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博士課程進学を迷っているあなたへ|2017年に博士(理学)を取得した話

大学教員としては,なるべく多くの学生に博士課程に進んで博士号を取得し,研究者になって欲しい.

けれども,博士を取っても就職先がないとか,研究者のポストは任期付きばかりだとか,そもそも博士号を取れるかどうか不安だ,ということで,博士課程に進むには相当な勇気と思い切りがいる.

だから,なんとか博士号を取得して大学教員をやっている僕,つまりなんとかなった人の経験談によって,その不安を少しでも軽減し,博士課程進学を悩んでいる人の背中を押したい,という思いでこの文章を綴ることにする.

僕が博士課程進学を決めた理由

もともと大学に入学した時は博士課程に進むなんて夢にも思っていなかった.むしろ,大学3年生まで部活に明け暮れていて,修士課程もイメージしていなかった.

4年生になり,研究室に配属され,部活も引退し,研究は面白かったので,修士課程に進学することにした.僕の学科では8割近くが院進するので,特に迷いはなかった.

院に入って,学会発表を経験し,「自分で研究したことを誰かと議論する」ということがとても面白かったので,博士課程進学を意識し出した.

博士課程進学を決めたポジティブな理由
・ただただ研究→発表→研究の流れが面白かった
・後輩もたくさんできて,後輩たちとわちゃわちゃしながら研究するというのも好きだった
・色んな人が背中を押してくれて,自分でも漠然といけそうな気がした(楽観的なだけだったが)

博士課程進学を決めたネガティブな理由
・特に社会に出てしたい仕事がなかった

博士課程進学を躊躇う理由1.博士課程在学中の金銭的な不安

博士課程進学を決めたが,学費や生活費をどうしようか,という不安は僕にもあった.ひとまず学振のDC1を取れればどうにかなるのではと思い,M1の夏から初めての論文を執筆し,M2の5月,つまり学振の〆切ギリギリにアクセプトされた.このとき僕はこれでなんとかなる,と思った.DC1は論文一報あれば相当有利になると言われたからだ.(もし博士課程進学を考えていて,学振やDC1という言葉がわからない場合は早急に調べることをおすすめする)

学振の結果は「面接」だった.それでも,書類で落ちなかったのでなんとかなる,と思った.研究室の博士課程の先輩に,面接はみんな受かるよ!と言われたからだ.落ちた笑.

結局,奨学金を月約12万円借りた.学費は祖母が出してくれた.これは相当ありがたかった.在学期間中,TAなどでちょこっと賃金もいただけたので,あまりお金に困ることはなかった.社会人になった同年代と比較して落ち込むことはあったけど.

そして,学位を取得して,返還免除申請を出したが,なんと,半額免除すら取れなかった.自分の不出来を笑うしかない.ただ,無利子の奨学金だったので,のんびり返してもいいかと思ってのんびり返している.マンション購入の住宅ローン審査にもなんの影響もなかった.

というわけで,お金の問題は今のところなんとかなっている.

博士課程進学を躊躇う理由2.そもそも学位が取れるのかという不安

これは実は進学する時はあまり考えていなかったが,D2の5月あたりからいきなり不安になった.そもそも修士と博士で研究テーマを変えてしまったので,やっと研究の方向性が見えた気がしたのが,この頃だった.研究の方向性が見えた瞬間,ゴールが途方もなく遠くに感じた.

結局,これは正直どうにかするしかない.僕は,博士号・博士論文を強大な敵だと思わないことにした.博士号は運転免許のようなもので,「最低限の研究のルールと考え方,論文執筆ができますよ」ということを示すものでしかないと思うことにしたのだ.つまり,博士論文で誰もが面白いと思う壮大な研究をやり遂げる必要はないと思うことにした.まさに『Done is better than perfect.』である.

そう思っても結局博士論文を書くのは相当大変で,最後は相当追い込まれた.この辺りの話はまた別の記事で詳しく書きたい.

結局,特別に面白い研究ができたわけではなかったし,まだまだな未熟だが博士号は取れた.

博士課程進学を躊躇う理由3. 学位取得後の仕事の安定性

なんとか学位を取得した後,僕はPDになった.正直,あまりきちんと就活をしていなかったのだが,僕のいる分野は割と人手不足感があるのでPDの枠は全国にそこそこあった.問題はその後である.

PDの任期は最長3年間だったので,その間に次の仕事を探さなければいけなかった.当たり前だが,できればパーマネント職が良かったので,公募情報を常にチェックしていた.なかなかマッチする公募というのはなかったが,実は所属研究室の教員が数名,退官する時期だったので,その後釜を狙っていた.

結局,公募になった所属研究室のその後釜になんとか滑り込むことができた.本当に運が良かった.そして,僕の周りの状況はどうかというと,そんなに悲観するようなものではない.同分野で博士課程に進んだ同期たちも学位取得後2-3年でほぼテニュアトラックか任期なしの職を得ている.ただし,優秀だと思っていた人が研究職を離れていたりはする.それでも彼が不幸になったとは思わない.博士号を取ったからといって研究者しかやってはいけないなんてルールはない.

博士課程進学を迷っているあなたへ

僕は博士課程に進学し,不安はあったがなんとかなって学位を取得し,職も得ることはできた.だからといって,あなたの博士課程進学がうまくいくという保証はないが,なんとかなった人もいるんだということは覚えていて欲しい.

今,研究を面白く感じていて,博士課程進学に興味があるなら,是非トライしてみて欲しい.不安も大きいだろうし,大変なことも多いだろう.もしかしたら上手くいかないかもしれない.でも,困難を解決する方法はいくらでもある.上手に周りに相談し,いろいろな制度を頼り,博士論文を完成させてほしい.

本当にダメだったら,一度博士課程を離れてもいいかもしれない.それでも人生は大概なんとかなる.もし再チャレンジしたくなったら再チャレンジすればいい.

あなたの人生がなんとかなることを祈っている.