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【グッドデザイン賞受賞者に話を聞いてみた】面白がりながら、世の中を変えていく

こんにちは!グッドデザイン賞事務局広報の塚田です。

ただいま、東洋経済オンラインでは、2019年度ファイナリストに選出された5組の紹介とともに、グッドデザイン賞についてわかりやすく伝える特集【PR記事】が掲載されています。

事務局も各ファイナリストへのインタビュー取材に同行したのですが、限られた誌面では掲載できなかった中にも、心に残る発言がたくさんありました。

今回はその中から特に、福島県いわき市の地域包括ケア「igoku」の取り組みについて、市役所の地域包括ケア推進課職員(インタビュー当時)であり、ウェブマガジン・冊子「igoku」の編集長でもある猪狩僚さんから伺った胸に刺さる言葉の数々を、少しだけ紹介します。

地域包括ケアとは?igokuとは??

「地域包括ケア」とは、厚生労働省によると、「住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるケアシステム」のこととされています。

2019年度のグッドデザイン賞金賞に選ばれた「igoku」では、さらに一歩踏み込んで、死・医療・介護など一般的には遠ざけられがちな話題について、ウェブマガジンや紙の冊子を発行したり、フェスを開催するなど、通常の市役所の仕事としては考えられない様々な手段を用いて、自分ごととして身近に感じてもらうための取り組みを実施しています。

…と、説明しても、なかなかわかりづらいのが正直なところなのではないかと思いますので、もっと詳しく知りたい!という方は、猪狩さんがigokuについて紹介している、このYouTube動画を見ていただければ、なるほど!とすっきり理解できるはずです。ぜひご覧ください。

igokuのできるまで

まだ春が訪れる前の2月に、東洋経済編集部とともに、igokuが運営に関わっている食堂「いつだれkitchen」へお邪魔して、猪狩さんにお話を伺いました。

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igoku 編集長 猪狩僚さん(福島県いわき市役所職員)

猪狩さんがigokuの活動を始めたのは、地域包括ケア推進課に異動してきた4年前に、はじめて福祉の仕事についたときに触れた「医療・介護に携わる人たちの熱い想いを、自ら発信したい」という気持ちからだったそうです。

そんな猪狩さんのもとに、デザイナー、編集者、カメラマン、ライターなどさまざまな技能を持った人たちが集まり、編集部が結成されました。

そうして創刊した冊子igokuは、いきなり3号連続で「死」をテーマにした特集をメインにするという思い切った形でスタートしています。(現在はvol.8まで発刊)

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内容についても「死をタブー視しないことを伝えたい」という思いから、「ある意味“福祉っぽく”ない、一般の人の目にも留まるもの」を目指していて、「自分たちが手に取りたいかどうかが判断基準」という方針で作っているそうです。

ウェブマガジン「igoku」はこちらからどうぞ(冊子版についてもPDFで見ることができます)

市役所がフェスをやってみた

また、「生と死の祭典」と銘打って開催されているいごくフェスでは、

音楽やトークのライブだけではなく、VRで看取りを体験できたり、

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棺桶に入ってみたり、

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遺影のフォトフレームで写真を撮ってみたり(「涅槃スタグラム」)

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さまざまな形で死を身近に感じる体験を提供しているのですが、この取り組みについても、押し付けがましいものではなく、ふだん家族での話題にならないような死や老いに関して、「フェスの帰り道やその日の晩ご飯時に、少しでも話をしてくれるきっかけになるイベントにしたい」と言います。

その背景にあるのは、福祉の仕事を通じて「亡くなってから、その人の死は近しい家族のものになる」ことを知り、「故人の希望通りに死が迎えられたという想いは、残された家族にとってすごくポジティブなものになる」のを体感したからで、「故人の希望が生前から共有されているのがものすごく大事」と語っていました。

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“igoku的目線”で、世の中は面白くなる

最後に、igokuを運営する上で大事にしていることを伺ったところ、「本質的な目標は何なのか、というゴールはブレないようにしつつ、でもみんなの期待をあえて裏切っていく」ことで、表現に関しては、やっているだけの仕事にならないように、「誰からも怒られないようなものは誰にも刺さらない」と、考えているとのこと。

「基本的にはおじさんの悪ふざけだから」と言いながら、もしこの取り組みを面白いと思ってもらえているとしたら、それは福島県いわき市だからできるというわけではなくて、igoku的な目線で見れば、全国どこででもできる」と楽しそうに語る猪狩さんをみていると、確かに面白がりながら世の中を変えていくことができそうな気がしてくるから不思議です。

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多様性にあふれた食堂「いつだれkitchen」

ちなみに、今回訪れた「いつだれkitchen」は、猪狩さんが福祉に携わるなかで、日々の食べ物に困っている方と出会う一方で、自分は近所の人から食べ切れないほどのおすそ分けをもらっていることに違和感を感じ、なんとかできないかと考えて始めたコミュニティ食堂です。

週一回オープンし、食材はすべて寄付で賄われ、調理もボランティアで行われていて、お代も投げ銭方式で、好きな金額を支払うようになっています。

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いただいたご飯はとてもおいしかったです

働いている方も障害を持つ方や認知症の方だったりと様々でありながら、地元の親子連れなどで賑わっていて、多様性という言葉の意味がいっぺんに体感できた気がしました。

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igoku編集部のみなさん

猪狩さん、igokuのみなさん、ありがとうございました!