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『女道士とキョンシー少女』シナリオ#1~#26+ネーム

以前投稿した↑ネーム『女道士とキョンシー少女』の漫画原作シナリオ、漫画(ネーム)のリンクと一緒にまとめてみました。

保坂はネームを作るときも必ずシナリオを用意します。
シナリオがどのようにネーム化され、そして最終的に漫画化されるのか、
想像してもらえると嬉しいです。



#1 女道士とキョンシー少女

■道士の部屋

札をさらさらと書いている道士の女。

道士N「俺は道士 一人前の仙人を目指して修行中だ」

暑そうにうちわで自分を仰ぎ。

道士N「この時期は色々と気を遣う 札の墨も乾きにくい 暑くてやってられん」

汗だくで、冷蔵庫の扉を開ける。

缶コーヒーを取り出す。

冷気が漏れる冷蔵庫の中に、まぶたを閉じた少女が閉じ込められている。

道士N「死体もコーヒーも放置すれば悪くなる」

道士、コーヒーを開けて飲む。

少女の瞳がカッと開き、

少女「ぐおおおお!」

道士に飛びかかろうとする。

道士、少女の額にぺたり、と札を張る。

道士「相変わらず寝起きが悪いなお前は」

少女「……おはようございます」

ふわあ、とあくびをする少女、のそのそと出てきて。

少女「放っておくとすぐ散らかしますね 師父は」

道士「片付けるのがお前の仕事だ」

少女「やれやれです」

箒を持って履きはじめる少女。

道士「仕事終わったら買い物に行くぞ いい「香」を買ってやる」

少女「ご機嫌取りですか 付き合いましょう」

嬉しそうな少女の表情。

道士N「俺は道士 一人前の仙人を目指して キョンシー女子と一緒に修行中だ」


#2 女道士とキョンシー少女とご飯

以下、少女キョンシーの名前はメイファと表記

■道士の部屋
道士N「俺は仙人を目指す道士 身の回りの世話をキョンシーに任せて修行中だ」

机に向かって様々な薬を混ぜ合わせている道士。

キョンシーのメイファ、額に札を張った状態でテキパキ調理中。

道士「おーい腹減ったぞー」

メイファ「もう少し待ちなさい師父」

道士「今日は一日中仕事だったから腹減ってんの メシ食ったらまた働くからよー」

メイファ「キョンシーが作った食事など喉が通らないという人もいますのに」

道士「AIじゃあるまいしな ピーマン入れんなよ」

メイファ「ダメです バランスが崩れます」

   ×   ×   ×

テーブルに料理を並べドヤ顔のメイファ。

メイファ「お待たせしました 自信作です」

道士「よっしゃぁ! (食べて)うん旨い さすが火を御してやがる」

メイファ「お粗末さまです……」

メイファ、まぶたを閉じて口を開けて。

道士「おっと お前も腹ペコだったな あーん」

道士、『丹』をメイファの口に運ぶ。

メイファ「あーん」

メイファ、丹を飲み干して。

メイファ「ご馳走様です 他はともかく練丹術の腕は確かですね」

道士「うるせぇな おかわりくれ」

メイファ「私もおかわりです」

道士N「俺は仙人を目指し身の回りの世話をキョンシーに任せる道士 食事は分担している」


#3 女道士とキョンシー少女と冥婚

■街中
道士N「俺は仙人を目指す道士 小間使いのキョンシーを連れて、今日も買い物だ」

買い物袋を下げたメイファ、じっと見つめている。
視線の先では結婚式が行われているが、片方は礼服に身を包んだ遺影(遺体)。

メイファ「あれはなんですか師父」

道士「ああ あれは冥婚だな 生者と死者で婚姻を結び夫婦とするんだ」

メイファ「なんのためにそんなことを?」

道士「いろいろだよ 家柄の問題とか政治的な理由もあるな」

幸せそうな新婦に見入るメイファ。

メイファ「条件はあるのでしょうか 年の差とか」

道士「死人に年の差もクソもねーよ」

メイファ「性別は?」

道士「知らん 本人次第じゃないか」

メイファ「選択の自由があるのですか? 死人にも?」

道士「死者が相手を気に入らなければ無効にできるらしいぞ 方法もいくつかある」

メイファ「…………」

遺影を見つめるメイファ、新郎の遺族らしき家族の涙。

道士「ま 生者も死者も相手に気に入られる努力が必要ってことだな」

メイファ「師父も少しは努力してみては?」

道士「は 何のためにだよ」

メイファ「…………」

背を向けて去っていくメイファ。

道士「……結婚する?」

メイファ「イヤです そういうところです」


#4 女道士とキョンシー少女と買い物

■街
道士N「俺はキョンシーに身の回りの世話をさせている道士 今日は方術に使う道具を探して買い物 キョンシーは荷物持ちに重宝する」

歩いている道士、メイファは腕に買い物袋を下げて飛んでいる。

通りすがりの壮年男性が一礼してくる。

男性「暑いねぇ」

道士「まったく 道中お気をつけて」

道士もメイファも、頭を下げて別れる。

道士「キョンシーは体温が一定でいいよな」

メイファ「くっつくと冷えますよ 密着しますか」

道士「絵面がNGだわ……さてだいたい買い物終わったかな」

メイファ「こき使われたかいがありますね」

道士「疲労もないくせに文句ゆーな あと一店だけ寄るぞ」

メイファ「?」

■服屋

華やかな服に着替えているメイファ。

メイファ「…………」

店員「よくお似合いで」

道士「……ふん。見違えたもんだな これにしよう」

店員「毎度」

メイファ「私に服など無駄遣いでは? しょせん死体ですよ」

道士「俺が見て喜ぶからいーんだよ」

メイファ、立ち止まって。

道士「どーした? 気に入らなかったか?」

メイファ、懐から口紅を取り出して道士に渡す。

道士「口紅……?」

メイファ「お小遣いがたまったので どうぞ」

照れ臭そうな道士とメイファ。

道士「も少しデートしてくか」

メイファ「死体ですよ?」


#5 女道士とキョンシー少女と風邪

■道士の家
ぐったりと横になっている道士、傍らにはメイファ。

メイファN「師父(すーふ)が風邪を引きました 仙人を目指す者とか言っておいて」

道士「う~……視界がぐにゃぐにゃ」

メイファ「自己管理がなってないですよ」

道士「お前がしてくれよぉ 俺の管理」

メイファ「私は管理される立場です 貴方のキョンシーなんですから」

道士「束縛するのキライなの!」

メイファ「いいからお薬ちゃんと飲みなさい」

道士「はぁい……なあメイファ」

メイファ「なんですか」

道士「『病気や痛みを知っている生きた人間がうらやましい』とか思ってる?」

メイファ「意味不明です そんな面倒くさいものないほうがいいでしょう」

道士「いや ベタな死人とか不死生物はよくこういう感じのこと言うんだよ」

メイファ「死人への偏見であり冒涜ですね もはや陰謀論です三流道士め」

道士「俺の意見じゃねぇし言い過ぎだよ!」

メイファ、道士の頭に手を置く。

メイファ「少し手を凍らせました 解熱効果はあるかと」

道士「……ひんやり 気持ちいい」

メイファ「寝てください ここにいますので」

道士「……なあメイファ」

メイファ「はい」

道士「お前はすでに恋の病にかかって」

メイファ「死んでください」

道士「最後まで言わせろ」


#6 女道士とキョンシー少女とペット

■道士の家
メイファN「頭を鳥の巣にされました」

メイファ「……」

頭の上で雛が鳴いているメイファ。

メイファ「窓を開けて休眠してしまった私の責任です 動かないキョンシーの頭部はちょうどいいスペースだったのでしょう」

雛、ぴいぴい鳴いてメイファにアピール。

メイファN「しかも雛が私を親だと誤認してしまったようです」

メイファ「死体を親にしてはいけませんよ 妖怪漫画みたいじゃないですか」

ぴいぴい喜ぶ雛。

メイファ「うーん……本当の親に申し訳ないですね」

窓の外を見るメイファ。

獣に体を食い殺された鳥の死体。

メイファ「……」

メイファN「餌を探している途中で獣に襲われたのでしょう 最後の力を振り絞ってこどもの近くまで来たようですが……」

  ×   ×   ×

手に雛を持って道士の前に佇むメイファ。

道士「……まあ 責任を持って世話ができるなら飼ってもいいぞ」

メイファ「感謝します いつか野生に返せたらよいのですが……」

  ×   ×   ×

T「数週間後」

メイファの頭の上で、少し成長した鳥が炎を吐いている。

道士「こいつ鳥じゃなくね」

メイファ「妖怪漫画だったようです」

メイファN「鳳凰の托卵かもとのことです」


#7 女道士とキョンシー少女と告白

■道
買い出し中のメイファが呆然としている。

メイファ「……」

その前に頭を下げる男の子。

少年「付き合ってください!」

メイファ「私はキョンシーなのですが」

少年「関係ないです! 町ではじめて見かけたときから好きでした!」

メイファ「ええとキョンシーというのは端的に言うと歩く死体で……」

少年「だから関係ないんです! というかむしろそれがいいんです」

メイファ「早熟な上に業が深いですね」

少年「お願いします!」

メイファN「……ううん どうしましょう」

メイファ「ごめんなさい 気になる人がいるんです」

少年「ええっ……やっぱ相手もキョンシーだったりするの?」

メイファ「……死んでほしいと思うことはあります」

少年「生きてるんだ……やっぱ大人?」

メイファ「大人とは思えない言動はします」

少年「そうなんだ……そんなんでもやっぱ大人の人間がいいんだ」

メイファ「そんなんです すみません」

少年「……大人になったらまた告白してもいい?」

メイファ「……」

■道士の家

道士「それで断りきれなかったのか」

メイファ「すぐに飽きてくれますよ」

道士「いーや甘い 壊れた少年の性癖は後を引くぞ!」

メイファ「そのときはOKします」

道士「……」

いじける道士をなぐさめるメイファ。

メイファ「冗談ですって 本当に大人ですか」

道士「想像しただけで辛いんだもん……」


#8 女道士とキョンシー少女の名前

■郵便局
受付の女性に話しかけるメイファ。

メイファN「今日は師父(すーふ)に言われて荷物を取りに来ました 田舎は移動が大変です」

メイファ「約束した者です」

女性「……貴方 メイファに似てるわ」

メイファ「はい?」

女性「学校で同じクラスだった……病気で死んだって聞いたけど」

メイファ「生前の私を知ってるかたですか」

女性「生前……」

メイファ「今の私はキョンシーなんです 貴方との記憶を含み 生きていたときの記憶はありません ごめんなさい」

女性「キョンシー……そんな」

メイファ「荷物を」

女性「は はい」

■道士の家
道士「……そうか 近くにいるもんだな」

メイファ「冷たかったでしょうか」

道士「知らないんだから仕方ないだろ」

メイファ「キョンシーが苦手みたいでしたし 人間として扱われても疲れますから」

道士「お前ってキョンシーの自分好きだよな」

メイファ「この体で働けることへの感謝もありますよ?」

道士「いい子だ ハグしたい」

メイファ「キモいです 拒否します」

道士「ひでぇ 恩人だろ……」

メイファ「生き返りたいとか言わないだけいいでしょう」

道士「言われても無理だけどな」

メイファ「だから言いません」

道士「いい子だ チューしたい」

メイファ「ウザいです」

メイファN「私がキョンシーになった理由 それはまた別のお話です」


#9 女道士とキョンシー少女とカハクの声

■道
メイファN「水を汲みに行く途中で とても小さな女の子を見かけました」

木の下でメイファを見る小人。

T「花魄(カハク) 『子不語』曰く木の精」

メイファ「妖精なかたですか? 私はキョンシーです」

カハク「似たようなものですね 私はあまりいいものではありませんが」

メイファ「いいもの?」

カハク「私たちカハクが生まれるのは 三人以上が首をつって自殺した木 無念が集まり私たちが生まれます」

メイファ「そうですか だからいいものではないと?」

カハク「まともではない生まれですから」

メイファ「生まれがまともではないと その後もまともではないのですか?」

カハク「それは……でも世間からは」

メイファ「悲劇を周りに期待されたからと言って応える必要はないですよ 見てください 私など死体ですがこうも幸せです」

カハク「幸せ……ですか?」

メイファ「そもそも貴方の声 とても美しいですよ まるで小鳥のさえずりです 声を聞いているだけで幸せです」

カハク「……」

メイファ「貴方は堂々としていいはずです ここはゴン攻めでいきましょう」

カハク「なんでスケボー解説」

   ×   ×   ×

N「数週間後」

道士と歩くメイファ。

道士「この辺 自殺の名所だったらしいけど 最近聞かないな」

メイファ「……そうなのですか」

道士「志願者が来ても 綺麗な鳥の鳴き声が聞こえてきて 死ぬ気が失せるんだってさ」

メイファ「そうですか それは堂々と幸せです」


#10 女道士とキョンシー少女と散髪

■道士の家・庭
道士N「俺は道士(女) 今日は庭でキョンシーに髪を切ってもらうことにした」

メイファに髪をカットしてもらっている道士。

メイファ「ちゃんとしたお店で切ったほうがいいと思うのですが」

道士「いいんだよ毛先カットするだけだから」

メイファ「あ」

道士「あって何!?」

メイファ「軽傷です 続けます」

道士「不穏すぎる……ところでさ お前は髪切れなくてさみしかったりしないか?」

メイファ「キョンシーは地球人と違って不気味に頭髪が変化しません」

道士「戦闘民族感やめれ」

メイファ「いちいち生きてる人間扱いやめてください 人には人の死体には死体の個性を認めないからモテないんです」

道士「非モテいじりもやめて 昨今いやがる人も多いから」

メイファ「……さて こんなものでしょう 川で頭を洗っていきますか」

道士「おー ありがとよ……」

道士、突然メイファの頭に花をつけてやり。

メイファ「!」

道士「生きてるもん身に着けるぐらいはいいだ
ろ?」

メイファ「…………」

メイファ「……師父(すーふ)はモテる必要はないと思います」

道士「どういう意味?」

メイファ「なんでもないです」

道士 「ねぇねぇどういう意味?」

メイファ「丸坊主にしますよ?」


#11 女道士とキョンシー少女と九尾の狐

■山中
九尾の狐に道を阻まれているメイファ。

メイファN「山道を移動中 里で恐れられる妖怪に出会いました」

九尾の狐「お前はキョンシーだな 人間であれば殺していたところだ」

メイファ「それはラッキーでした」

九尾の狐「こんなところで何をしている?」

メイファ「師父(すーふ)の言いつけで山草を採取に」

九尾の狐「人間に使役されているのか 哀れな」

メイファ「そうでもないですよ お小遣いとご飯も もらえます」

九尾の狐「情けない 従うことに慣れてしまうとは」

メイファ「幸せですけどね」

九尾の狐「どちらにせよ 我ら陰に生まれし者は 陽の者と共に暮らせぬ それがさだめだ」

メイファ「それ よく言われますが……根拠はなんでしょうか?」

九尾の狐「根拠?」

メイファ「ソースです 貴方はなぜそう思ったのですか?」

鬼「だって先輩がそう言ってたから」

メイファ「先輩がいつも正しいわけではありませんよ 自分で考えなくては」

九尾の狐「確かに……」

メイファ「なんでもいいじゃないですか 幸せなら」

九尾の狐「幸せ……自分で考える……」

■道士の家

道士「そいつそれで自分探しの旅に出たのか」

メイファ「里の人間が襲われることもなくなったようですよ」

道士「お手柄だな」

メイファ「どうでしょう 幸せマウントをやっちゃった気もします」

道士「ま 幸せも自分も探したって見つからねーよな お前にとっての幸せはここにいるわけだし」

メイファ「自分で言う分にはいいですが 堂々と言われるとムカつきます」

道士「俺は幸せ!! 」


#12 女道士とキョンシー少女とカラオケ

■道士の家

道士「おーい 仕事ひと段落したしカラオケいこーぜー」

メイファ「カラオケ……いいですけどいいかげんな世界観ですね」

■カラオケボックス

道士「いやー久しぶりだな 何歌おうかな」

メイファ「私ははじめてです 気恥ずかしいですね」

道士「んじゃー俺から 『カラスも気絶する歌声』とあだ名された俺の歌声を聞け!」

メイファ「それはDisられていませんか」

道士、歌うがひどい歌声。

メイファ「Disられていたようですね」

道士「なんだよ! じゃあお前歌えよカントリーロード! 俺弾いてやるから」

メイファ「天沢くんぶるのやめてください バイオリン弾けないでしょ」

道士「つかお前そもそも歌えんの? 曲わかる?」

メイファ「馬鹿にしないでください 相対性理論なら完コピできます」

道士「マジでどういう世界観なんだろうな」

メイファ、歌うがひどい歌声。

メイファ「ベタな流れですね……」

道士「ひょっとして今回ずっとこんな感じ?」

メイファ「帰りますか……」

と、隣で誰かがマイクを握る。

鳳凰の雛が美声で歌っている。

道士「こいつ歌えたんだ……」

メイファN「バリトンボイスでした」


#13 女道士とキョンシー少女と誕生日

■道士の家
オロオロ泣いている道士。

道士N「気づいたら俺のキョンシーが家にいなかった 家出したのかと思ってさめざめと泣いてしまった」

その背後から現れるメイファ。

メイファ「ひとりで泣かないでください ちょっと留守にしたぐらいで」

道士「!!捨てられたかと思った……」

メイファ「捨てられても戻ってしまいますよ 貴方のキョンシーである限り」

道士「健気だ 愛してる」

メイファ「ひとことが重いんです」

メイファ、ケーキを差し出す。

道士「なんだこれ?」

メイファ「忘れてましたね 誕生日でしょう」

道士「え? なんで知ってんの?」

メイファ「公的書類を盗み見ました」

道士「盗むな つかありゃデタラメだよ 俺は親の顔も知らねーからな」

メイファ「……そうだったのですか 余計なことをしてしまいました」

道士「いやいい お前が祝ってくれるなら今日が俺の誕生日でいい」

メイファ「そうですか ではハッピーバーステーです 師父」

道士「みゅふふ ありがと お前の誕生日はいつにすっか? キョンシーにした日でいい?」

メイファ「それは誕生日ではなく命日な気はしますが……師父が喜んでくださるならその日でいいですよ」

道士「わかった! クルーズツアー予約する」

メイファ「重いです」


#14 女道士とキョンシー少女と幼なじみの医者

■病院

道士N「今日は診察日だ この日ばかりは俺も一人で病院に来る」

道士を診ている医者。

医者「落ち着いているじゃないか 体にいいものをちゃんと摂取してるな」

道士「同居人が厳しくてよ 煙草もやめたわ」

医者「よいことだ キョンシーを引き取ったんだったか」

道士「ああ これがまた可愛くてよ」

医者「ほう」

道士「飾ってお世話したい気持ちがとめどなく溢れてくる」

医者「認知が歪んでいる」

道士「やっぱり? 向こうは仕事大好きみてーだから悩みどころだよな」

医者「だったら黙って世話をしてもらえ その体が動いてるだけで奇跡なんだぞ」

道士「だよなー……よく生きてこれたよ」

医者「こっちの台詞だ 命を取り留めたときのお前は性別すらわからなかったんだぞ」

道士「今の俺がすべてだよ 自分で決めた体だ」

医者「だったらもう少し大事にしろ その子のためにも」

道士「そうだなあ お前への恩もあるしな」

医者「それは気にしなくていい……薬を出しておくからさっさと帰れ」

道士「あいよ また来月な」

去っていく道士。

医者「お前が求めれば 最高峰の治療を受けられたものを」

■道士の家

道士「たっだいまー! ご飯できてる?」

メイファ「おかえりなさい 今日は新鮮な野菜が買えましたよ」

道士「えー肉がいい肉! 肉メイン!」

メイファ「ダメです 緑を食べなさい」

道士N「いろいろあるが俺は今が一番幸せだ」


#15 女道士とキョンシー少女とおばあちゃん

■街
高齢女性と会話しているメイファ。

女性「お散歩日和だねぇお嬢ちゃん」

メイファ「そうですね 浄化されそうです」

メイファN「おばあさんは 長年この村に住んでいらっしゃるそうで 買い出し中に仲良くなりました」

女性「お嬢ちゃん 今日はもう少しゆっくりしていって」

メイファ「はあ それは大丈夫ですが」

女性「いつもお腹空かせてないかと思って」

女性、食べ物を差し出す。

メイファ「……」

メイファ「ごめんなさい 私はキョンシーなので 人間と同じ食事はできないんです」

女性「キョンシー…… そうだったのかい 気づかなかったよ」

メイファ「死体にしてはコミュ強ですからね」

女性「それ自分で言うのかい」

女性「しかしすまないねぇ 優しさの押しつけになるところだったよ」

メイファ「いえそんなことは 私も早く言うべきでした」

女性「いやいや 私は昔から思い込みが強くてね……旦那にも怒られたものさ」

メイファN「うーん 謝罪の応酬は苦手です」

道士「いいな~ うまそうだな~」

メイファ「師父(すーふ)!?」

道士「おせーと思ったんだよな~ こんなとこで自分だけずりーし~」

メイファ「ウザ」

女性「よかったら食べるかい?」

道士「いいの!? わーい!」

ガツガツ食べる道士。

メイファ「卑しいですね おばあさんこういう適当な人もいるので お気になさらず」

女性「あははそうだねぇ 旦那を思い出すよ」

■帰り道
メイファ「助かりました師父(すーふ) しかしもっと早く出てきてもいいんですよ」

道士「ししし知らんし てかお前 友達多いな」

メイファ「コミュ強ですから」


#16 女道士とキョンシー少女と育児

■民家
メイファN「近所のかたのお願いで 一日こどものお世話をすることになりました」

幼児に叩かれながら乳幼児にミルクをあげているメイファ。

メイファN「前から思っていましたが この村の人はキョンシーに偏見がなさすぎます」

泣き出す乳幼児。

メイファ「よしよし いないいない死体~」

変顔をするメイファ。
きゃっきゃと喜ぶ乳幼児。

幼児「おねぇちゃん 遊んで遊んで~!」

メイファ「はいはい 付き合いますよ」

顔に落書きされているメイファ。
背中に乗られるメイファ。

幼児「ねぇちゃん 歩くのおそいー! ゾンビみたい!」

メイファ「惜しい キョンシーです ゾンビの概念はどこで知りましたか」

こどもたちとお昼寝するメイファ。

  ×   ×   ×

元気満々のこどもたち。

メイファ、どっと疲労している。

メイファN「体力の概念がない私が どっと疲れました」

道士「迎えに来たぜー」

メイファ「助かった 一命を取り留めました」

道士「一命は手遅れだぞ よっぽどだったな」

■帰り道
道士「あの家の子 見送り来なかったな」

メイファ「問題ないです こどもがキョンシーに思い入れる必要なんてありません」

道士「そういうもんかねぇ……」

メイファの背中を見た道士、ニヤリ。

道士「そうでもないな また来てやれ」

メイファ「?」

メイファの背中には『ばいばいおねえちゃん またきて』の文字。


#17 女道士とキョンシー少女の嫉妬

■道士の家
メイファN「今日は師父(すーふ)の主治医が訪ねてきました」

医者の男、飲み物をのんでいる。

メイファ「まだ 寝ているようでして……」

男「まったく 激しい仕事のあとは来いって言ってあるのに 心配になるだろ」

メイファ「すみません 言っておきます」

男「悪いな 気にしてやってくれ」

メイファ「気になって昼も眠れないほどです」

男「はは さすがあいつのキョンシーだ」

メイファ「あの人をよくご存知なんですね」

男「……何も聞いてないのか あいつの体」

メイファ、頷く。

男「そうか……あいつが言わないのに伝えるのは気が引けるが……あいつの体は不安定で 定期メンテが必用なんだ」

メイファ「定期メンテ……まるで私ですね」

男「あいつは生まれてすぐ戦禍に巻き込まれ 性器や内臓 脳に多大な損傷を負った」

メイファ「……」

男「それでもあいつは生きていて それをとある仙人が術を総動員して救った 男か女かもわからない 人工物の肉体を与えてな」

メイファ「……」

男「幼馴染の俺もどう付き合ったもんか悩んだもんさ まああいつはあいつでしかなかったけどな」

メイファ「師父(すーふ)は10代に女であることを選んだようです」

男「そうだな 君はどう接している?」

メイファ「師父は師父です他の何でもなく」

男「……そうか うん 頼りになるよ」

道士「おーい 水持ってきてくんない?」

男「あいつか やれやれ俺が持っていくよ」

メイファN「私にこんなことを感じる権利はないのですが」

男の後ろ姿を見て。

メイファN「師父が性を決めた理由がわかったような気がして 少し苛々しました」


#18 女道士とキョンシー少女とお風呂

■道士の家

道士「キョンシーの便利なところ それは自分のメンテを自分でやってくれるところだ」

風呂の扉から中を覗いている道士。

メイファが入っている。

メイファ「ナレーションが全部口に出てますよ師父(すーふ) お湯が冷えるので扉を閉めてもらえますか」

道士「お前が風呂に入ってるって思ったら気が気じゃなくて」

メイファ「このコンプラ遵守の時代でよく生きていられますね」

道士「背中洗っていい?」

メイファ「結構です もう洗い終わりました」

道士「……」

メイファ「もう入ってください 面倒くさい」

道士「わーい! 合法的にガン見できる!」

メイファ「そんな法律は異世界にもないです」

道士「いいから入っててくれよ 俺は洗い場でいいから」

メイファ「……」

道士「……」

メイファ「逆になりましょう 汚れは落とせましたし師父(すーふ)が風邪を引きます 私は冷えても問題ないので」

道士「いいの? 追い出さない?」

メイファ「しませんよ ゆっくりしましょう」

道士「うん」

道士、メイファと並んでまぶたを閉じる。

メイファN「師父(すーふ)はときどき とてもさみしがり屋になって 私の隣から 離れなくなります」

■居間

メイファN「その後 師父(すーふ)はのぼせてしばらくうわごとを呟いていました」

道士「既成事実だから……もう大丈夫だよな……」

メイファ「元から主従関係ですよ」

メイファN「この人が本当に欲しいものがわかれば 私も簡単なのですが」


#19 女道士とキョンシー少女とハロウィン

■道士の家

掃除をしているメイファ。

メイファN「急激に冷え込んできました キョンシーにはむしろありがたい季節です」

玄関から入ってくる道士、かぼちゃ頭。

道士「お菓子くれないと悪戯するぞ」

メイファ「なんですかその格好は」

道士「ハロウィンの仮装だよ! ノリ悪いぞ」

メイファ「ツッコミどころが多すぎるんですよ また世界観が暴走してます」

道士「いいんだよ楽しいんだから」

メイファ「楽しむにしても お菓子を所望するのはキョンシーである私のほうでは?」

道士「他のキョンシー作品にもかぼちゃ頭ってキャラいたもん!」

メイファ「それは多分スイカ頭です というか古ッ」

道士「いいから悪戯という名のサービスをくれよ! それ求めて生きてんだよ俺は!」

メイファ「本音が出ましたねパブリックエネミー」

道士「ちぇ……せっかく何をもらってもウィンウィンな行事なのに……」

メイファ「そんな行事じゃありませんし かぼちゃの中身が無駄です」

道士「うー」

メイファ「……なので 今晩はかぼちゃ料理をメインにしてみました スープに煮物 パンプキンケーキもありますよ」

道士「お それは嬉しい! やったー」

メイファ「これだけ食べたら寒くても風邪の予防にもなるでしょう」

道士「……」

メイファ「私はお化けですが お菓子をくれなくてもそばにいますから」

道士「やっぱいい行事じゃん」

メイファN「ハロウィンは感染症に気をつけて」


#20 女道士とキョンシー少女と年末の猫

■山
メイファN「金華猫 それは男に会えば 女に会えば男に化け 魅惑するという猫の妖怪です」

楽しそうに歩く道士を睨む猫。

猫「こいつはなんにゃ……化かしてやろうと眺めていたが 男か女かもわからんにゃ」

道士「貴様見ているな! 俺の性自認を!」

猫「にゃ!? なんでバレたにゃ!」

道士「精怪の気配には敏感でね こう見えて道士だからな」

猫「にゃにゃ……道理で壁が見えないわけにゃ」

道士「キョンシー女子がストライクなのは道士関係ねーけどな」

猫「にゃ? そうにゃのか 人それぞれにゃ 理解が追いつかにゃないにゃ」

道士「知りたいなら 俺の推しについて聞いてくか?」

猫「ちょっと待つにゃ これから化かしてくるってわかってる相手に推しプレゼンするのどうかしてるにゃ」

道士「うるせぇ 普段聞いてくれる相手がいねーから語りたりねーんだよ」

猫「……!」

道士「覚悟してもらうぞ お前を新しくしてやる」

猫「にゃ にゃー! ゴリ押し怖いにゃー!」

■道士の家

道士の声「帰ったぞー」

料理中のメイファ。

メイファ「お帰りなさい 遅かったですね」

道士「まあ入れよ」

道士が金華猫を連れて入ってくる。

猫「邪魔するにゃ! なるほど可愛いにゃあ」

メイファ「……どちら様でしょうか」

道士「同担増やした」

猫「わからせられたにゃ」

メイファN「今年で一番叱りました」


#21 女道士とキョンシー少女のクリスマス

■道士の家
メイファN「クリスマスの季節です また適当な世界観で町が浮かれています」

掃除をしているメイファ、勉強している道士。

道士「お前 近所のクリパ呼ばれてたんだろ? 行っていいんだぞ」

メイファ「行きませんよ キョンシーとクリスマスは相性が悪すぎます」

道士「んなこともねーと思うけど」

メイファ「縁起が悪いでしょう 一般のこどもにとって 私は加害的な表現です」

道士「……考えすぎだろ」

メイファ「怪物は世間に対して 油断してはいけませんから」

扉を叩く音。

メイファ「はい?」

扉を開くと、カハクと九尾の狐。

九尾「なんだ 元気ではないか」

メイファ「カハクさんと 九尾の狐さん?」

カハク「通りがかりのこども達が心配していたもので 何事もなくてよかった」

九尾「籠もりすぎると人に恐れられるぞ 我のように」

メイファ「……」

道士「そいつらも世間の怪物で済ますか?」

メイファ「……考えすぎかも ですね」

■民家
遊んでいるこども達、鈴の音に気づく。
ドアを開けるとサンタ帽のメイファ、歌っているカハク、トナカイ役の九尾が。

こども「おねーちゃんだ!」

メイファ「いい子に妖怪勢がプレゼントを配りにきましたよ」

大喜びでプレゼントをもらうこども達。

九尾「悪い子は王朝ごと滅ぼすぞ」

カハク「聴いてください B'zの『いつかのメリークリスマス』」

こども「サンタのくせがつよいねー!」

メイファN「人も死体も狐も妖精も良いクリスマスを」


#22 女道士とキョンシー少女と戦いの巨人

■荒地

メイファN「薬草採集に訪れた僻地で 首がない巨人と出会いました」

道士「刑天(けいてん)か」

巨大な刑天が道を塞いでいる。

「『三海経』曰く【刑天(けいてん)』」
「神の座を懸けた戦いに破れるも 闘志を失わず舞を続けたという」

刑天「道士よ しかと見届け屍を晒すがよい」

道士「未だ舞い続けているとは恐れ入った」

道士、ゆっくりと舞いはじめる。

メイファ「この流れでどうして一緒に舞いはじめるんですか?」

道士「いやなんか真似したくなって」

メイファ「ふしぎなおどりの類なんですか」

刑天「我が闘志を侮辱するか 道士よ」

道士「リスペクトだよ! メイファ! 俺の365日に一度の舞 ちゃんと録画しとけ!」

メイファ「いいですが誰得念なんですかね」

道士「刑天! この勢いで踊ってみた動画を収録して投稿するぜ!」

刑天「踊ってみただと」

道士「闘志も悪くねーが ティーンに才能を見せつけるのも悪くないぞ 誇りを取り戻すチャンスだ」

刑天「……」

道士「というわけで『オトナブルー』コラボで踊るぞ! メインはお前だ!」

メイファ「やってみたかっただけですねこの人」

■道士の家

スマホで刑天チャンネルを見ているメイファ。

メイファ「刑天チャンネル バズってますね」

道士「……」

メイファ「スパチャで大儲けらしいですよ」
道士「(すねている)ふーん」

メイファ「刑天ガチ恋勢もいるそうです」

道士「知らんし」

メイファN「『後ろのヘタクソな女イラネ』というコメントが大量に付いたそうです」


#23 女道士とキョンシー少女のバレンタイン

■道士の家・玄関前

何やらそわそわしながらうろうろしている道士。

メイファN「個人的な買い物から帰ってきたのですが」

買い物から帰ってきたメイファ、奇異な視線を道士に向けて。

メイファ「ただいまです師父(すーふ)」

ドキっとして振り返る道士。

道士「メメメメイファ!? もう買い物終わったのかよ!?」

メイファ「店が空いていたので……何を慌てているんですか」

道士「そそそそれはその……」

メイファ「浮気ですか」

道士「しねーよ! 百万年輪廻してもお前しか選ばねーよ!」

メイファ「(きっぱり)私もです」

道士「でへへへへへ」

メイファ「で 結局何をしてたんですか」

道士「実は……これ」

道士、包装されたチョコを見せて。

道士「バレンタインだからチョコ 靴箱に入れておこうかなって」

メイファ「また世界観が……うちに靴箱なんてないでしょう 女子高生ですか貴女は」

道士「友チョコじゃなくて本命だからこそ 堂々と渡すの照れるじゃん!?」

メイファ「じゃん言われましても」

道士「体液とか髪の毛も入れてないから!」

メイファ「そんな心配はしていません 逆に今怪しくなりました そもそも私は食べられないで……」

道士「大丈夫 特別に調合した丹に 香を練り込んだ お前も食えるぞ」

メイファ「……」

道士「う 受け取ってもらえますか?」

メイファ、自分もチョコを差し出して。

メイファ「私も友チョコじゃないですよ」

道士、感激しながら受け取り。

道士「カモミール茶淹れてくる!」

メイファ「そこは使い魔に任せなさい」

メイファN「生まれてはじめてもらったそうです」


#24 女道士とキョンシー少女と首だけの女性

■川辺

メイファN「師父(すーふ)がお魚を食べたいというので 川魚をゲットしに来たら」

ふと横を見ると、首だけで水を飲んでいる女性が。

メイファN「首だけのかたが水を飲んでいました」

メイファ「飲みにくくありませんか? 汲んでさしあげましょうか」

首子「!? に 人間のかたっすか?」

メイファ「闇の住人 キョンシー美少女です」

首子「性格は察したっす」

メイファ「この近くにお住まいですか?」

首子「うう そうなんですが 今日会ったことはどうかご内密にお願いっ
す」

メイファ「それは構いませんが……ご自身が他のかたと違うのを気にされていますか」

首子「『南方異物志』曰く『飛頭蛮(ひとうばん)』この者は首が体から離れ飛翔するという」

メイファ「体質を偽って暮らしておられるのですね ラブですか」

首子「な 何故それを!?」

メイファ「ふふ 視線が物語っていますよ」

首子「……付き合っている相手がいるんすよ この体質がバレたら……」

メイファ「私も好きな人間がいますが 違いは楽しんでいますよ」

首子「え!? 生死の壁を乗り越えてっすか」

メイファ「壁はありますが利用していますね」

首子「利用?」

メイファ「壁を意識したほうが燃えますし 相手を惹きつける長所にもできます 死体は死体の魅力があると あの人も……」

首子「長所っすか なるほど私の体質も……」

メイファ「責任は取れませんけどね」

首子「大丈夫っす! むしろ嫌がられたら興奮しそうな予感っす!」

メイファ「体質が増えましたね」

メイファN「その後 川岸では生首を抱いて幸せそうに散歩する 男性の目撃例が増えたそうです」


#25 女道士とキョンシー少女と押し付けられしもの

■洞窟

道士N「俺は修行中の道士 今日はとある理由で 太古の偉大なる存在に会いに来た」

道士「ようやく会えた……」

洞窟の奥に構える渾沌。見据える道士。

道士「渾沌様」

N「『荘子』曰く『渾沌(こんとん)』」

N「目 鼻 耳口が無い帝」

N「南海の帝がその顔に穴を開けたため 死んでしまったと言われるが……」

渾沌「お前のことは聞いている 何の用だ」

道士「私の目指す修法のため ご慈悲を」

渾沌「我を知りながら力を求めるか それは無象たる自然に穴を穿つが行為ぞ」

道士「渾沌様の故事……無理を道理に変える罪……」

渾沌「然り お前の生きかたがまさにそれ 己で己の性を決め 死者と生きる どう見ても健全ではない」

道士「それでも貫けば当然自然に到達すると私は信じております」

渾沌「神仙に至らぬお前が? 先に天命尽きようが そこまでする理由は如何に」

道士「恋愛してるもんで」

渾沌「……恋愛?」

道士「はい 好きなやつがいるんです」

渾沌「昨今 男女揃えば恋愛はじまる漫画を嫌い 熱い友情だけにこだわる勢も多いぞマーケティングも考えろ」

道士「狭量な要望に興味はありません」

渾沌「ふん……そこまで言うならいいだろう」

渾沌のほうから羽が落ちてくる。

道士「!!」

渾沌「渾沌を生き抜いてみせよ 苦難の道を」

道士、羽を掴み。

道士「感謝いたします」

道士M「まだまだ……この力を使って……」

洞窟から出てくる道士、飛びつくメイファ。

道士M「ラブコメを維持してみせる」

#26 女道士とキョンシー少女の別れ

■道

道士N「私は仙人を目指す道士 弟子を取らず一人で修行中だ」

真面目な顔の道士。

道士N「今日は キョンシーになる予定の人物を 見に来た」

■民家

若い夫婦が頭を下げて出迎える。

夫「ようこそいらっしゃいました」

妻「ごゆっくりなさってください」

道士「複雑な心境でしょうし 無理はしなくていいですよ」

夫婦「……」

道士「彼女に会ってもいいでしょうか」

夫「どうぞ部屋へ ご無礼がないとよいのですが」

■メイファの部屋

ドアをノックする音。

メイファ「……いるよ」

道士「失礼いたします」

道士、恭しく礼をして入る。

メイファ、忌々しそうに睨んで。

メイファ「あんたが私を買う道士様?」

道士「そうです メイファさんですね」

メイファ「女だったんだ」

道士「まあ 見た目はそうですね」

メイファ「?」

道士「ワケあって 自分で性別を決めたんです あまり外見のことはお気になさらず」

メイファ「変なヤツ 超美人なのにもったいない」

道士「よく言われます あ 変なヤツのほう」

メイファ「……お金 いっぱいくれるんだよね?」

道士「出せる限り努力しますよ」

メイファ「そっか お父さん達が喜ぶ」

道士「……貴方にも使う権利はあります 寿命はまだ……」

メイファ「持ってあと半年」

道士「……」

メイファ「もっと早いほうがあんたは得だよね 若い女をキョンシーにできるんだから」

道士「時期尚早は望みませんよ むしろ生きられる限り生きていただくべきです」

メイファ「そんなのこっちの勝手でしょ? 私はお父さん達ができるだけ早く私を忘れて 幸せに生きてくれたらいい」

道士「ご両親は 貴方のために…… 貴方を少しでも生かすために 死後の貴方を引き渡す決意をなされた それは」

メイファ「知ってるよ そんなの!」

叫ぶメイファ。

メイファ「毎日泣いてるもん お父さん達! いずれキョンシーになっても 今を生きてほしいからって……」

道士「……」

メイファ「最新の治療を受けるために キョンシーとして売るなんてさ ひどいことさせるよ あんた」

道士「そうですね それでも私は貴方の死体が欲しかった」

メイファ「……」

道士「キョンシーにも適性があり 貴方の体はキョンシーとして転化するには 最適であることがわかっています」

メイファ「そんな才能いらなかったな……」

道士「私はこの巡り合わせに 感謝していますよ」

メイファ、ぷっと噴き出す。

メイファ「あんたやっぱ変なヤツだね なんか人間と話してる感じしない」

道士「それもよく言われますね あまり生身の人間には興味がないんです」

メイファ「じゃキョンシーの私は大事にしてくれるわけだ?」

道士「約束しますよ」

メイファ「そっか……それなら安心だ」

■民家・居間

夫婦と道士、食事している。

妻「ろくなものを用意できませんがどうぞ」

道士「いえ 私には充分な馳走です」

夫「メイファは納得できていましたか?」

道士「……頭では理解できても心がついてきていませんね 当然です」

夫「あの子は 本当にいい子で 家のことも手伝って勉強もできて それなのにどうしてあの子がこんな病を……」

道士「病は善悪や正誤を見て 相手を選びませんから」

夫「ですな……受け入れて 選ばなければ」

妻「道士様 どうかメイファを……キョンシーになっても メイファをよろしくお願いします」

道士「もちろんです お嬢さんは丁重に私がいただきます」

涙を流している夫婦。

■庭

月の下、しくしく泣いているメイファ。

道士(声)「眠れませんか?」

道士がその後ろに立っている。

涙をぬぐうメイファ。

メイファ「何見てんの……あんたも?」

道士「枕が変わると どうしても」

メイファ「ふーん てかあんた実は結構 繊細でしょ?」

道士「……そう見えますか?」

メイファ「無理してるの見え見え 私がキョンシーになったら遠慮しなくていいからね 死体に気を遣うの変でしょ?」

道士「そのときは甘えさせてもらいます」

メイファ「うん 今の私とキョンシーの私は同じ扱いじゃなくていい そのほうがいい」

道士「……」

メイファ「……はあ わかってても怖いなあ」

道士「……残りの人生についてですか」

メイファ「違う 私が私じゃないものになること この体に全然違う意思が宿ること」

道士「貴方の魂魄……精神はまったく残りませんよ」

メイファ「それなのにこの体は メイファって名前なんでしょ? それがなんか怖い」

道士「それは……」

メイファ「今の私が上書きされちゃって いなくなったことにされる……それが怖い」

道士「では名前は呼ばないようにしましょう」

メイファ「え?」

道士「貴方の名前を尊重して キョンシーをメイファとは呼ばないように配慮します それなら少しは恐怖が薄らぎますか」

メイファ「なるほどな……うん それならちょっと楽かも そうして」

道士「かしこまりました」

メイファ「……」

メイファ、また涙が。

メイファ「また泣けてきた もう少しここいるから 先に戻んなよ」

道士「承知です お体を冷やさぬよう」

メイファ「はーい おやすみ」

道士「おやすみなさい」

■民家の前(翌朝)

道士「それではまた 何かあったらすぐにご連絡を」

夫婦、頭を下げて。

メイファ「急に病状が悪化するかもしれないもんね」

見るとメイファが立っている。夫婦、慌てて。

夫「こらメイファ なんて失礼なことを!」

道士「構いません 見送ってくれるのですか?」

メイファ「一応ね あと伝えたいことあって」

道士「?」

メイファ「私の名前ね やっぱお父さん達の前でなら呼んでいいよ」

夫婦「……?」

メイファ「育てた私がいなくなって つけた名前まで使われなくなるなんて 可哀想だもん 私 少し自分勝手だなって思って」

道士「わかりました そうしましょう」

メイファ「ありがと あんた優しいね」

道士「そんなことは……」

メイファ「あんたが私の買い手でよかった また遊びに来なよ」

苦笑する道士。

腕を振るメイファに背を向け去る。

N「彼女が死んだのは それから1年後のことでした」

■道士の家の前(数年後)

メイファ「ぜひまた遊びに来てください」

夫婦に頭を下げるメイファ。

夫「うん ありがとうメイファ」

妻「道士様にご迷惑をおかけしないようにね」

メイファ「お言葉 肝に銘じておきます」

道士「それじゃメイファ そこまで見送ってあげなさい」

メイファ「はい師父(すーふ)」

   ×   ×   ×

家の中、戻ってきたメイファ。

メイファ「ただいま帰りました」

道士「おかえり 親の相手は疲れるだろ」

メイファ「親といっても生前の話です 記憶にもなければ実感もないですね」

道士「そう言うな 向こうにとっては墓参りみたいなもんなんだ」

メイファ「別に嫌なわけではありません 優しい人達で好きですよ」

道士「ああ 良い家族だ」

メイファ「……私は師父(すーふ)さえ いてくれれば充分ですけどね」

道士「なんだよ急に 照れるだろ」

メイファ「本音です 私を目覚めさせた人が 貴方で良かったと 心から思います」

道士「そうだな……俺もだ」

メイファN「私は」

道士N「俺は」

「「この巡り合わせに感謝しています」」


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