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ちびたの本棚 読書記録「二週間の休暇(新装版)」フジモトマサル

なんとも装丁の美しい本だ。
薄紙のカバーのその裏側にも植物やカマキリが丁寧に描かれている。
もうここから「休暇」の世界は始まっている。

わたしたちの国に来ませんか、と誘われた日菜子は不安になりながらも出かけることになる。翌朝、日菜子が目覚めた場所は不思議な世界。おまけに記憶がない。
まさにここはドコ?わたしはダレ?

それでも隣人(隣鳥)たちとゆったりとした時間を過ごすことで、仕事に追われる毎日で忘れていた大切な何かに気づいていく。

何もかも忘れてのんびりしたい、誰しもそんなふうに思うことがある。

そんな時はすぐにでも旅に出たいたいところだが、遠くに出かけなくても、日常から離れることはできる。読書をしたり映画を見たり、思いつくままに散歩をしたり。
小さな非日常はすぐそばにある。つかの間かもしれないが、ほんのわずかな時間でもいい。

小さな心の休暇を過ごした後に、日常が何か劇的に変わるわけではないけれど、自分の心持ちがわずかに変わっているような気がする。

フジモトマサルさんのことは、歌人の穂村弘さんとの共著「にょっ記」というエッセイで知った。
また、ある出版社の広告で、本を読み耽る動物のイラストを思い出し、ああ、あの動物たちもフジモトさんが描いたんだと気がついた。

フジモトさんの絵は実に緻密で丁寧だ。
特に好きなのは影。光の明るさと影のコントラストが美しい。日菜子の手元の影や葉っぱの虫食いあと、書店の棚の一冊一冊が丹念に描かれていて、つい見とれてしまう。

時おり読み返しては日菜子と休暇に行く。ふうっと深く息をして、また日常に戻る。











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