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『デザインのまなざし』のこぼれ話 vol.4

マガジンハウスが運営している、福祉をたずねるクリエイティブマガジン「こここ」で、グッドデザイン賞の連載『デザインのまなざし』の最新エピソードが公開されました。

『デザインのまなざし』とは
「福祉」と「デザイン」の交わるところにある、人を中心に考えるまなざし。その中に、これからの社会を豊かにするヒントがあるのではと考え、福祉に関わるプロダクトやプロジェクトと、それを生み出したり実践されたりしている方々を訪ねる連載です。
https://co-coco.jp/series/design/

第四回に登場してもらったのは、2021年度グッドデザイン賞を受賞し、ベスト100に選出された「北長瀬コミュニティフリッジ」を運営する一般社団法人北長瀬エリアマネジメント代表理事の石原達也さんです。

石原達也さん

「北長瀬コミュニティフリッジ」は、生活に困難を抱えている人たちが、食料品や日用品を24時間いつでも、無料で受け取ることのできるしくみです。

個人や企業から寄付された物資を、複合商業施設「ブランチ岡山北長瀬」(岡山県岡山市)の駐車場に併設された無人の倉庫に保管。登録した利用者は、スマートフォンのアプリで電子ロックを解除して入室し、必要とする食材などを自由に持ち帰ることができます。

この取り組みは、新型コロナウイルスの影響で経済的に困窮する家庭が増加するなか、2020年11月にスタート。開始以降、テレビ・ラジオ・新聞・ウェブなどさまざまな媒体で数多く取り上げられ、2021年11月までの1年間で、寄付点数は20万点弱、寄付総額は3,500万円以上にものぼりました。

積極的に運営ノウハウの移転を行うことで、岡山を含めすでに全国6ヶ所で開設されるなど、支援の輪が広がり始めています。

このnoteでは、本編からこぼれたお話として、NPO法人の理事として日々を過ごしていた石原さんが、どのようにしてコミュニティフリッジを運営する一般社団法人 北長瀬エリアマネジメントに携わるようになったのか。そして今、この場所で叶えたいと思っていることについてお伝えします。

撮影:進士三紗 / 写真提供:マガジンハウス〈こここ〉編集部

―北長瀬駅前のこの一帯は、どのようにできたのでしょうか。

石原:この場所はもともとJRの操車場で、たくさんの電車が止まっているところだったんです。その跡地を岡山市が再開発することになって、まず市民病院が市街地から移ってきました。

さらに商業施設を作ることになり、隣に新しく公園ができることも決まっていたので、それらを含めた新しいまちづくりを念頭においたプランを出してくださいということでした。

その時、プロポーザルに参加しようとしていた大和リース株式会社さんから、どんなまちづくりをするべきかについて相談されました。そこで、今までとは違う、民間だからできる新しい公民館みたいな場所を拠点にするといいんじゃないかと話したところ、ぜひやりましょうと盛り上がったんです。

複合商業施設「ブランチ岡山北長瀬」

―それを含めた提案が通って、ブランチ岡山北長瀬ができたんですね。

石原:はい。そこで、単に商業施設で拠点を運営するだけでなく、隣接している公園やシェアスペースを含め、駅前地域一帯のまちづくりをするための組織にしようということになって、北長瀬エリアマネジメントを立ち上げました。

北長瀬エリアマネジメントのコンセプトは、「あたらしいふつう」です。「普通」なのかどうかは個人の判断なので、他の人から見て普通じゃないものでも、その人の中での、自分なりの新しい普通を育てる応援をしたい、それにより「常識」を変えていきたいという思いを込めています。

―具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか。

石原:例えばシェアスペースでは、専業主婦の方が小商やプチ起業をするような、「起業をより普通にする」お手伝いもしています。それから、新設中の公園の社会実験にも関わっていて、今までのルールを越えて、さまざまなことが実現できる場所にしたいと考えています。

―今まで公園でできなかったことってどんなことですか?

石原:例えば焚火をできないということです。そこで、直火はいけないけど、U字溝を使えば焚けるんじゃないかなど、抜け道や実現できる方法を考えて実験しています。他にも近隣の方にとって騒音だと感じさせることなくライブを開催できるように、スピーカー角度や音量を試してみたりもしています。

―そう考えるとコミュニティフリッジは、北長瀬エリアマネジメントの目指す「あたらしいふつう」の象徴のような場所ですね。

石原:そうですね。これからのショッピングモールが備えているべき公共的機能になるんじゃないかと思っています。商業施設にコミュニティフリッジがあれば、営業終了後にあまった食材などを提供することで、仕事終わりに来られる方に持って帰ってもらうことができます。それで回っていけば、お互いにとっていいですよね。コミュニティフリッジは、物があまっているところと足りないところの調整ができるしくみなんです。

―石原さんの名刺を拝見して、岡山NPOセンターと北長瀬エリアマネジメント以外にも、多数の肩書きが掲載されているのに驚きました。

石原:昨年は山陽新聞という地元の新聞社さんと一緒に「KOTOMO(ことも)基金」というプロジェクトを立ち上げました。コミュニティフリッジは物資に特化した支援ですが、より深刻な家庭の中には、孤立し家から出てこられない家庭もあります。そういった家庭や、不登校・引きこもりの子どもがいる生活困窮家庭などへ、専門性を持つ支援団体さんが訪問支援をするためのお金を出すしくみです。

他にも、シネマクレールという岡山唯一のミニシアターの館長さんから、コロナ禍の影響で経営が大変だと相談を受け、「応援団」を有志で立ち上げて、クラウドファンディングの盛り上げや周知の支援をして1000万円以上のお金を集めました。そういう、まちの中のことをあれこれやっています。

―周りにある“解決しなければいけない課題”から目を背けることなく、いろいろな形で対応されているんですね。このコミュニティフリッジもまさにそうですし。

石原:いろいろな課題を解決するためのしくみを日々考えています。1つの集団ですべてに対応するのは無理だと思っているので、今のやり方でできることを最大化して、できないことは別のやり方で対処するようにしているんです。そうしているうちに、自分の関わる団体がどんどん増えてしまっているという感じです(笑)。

自分の仕事を「しくみ屋」と称し、常に課題を解決し、新しい価値を作るための“デザイン”に取り組んでいる石原さん。
コミュニティフリッジにおいても、寄付をする側・受け取る側両方の想いを汲み取り、生活に苦しんでいる人たちに心の拠り所となる居場所を提供するしくみを作り上げています。
詳しくは、「こここ」の連載『デザインのまなざし』本編を、ぜひご覧ください。