕上がりも良く、操作性もそう難しくないので、カメラの魅力に親しむにはとても良いきっかけになるのではないでしょうか。

フォトブック作成アプリ [FUJIFILM Year Album]

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橋倉 銀塩写真画質や長期間色褪せない品質など、富士フイルムというフィルムメーカーが長年培ってきたその技術を撮影からアウトプットまで一連のシステムの中で提案したというところに非常に価値があると思っています。成熟製品となったカメラは解像度やレンズ性能が飛躍的に進化しましたが、YouTuberやVloggerのような個が発信できる時代になって、その用途は広がっているものの、撮った後の静止画や映像をどうやって体験させるか、何を価値とするかというところの提案がまだもっとあるのではないかと感じています。市場には様々なフォトブックサービスが存在していますが、デジタルデータでは感じられない、こういう物質的な価値の提案はもっと出てきてもいいと思います。例えば、運動会の時、お父さんはファインダーばかり見て、そのデータを残すことに集中してしまい、実際の目で見たり、感じたりするような生の体験の機会を逃してしまったり、そのデータ自体もハードディスクの中に眠ってしまったりしています。
AIの関わり方として、そういう埋もれているものを拾ってくれて、自然提供してくれるというところがこれからあると思います。
エディトリアルデザインの質やタイポロジーやグラフィック的なところの製品の詰めをさらに高めて、フォトブックとしての本質的な美しさの追求をし続けていって欲しいと思います。

4K有機ELテレビ [レグザ65/55/48X9400シリーズ]

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山崎 これはまず見た時に非常に作りがきれいにできていて、有機ELパネルを存分に発揮させるような構造体になっていると思いました。四角いスクエアの場に薄板が刺さっているようなダイナミックな構造を大胆にやっています。その中で、いろいろな機能性を盛り込んで、しかもいい音でそこから流れていることはすごいと思いました。そして、レグザとしてのブランドのアイデンティティをこういう形に調整させていったというメーカーのこだわりと追求というところが非常に高い評価になったと思います。

宮沢 TVにとって何よりも音質の良さは本当に重要な要素です。各社映像の美しさに注力していますが、音と映像が滑らかに融合することでより感動の価値が格段に上がります。そこの部分をコンパクトな形の中に一つにきれいに収めることができた点は高く評価できます。

有機ELテレビ [Panasonic TH-HZ シリーズ]

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橋倉 テレビもだんだんフレームだけになってきて、デザインすることがなかなか難しい時代になってきたと思いますが、各社はそのデザインのアイデンティティをどう考えていくかを積極的にトライしていた印象を受けました。このパナソニックのテレビは12ミリの円盤の中にスィーベルの機能と転倒防止の機能をうまく収めています。この転倒防止ですが、地震や子供が触った時に倒れないかという生活者の暗黙の不安に応えながら、寄り添ってデザインしていることを感じました。
吸盤構造は、スイーベルの機能や円形のかたちと無理なくリンクしていて、こういったシンプルなアプローチは新鮮でもありました。
背面のデザインもすごく配慮されていて、埃が入らない放熱孔の形や、ケーブルのマネジメントのこともよく考えて、すっきりデザインしています。使用者の生活に寄り添ったデザインアプローチが非常にいいと感じました。

Television [HUAWEI VISION X65]

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青木 このHUAWEIのテレビは、同社がスマホやタブレットで蓄積してきたソフトウェアやユーザーインターフェースデザインの技術をフルに盛り込んでいます。本当にユーザーの使いやすさを追求したところは素晴らしいと思います。モノとしても、金属製の筐体で、上にカメラがって、このカメラはもちろんテレビ会議に使うだけではなくて、リモコンを持たずに、ジェスチャーでいろいろな操作します。ネット上のコンテンツも見ることができます。これはスマートテレビのあるべき姿を体験できる製品を感じました。

宮沢 製品としての完成度がとても高く、上質な質感のようなものが全体で表現されています。単純にテレビとして良いかどうか悩みますが、確かにお茶の間の一等地のところで、テレビ電話などいろいろな使い方ができるということは正しい機能付加だと思います。映像を見るだけではなく、高性能PCのようなものが居間にあることの新しい使い方の可能性を改めて感じしました。

Gaming Monitor [ZOWIE XL series]

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山崎 近年eスポーツが盛んになって、プロゲーマーの方々が使う専門性の高いモニターは、先ほど話したテレビと同じようにどんどんミニマル化が進んでいます。プロゲーマーという特定ユーザーがより使いやすくするために、非常に物理的なインターフェイスや画面の中のインターフェースなどに工夫がされています。没入感を得られるような構造として、フラップがついていて、或いはキーボードを斜めに置くことによって、手の動きがより早くなるとか、間違いなく操作できること、イベント会場にモニターを持って行ってセットアップするとか、その設定を変えることがスムーズにできるインターフェースを専用に作っているというところが非常に特徴的だと思いました。ケーブル類のとりまとめも非常に工夫されています。ユーザーを徹底的に観察して、必要な要件を全部機能として、満たしているところが高い評価の対象になったと思います。

宮沢 ゲーミングモニターはその目的からか加飾表現が強い商品が数多く存在するのですが、本製品はシンプルな造形で使いやすくまとめられています。もともとモニターは成熟市場だったのですが、PCゲーミングという新しいのジャンルの定着のために、完成度と使い方の可能性を広げて欲しいと思います。

山崎 解像度よりもレスポンスの良さみたいなものを求めるようになっています。そういう需要で、それプラスユーザーが自分なりにカスタマイズをしながら、簡易にその設定すぐにできるみたいなところも非常に今までの表現と作り込みと違った作り込みをしています。最近後ろの光る加飾はずいぶん抑えられつつあって、前ほどピカピカの感じがなくなっています。

宮沢 他製品にも見られましたが表現の方向性として大袈裟な加飾より、空間の中でどう調和し機能するかなどの視点も引き続き、考えていただきたいと思います。

スマートフォン [BASIO4]

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スマートフォン [かんたんスマホ2]

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スマートフォン [シンプルスマホ5]

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宮沢 各社からシニア向けのスマートフォン製品が出ています。最近はデジタル決済を推奨されていたりとか、よりインフラとして使いこなす情報リテラシーが求められていると感じます。
新しいものを習得することが苦手なかたに向けて、製品ハードルを下げる取り組みは、より重要な視点の一つになってきています。たとえば新しいものを習得することが苦手な方は機種が変わることに対するアレルギーやストレスが強く、壊れたままずっと放置してしまい、いざという時に困ったりと、なかなか簡単に解決できないという事象も見えてきていると思います。
こういう製品群を見ていただくとわかると思いますが、各社、非常に使いやすく考えられているし、そこまで個々の製品に大きな違いがないと思います。ここで提案なのですが、高齢化社会の先頭を走る日本にとって、ここで各メーカーがそれぞれの商品を考えるのではなく、知恵を出し合う事で一つ完成された製品やホーム画面やUI作る事で、ユーザーが毎回新しい事を習得するハードルを低くしたり、使う人が増えれば、お互いが教えあえる機会が増えるなど課題解決にもつながります。社会問題の一つである情報格差を少しでも減らすだけでなく、結果それをスケールさせて、海外に輸出するというような展開が生まれると、さらに夢が広がってくると思います。

smartphone [LG V60 ThinQ 5G]

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宮沢 これは本体とケースのセットで使う事で、2画面にする事ができます。もともとスマートフォンの本質的な価値は視覚が主なので、各社がより大画面をコンパクトに持ち運べるように切磋琢磨しているマーケットです。
現在、一枚の有機ELを折りたたんで持ち運べる端末はありますが、高価格である点や、耐久性など性能的にまだ未知の部分が多く、コストを下げることは容易ではありません。これらの問題に対し、本製品はケースを装着することによって、大画面を比較的に安価に実現しています。またパソコンのように、a画面とb画面を分けることによって、マルチタスクを多様する仕事のシーンでは使いやすいと思います。そういうコストと機能と使用性のバランスや、必要な時だけ装着できるというハンドリンクなどを含めて、可能性のある端末と思っており、挙げさせていただきました。

まとめ

橋倉 今年は、コロナの影響で、映像との向き合い方が大きく変わった年だと思っています。リモートでのコミュニケーション、テレワークの普及により、多くの人が同時に、その作法や付き合い方を学んだ年だと思います。
ただ、実際に会えないと感じられないものであったり、リモートでは得られにくい余白の部分というか、そういったデジタルに置き換えられない価値が浮き彫りになった年でもあったかと思います。
フィルムの例でもお話しましたが、デジタル化によって、手軽に様々なコミュニケーションができるような時代になっているけれども、その0と1の間で、なにか抜け落ちていってしまっているものや物質的な体験価値のようなものをもう一度すくいあげてくれるような、そういった新しいデジタルの姿やデザインを来年は期待したいと思いました。

青木 ものづくりの集大成というカメラ分野とか、日本メーカーが力を持っているような分野でもやはりソフトウェアの力でユーザー体験を変え始めていることを感じました。海外のユーザーのレビュー動画も見ていますが、富士フイルムX100Vというカメラに対して、「すごくいいカメラですけど、俺の娘は使ってくれないんだよ。インスタグラムにあげられないから、富士フイルムはメーカーだから、そういうことを考えてくれないんだよ」というファンから課題を投げているような場面があります。ですから、ソフトウェアはメーカーのものづくりの一つ大きな要素だと思います。そういうところはやはり中国メーカーのHUAWEIなどのソフトウェアの力を感じています。

山崎 この映像機器のユニットは非常に成熟したプロダクトが多いユニットだと思います。成熟産業の中で誠実に進化を遂げようとする活動や努力というメーカーサイドの活動も後押していきたいと思っていますので、ぜひ取り込んでいただきたいと思います。そして、メーカーならではの使い方や楽しみ方を、ユーザーのニーズから拾うのではなくて、メーカー側のシーズでぜひ提言してくれるような製品を世の中リリースしていただけると非常に楽しいと思います。

宮沢 このコロナ禍の中で、やはり人々の価値観や意識が大きく変化したと思います。このユニットで審査するもののすべてが生活必需品かといわれると、そうじゃないものもありますが、成熟された趣味性の高い製品も含めて、この変化は必ずカタチとなって現れてくると思っています。ですので、この変化をうまく捉えた新しい製品をみたいと思っています。
あともう一つ、循環型社会への対応はもはや必然です。もちろん従来からCSR的に当たり前のものとして行っている取り組みなどがあると思いますが、もっと大きなテーマとして、そもそもリサイクルするようなものと、愛着を持ってずっと使いたいと思うものの正解はまだ出ていないように思います。その循環型社会に対するそれぞれの解決方法や提案がメーカーとして提示していただけると、この産業がより良い進化を発展すると思いました。

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