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19歩 物価上昇率の目標2% はなぜ「2%」なのか?


最近のインフレでよく聞くようになった
「物価上昇率2%」という言葉。
なぜ2%なのだろうか?
どうやらこの2%は、どこかの凄い経済学者が理論的にはじき出した数値、ではないらしい。

1%じゃ低すぎて、3%だと高すぎてだめ?
どんな理由があるのか調べてみた。



物価上昇率の目標はどの国も同じか?


アメリカにある銀行の親玉であるFRBをはじめ
各国の中央銀行は物価上昇率を前年度2%にすることを目標にしているところが多い。

ここでいう各国、というのは先進国を指している。
日本はアメリカ・ヨーロッパに比べてインフレ率は低く推移しており、
新興国として代表的なインド、南アフリカ、中国においては物価上昇率の目標が少し異なるようだ。

三井住友DSアセットマネジメントより


まずはインドから。
インド準備銀行(RBI)の物価上昇率目標は2-6%となっている。先進国と比較するなら、中央値の4%が目標となるだろう。
インド統計・計画実行省(MoSPI)が1月12日に発表した2023年12月のインフレ率は5.96%だったので、目標の上限に近い。
先進国に比べると上昇率がとても高く感じるが、2007年~2013年あたりは10%を超えるインフレ率と直近の倍ちかい値になっている。インドのインフレ率の推移としては、どちらかというと少しずつ落ち着きつつある状態なのかもしれないなと感じた。

世界経済のネタ帳


南アフリカ準備銀行(中央銀行)は、前年比の消費者物価指数(CPI)上昇率を3~6%の範囲内に収めるように政策運営を行っているという。
2023年の実績は5.84%なので、こちらもインドと同様に上限近くで物価が上昇している。ちなみにアフリカ全体でみたときの2023年の物価上昇率は18.3%となっている。燃料価格の高騰とこれに伴う物流コストの上昇に加え、深刻な食糧不足が続くアフリカでは食料価格が高騰しているということだ。
(フードロスが問題になっている国もあるのに、一方では空腹に苦しむ人々もいる。世界はお金のあるとことに物が集まる、不平等な世界だなと思う。)

世界経済のネタ帳


最後に中国の状況を調べてみた。
中国政府は、2024年の物価上昇率目標を「3%前後」に設定している。これは2023年の目標だが、2023年の物価上昇率は0.2%と目標を大きく下回っている。消費者の購買意欲を表す消費者物価指数(CPI)は2024年1月まで4カ月連続のマイナスとなっており、中国はどちらかというとデフレの圧力が重くのしかかっている状況のようだ。

世界経済のネタ帳

日本銀行が定義する「物価の安定=消費者物価指数前年比+2%」


日銀は「物価の安定」を消費者物価指数の前年比で数値的に定義したものが「2%」だと説明してきました。
これには3つの理由があるといいます。
1つは、消費者物価指数の特性である「上方バイアス」。
2つ目は機動的に金利を引き下げるための「のりしろ」を確保しておく必要があるということです。
そして3つ目が「2%」がグローバルスタンダードになっているということ。

NHK NEWS WEB 2023年1月23日 
なぜ、日銀・黒田総裁は“残念に”思ったのか?

消費者物価指数、インフレ率、物価上昇率…。似たような言葉が出てきたがこれの整理は今度するとして、簡単にいうと前年比+2%に収まると、物価が安定して推移することに繋がるらしい。


日銀が2%にした理由を上記に書いたが、イマイチしっくりこない。
もう少し自分の目線に合わせて解釈してみようと思いネットの記事をいろいろ見たところ、経済コラムニストの高井宏章さんの連載記事にたどり着いた。


物価上昇率2%は「ちょうど良い『半殺し』になる」?!


まったく理論的ではないが、私の仮説は「ちょうど良いペースでお金が『半殺し』になるから」というものだ。
毎年2%強のインフレが起きると、物価はおよそ30年で2倍になる。その裏返しで30年、およそ一世代でお金の価値は半分になる。
そんな世界では、お金を貯めこむメリットは小さくなる。モノと交換する(消費)なり、インフレに価値が連動しやすい株式や不動産などに置き換える(投資)なり、何か手を打たないとお金の価値は目減りしてしまう。その結果、経済を回すお金の流れが促される。
インフレが2%ではなく4%だと「半殺し」までは18年、7%だと10年に時間は短くなる。これでは人生設計が少々せわしないだろう。高インフレの新興国の人々は、そんな世界に生きているとも言える。2%程度は、熱すぎず、冷たすぎず、ちょうど良いさじ加減ではないだろうか。

ダイヤモンド・オンライン 連載「インベスターZで学ぶ経済教室」
【マンガ】インフレ目標は「お金の半殺し」2%のインフレ、何年続くと物価が2倍になる?


2%強のインフレで物価が30年で2倍というのは計算式に直すと
72の法則を使って出した数値になる。(72÷2=36) 
お金が2倍になる期間が簡単にわかる便利な算式で、投資の勉強をするとよく登場する。

これに対して、お金を増やす手段として徐々に浸透してきている投資信託の運用リターンとの関係を考えてみたい。
初心者が投資信託で目指したい一般的かつ理想的な運用リターンは、複利で年利+5%と説明されることが多いと思う。仮に投資信託の運用リターンが物価上昇と同じ+2%だとしたら、増やした資産がそのまま物価の上昇(インフレ)にのみ込まれてしまうことなる。

物価の上昇に対して、資産の伸び率のほうが高くないとインフレに対して資産を守ることは出来ない。運用リターン5%は、インフレから生活を守りつつ、資産を増やしていける理想(かつ過去の実態)の数値なんだなと、改めて認識することができた。

また、一般的な会社員の人々は60~65歳で定年を迎え、それまでは「資産を貯めつつ、使う」だったのが、「資産を使う」だけのターンになる。もちろん一度に全部の資産を使うわけではないが、徐々に総資産額が減っていくことになる。
しかし物価の上昇は自分の定年後も、死んだ後も、ずっと続く。

そうなると「資産を貯めつつ、使う」の現役時代に、物価の上昇よりも高い水準で資産を増やしていかないと、いずれにやって来る「資産を使う」時代への突入が心もとなくなってしまう。以前の日本は定期預金に預けておくだけで自動的に年利5%になっていたが、今はそうではないのだ。

投資信託が年利5%で上昇している過去実績は、つまり世界経済が5%ずつ成長してきたということだ。
それに対してFRBをはじめとした中央銀行が、今後も人類が安心して暮らせるために、物価の上昇はこれくらいが丁度いいよね、と考えた結果が
物価上昇率2% のひとつの理由なのかもしれない。


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