「40代～50代の正社員採用」で日本のフードサービス業に明るい未来を！15年以上もブランクのあった専業主婦がマネージャーを目指してイキイキ働くお店とは！？
【企業・団体名】
【取り組みの概要】
少子高齢化に伴う労働人口の減少が今後より一層厳しさを増すとみられる中、多様な人財の雇用機会を創出し、活躍いただける環境を整備することを目的に、「40代～50代の正社員採用」に取り組み始めた。ターゲットは主に、「出産・育児が一段落した方」ならびに「就業経験にブランクはあるが正社員として働きたい」という方。取り組み開始の2022年4月から2023年5月末までに、延べ12名の方が採用に至る。その多くが、育児・家事が落ち着いた40代～50代の女性だった。
●フードサービス業の要はやはり、「人」。人の成長がビジネスの成長となる業界の挑戦。
株式会社すかいらーくホールディングスは周知のとおり、「ガスト」や「バーミヤン」といった多様なブランドを展開する国内最大規模の直営レストランチェーンである。2023年3月31日現在、国内店舗数はグループ全体で約2,900店。従業員数は正社員だけでもグループ全体で約5,700名に及ぶ。
少子高齢化の進行に伴い、将来を見据えた人財確保に備えて先んじてDX等に取り組んできた。そのうえで、やはりサービスの要となるのは、お客様と心を通わせた接客ができる「人」であることに変わりはない。ビジネスの成長を担う「人」の活躍がなくてはならないのだ。
●さまざまな経験・体験を経た人、一人ひとりが今後ますます価値になっていく。
そこで、すかいらーくホールディングスが2022年4月から取り組み始めたのが「40代～50代の正社員採用」である。この取り組みには2つの狙いがあると、人財本部人財採用グループ社員採用チームリーダーの中西匠さんは語る。
「一つは、求職者に対してより受け皿を大きくすることで当社に入社いただく方を増やすという直接的な狙いです。従来、当社の中途採用は、飲食店での正社員経験がある20～30代の方を中心におこなってきました。 しかし今後は、勤務経験の有無に関わらず、働く意欲の高い人財を求める意向です。そのため、『出産・育児が一段落して、就業経験にブランクはあるが正社員として働きたい』という方も、積極的に採用していく方針です。
昨今、出産・育児を経た後で正社員として働きたいという人が多い一方、再就職の門戸は狭いままだという声を耳にします。当社の取り組みは、こういった方々の希望を叶えるものとしての側面も持ち合わせているのではないかと思っています。
そしてもう一つの狙いですが、それは、『その方の“人生経験”を当社で是非活かしていただきたい』ということです。例えば、長年育児を経験してきた方なら、お子さんの年齢に合わせたコミュニケーションの取り方など、研修でも教えられないようないろいろなものを最初からお持ちですので、店舗マニュアルにもないような臨機応変な接客を自然とおこなってくれたりします。
当社の店舗は、小さなお子様からご高齢の方まで、幅広い層の方々にご利用いただいております。とくに今後は、多様性がますます当たり前の社会となっていきます。そういった中で、さまざまな経験・体験を経た人、一人ひとりが価値になっていくと思っています。」（中西さん）
●よりライフスタイルに合わせた働きやすい環境づくりが重要
取材時（2023年5月末）には取り組み開始から丸1年が経過し、これまで延べ12名の方が採用に至ったという。その多くが、育児・家事が落ち着いた40代～50代の女性ということだ。しかし、面接・採用をおこなううちに、課題も見えてきたと中西さんは語る。
「端的に話すと、『店舗のマネージャーを目指す』ということに対し、ハードルの高さを感じられる方が多いと感じました。育児・家事が『落ち着いた』とはいえ、『ゼロになった』わけではないですから、まず時間という面のハードルがあります。また、多岐に亘る業務や昇格試験も数回あるので、『この年齢でやれるだろうか…』といった不安という面のハードルもあります。
現在すかいらーくグループでは、オーダー端末やロボットの導入、セルフレジなどでDXを図るなどサービス形態が進化し、より人によるホスピタリティ溢れるサービスを表現しやすい環境になってきています。そうした環境づくりをもっと知っていただくことや、今後より求職者の方がチャレンジしやすい環境整備・改革を会社全体で取り組んでいきたいと考えております。」（中西さん）
●15年以上もブランクのあった40代専業主婦が正社員に！
今回入社していただいた12名の方のきっかけや懸ける想いとは何だったのか。次は、その中の一人、小暮広美さんの声をお届けしよう。
「私は昨年までの約15年間、専業主婦をしてきました。家計のために時折パートや派遣社員で働くことはありましたが、生活のメインは専ら二人の子どもの育児と家事でした。
でも、上の娘が高校を卒業して専門学校に進学し、下の息子も高校２年生になり、育児に占めていたボリュームがぐっと軽くなったのをきっかけに、ふと“自分の将来”のことを考えるようになったのです。
『この先、ずっとこのままなのかな…』
『いや、私だって自分の仕事を持ちたい！』
『もっとやりがいがいっぱいの生き方がしたい！』
そんな想いが強くなってきたある日、偶然テレビの情報番組で、すかいらーくグループが40代から50代の方を積極的に募集するという内容にハッと目を奪われました。しかも、違うチャンネル番組で週に2回も！ 『これは運命だ！』と直感しました（笑）。幸い専業主婦になる前、ハンバーガーショップで店長をしていた経験もあるくらい接客の仕事が好きだったので、本当に運命だと思ったんです。」（小暮さん）
勢いそのままに即応募したという小暮さん。採用の電話があったときは、家族全員が喜んでくれたという。
「勢いで応募したものの、やっぱり不安はありましたからね。冷静に世の中見回してみても、40代、ましてや就業経験に15年以上もブランクのある専業主婦の正社員採用なんて、聞いたことなかったですから。」（小暮さん）
先にも述べたが、正社員雇用の場合、マネージャーを目指してもらうという条件がある。その点についてはどう思われていたのだろうか。
「正直なところ、採用されることに必死で、その先のことはあまり深く考えていませんでした（笑）。もちろん簡単なことではないとは思っていましたが、15年以上ブランクがある身からすれば、どんな仕事も簡単にできるものなんてありませんからね。全部含めて『時間はかかると思うけど、自分の仕事に思いを込めて精一杯やっていけば、何とかなるだろう』とポジティブに捉えていました。
まあ、実際仕事をはじめてみると、若い頃のようにはいきませんから、自分でも驚くぐらい仕事覚えが悪かったりします（笑）。でも、『失敗なんか恐れなくていいよ』と上司が声をかけてくれるおかげで、なんでも全力で取り組めています。その甲斐あってか、お客さまに笑顔で美味しいと言ってもらえることも、スタッフ同士が笑顔でやり取りすることもたくさんあって、今は入社前に想像していた以上のやりがいと生きがいを感じて過ごせています！」（小暮さん）
●結婚、出産、育児、家事――、すべての経験を自信につなげて――
仕事での充実ぶりがその一挙手一投足からあふれ出る様子の小暮さんだが、では、家庭との両立はどうだろうか。
「事前に申告すれば休日も取れるので、学校の行事などには問題なく参加できています。ウチの子たちはもうそこそこな年齢なのでありませんが、小さなお子さんが熱を出して急遽休まなければならない場合などは、その大変さが身に染みてわかるので、『お互いさまです』とフォローするようにしています。
普段は12時からの勤務なので、夕食の準備や洗濯、犬の散歩など、できることは午前中に済ませています。でも、私が仕事をはじめてからは、子どもたちが率先して家事を手伝ってくれるようになったので助かっています。じつは娘は、私の採用が決まったとき、『さみしいな』なんて言ってたんですけどね。たしかにそれまでは、帰ってくればいつも私が家にいて、『おかえり』って迎えられていたんですから。でも、最近は私の仕事の話を聞いてきたり、自分も就職時期が近づいてきているから、働くということについて相談されたりもするんです。なんか、私の就職を機に、家族がワンステップ上に成長した気がしますね。」（小暮さん）
そして、同じ境遇の方々に向け、インタビューをこう結んでくれた。
「私が店舗で働くようになって気づいたのは、専業主婦だろうが就業経験にブランクがあろうが、世の中には能力のある方がいっぱいいるんだということです。40代や50代になると、20代や30代とはまた違う不安などもあります。でも、不安以上に、結婚、出産、育児、家事――いろんな経験を積んで『できること』『やれること』も増えていることに気づいてほしいです。それが埋もれたままになっているのは、本当にもったいないと思います。だから、自分に自信をもって、チャレンジしてみてほしいですね。今からでも全然遅くはないですから。」（小暮さん）
最後に、人財本部の中西さんにも伺った。
「小暮さんのとった行動は、あらためて私たちを奮い立たせてくれています。そして、願わくば、これから応募を検討される方の勇気に繋がってくれたら幸いです。私たちも小暮さんのおっしゃるように、40代・50代の採用には大きな可能性を確信しています。ですから、私たち人財本部も、これまで以上に求職者のチャレンジを後押しできるよう努めてまいります。」（中西さん）
すかいらーくホールディングスが打ち出した「40代～50代の正社員採用」は、企業にとっても求職者にとっても、希望にあふれた取り組みだと感じた。日本のフードサービス業がより元気になっていく兆しにも思える。今後の展開・動向を注視するとともに、大いに期待を寄せていきたい。
（WRITING：大水崇史）
※本ページの情報は2023年6月時点の情報です