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【書評】『星読島に星は流れた』久住四季【読書感想文】

ローウェル博士は毎年、孤島で天体観測の集いを開いていた。
数年に一度隕石が落ち、その隕石を集いの参加者の誰かにプレゼントするという。
医師・加藤盤はこの集いに興味を持ち応募したところ、抽選で選ばれ島に招待される事に。
しかし、三日目に沖で死体が発見され…。


久住四季という作家は、調べてみると電撃文庫でデビューしており、ラノベ作家なのかと思ったところ、どうやらこのデビュー作含むシリーズはミステリー作品らしい。
本作は2015年にミステリ・フロンティアで書き下ろされた後、2016年に創元推理文庫にて文庫化されている。
このミステリ・フロンティアなる蔵書は、他に幾つか読んだ事があり、国内ミステリ作家の書き下ろし作を中心に集めているので、新たな作家を知る機会として重宝している。
だが、単行本の背表紙のデザインがダサいのはどうにかならないものなのか。
これだと文庫本で集めたくなってしまう。

さて、今作はラノベチックなタイプの文章で来るのかと思えば、以外にも普通な感じである。
しかし、それっぽい舞台装置はない訳でもない。
美宙というキャラはやや所謂ツンデレキャラだったり、所々ネットミームを喋るタイプのニートキャラが登場する。
ただ、それを含めても特段おかしな所がある訳でもなく、逆に言えばキャラクター小説として楽しめる訳でもないので、ミステリーの質だけで勝負している。

さて、感想を言ってしまうと、ミステリーとしてはそこそこ面白かった。
真相部分で明かされる動機に関しての謎解きは、科学的な閃きがないと分からない為、お手上げだったのだが、最後の対談で明かされる内容はかなり丁寧で、かつ考えようと思えば考えられそうだっただけに分からなかったのが惜しかった。


【以下、論評の都合上本作のネタを割る】

【閲覧注意】







まず、隕石が頻繁に落下する謎については、むしろこれしか解決がないんじゃないの、という解決なので、初めから予測が着く。
そこで、何故わざわざこのような事を行ったかの理由説明が盛大に語られるのだが、これも大方予想通りというか、偽造するメリットはいくらでも考えられるので、まあそんなもんかという具合だろう。
しかし、それがマッカーシーとの関係、ひいてはサラ博士の動機との繋がりがある事までは見抜けない。
もっとも、サラ博士自体、かなり怪しい言動を取っているので、この結末自体意外性がないのも事実である。

続いて、隕石に切断面があった事からサレナの動機に至る謎解き。
これは単体でどうというよりも、この解決がサラ博士への疑惑を向けるタネになっているのが凄いところだ。
即ち、この隕石を起点に今作は大抵の謎が解けるのであり、舞台装置を上手く活かしているのが素晴らしい。

欲を言えば犯人当てのような事をやりたかったのだが、ただ、本作の構成上、各キャラの情報が少ない上、行動もフワフワしていた為、これでは予め明かす方が良いと判断したのだろう。
実際、残りの隕石を探すという動機に至っても、サレナが事前に隕石を熱烈に求めていたかは分からないし、サラ博士の面談のネタバラシを先にしない限り、他の人物(例えばアレク)でも十分成立しそうなものだ。
そういった点で、本作はうまく構成されているのではないか。

無論、博士の陰謀の成功率が低いのは言わずもがなである。
そもそも隕石を探せと言ったとて、丁度マッカーシーのあとを追うまでは良くても、隕石の欠片を見つける前に一体なぜ殺すのか。
ここで殺すという選択をとる可能性は決して高くない。
更に、そこからサレナの転落に至っては、これはもうヤケクソだろう。
だが、これもまた、こういう細かな点に目を瞑っても、この陰謀エンドをやりたかったのだろうなと思い読めば、まあ悪くはない。

ということで、なかなか感じのいいミステリーだったな、といった所であろうか。
他の作品を読むかは現在迷い中である。
トリックスターズはあらすじを読む限りなかなか面白そうではあるのだが…。


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