あまねし

詩ということにしておきましょう。 コツコツ色々ふやしていきます。

あまねし

詩ということにしておきましょう。 コツコツ色々ふやしていきます。

最近の記事

[詩]つながり

今日という日が暮れようとしている。 ぼくは正しく生きただろうか。 春のような陽気に誘われて外に出ようと思った。 けれどもちょっと文庫本なんて読んでいる間に 手足が冷えて億劫になってしまって、 まだ春は遠い日であることを知った。 冷たい両手に包まれた一編の物語は熱を帯びていて、 文字の向こうに生きる彼らの世界は夏だった。 ふたつの季節と温度と世界は交差したけれど、 ぼくという接点に深く刻まれることはなく、 透きとおって薄れて離れていく。 指先を素通りてして伝ったこの胸の熱だ

    • [詩]あふれてしまう

      ひとつ、またひとつと器に注いできた。 酒は八分目でいい。 サイダーはビー玉も沈めたりして。 水はぷっくりと縁で均衡をとっていたけど、 つい悪戯心がわいてきて、 ふっと息を吐きかけたらツツツと流れでた。 その身をすり減らしながら雫は進み、 やがて力尽きたように止まった。 空の器があるじゃないかって、 やっぱりわからないんだね。 きみがそんなだって関係ないけど、もっとよく考えてよ。 赤いものを注ぐことだけはしないでほしい。 そう言われたことがあったような気がする。 そんなこ

      • [詩]雨にけぶる街は

        境界をなくしたぼやけた景色 こういう日はカーテンを閉めない 茫々と薄れるビル群は どこまでも果てしなくもあり 閉じる世界の際のようでもある 長靴で歩きたいし 窓辺で立ち尽くしたい サアサアと騒がしく シトシトと静か 曖昧なはざまの時は いくつかのものをはっきりさせる ひとつは路面の光 ひとつは言葉の不自由さ ひとつはあなたの物憂げな横顔 そんな表情も持っていたのだね あらゆる不思議にすっかり魅せられて ぼくはもう眼が離せない 部屋にもどっても明かりはつけない 温かいコー

        • [詩]凡庸なぼくだけど

          割ってしまった貝殻をテープでくっつけたりして、 在ってほしいものを在らせようとしている。 手放したくないという感情は、 至極真っ当に四肢を縛る。 ぼくはきちんと人間をやっている。 海に投げ捨てたら清々した。 在るべき場所に返すのは正しくて、 さざめきの一瞬に紐のほどける音がした。 ぼくはきちんと人間をやっている。 この胸の暗闇の返却先を教えてほしいけれど、 未だかつて知る人はいない。 ぼくはきちんと人間をやっている。 貝殻の欠けた穴から光が差した。 ぼくはきちんと人間を

        [詩]つながり

          [詩]空白を埋めよ

          みんなが仕事にかまけている間、 私は忙しく自分を満たしている。 金曜日の一杯で生き返るなんて人はいいな。 手軽なエーテルは流れでるだけだけど、 私がほしいのは目も眩むほどの不確かさの中。 足りない、足りない、空白が埋まらない。 世界は不完全だなんて完全な事実が悲しいくらい寒々しくて、 そのおかげで、毛布のやわらかさに涙が出そうになる。 それだけでいい、それだけでいいからって、私は慎ましく願ったのに、 今日の私は、昨日とは別物になっちゃってて。 この地球も本当のことを探して刻々

          [詩]空白を埋めよ

          [詩]ヤドカリの沈黙

          ヤドカリを見なよ 彼の背負ったものたるや 安寧の代償はなんだろう それでも我慢ならないときは 深いところで水泡に帰ろう  輝く水面を目指すんだ 境界なんてないのかもしれない この砂も水も空も ひっくるめて海でしょ あんまり夢ばかりはいてると 自由になっちまうぞ ヤドカリは真面目な顔して聞いていた

          [詩]ヤドカリの沈黙

          [詩]これはシエスタ

          めざめたときには過ぎていた ひこうき雲はもうすっかり青空に散って 見慣れない鉄塔だけがふぉんふぉんと光りそびえる あれはゼットンみたいなものだ 空に線をえがいて通り過ぎたあなた 見送りになんていくはずなかった 灼熱の玉がこの星を終わらせるときがくる 赤い空の下で立ちつくすがいい 近所で出くわしたみたいに 素知らぬ顔して駆けつけてあげる 背中に手をあててあげる これはうたた寝じゃない シエスタだ だからこの夢だって私の自在 これはシエスタ 私の意思でもう一度めざめる シエス

          [詩]これはシエスタ

          [詩]手をのべて

          日にかざした手に血潮なんかはみえなくて ぷっくらと走る筋にこそ脈動をおもう 指先がきいろいのはみかん 風邪をひくとわかる 呼吸は深々と休みなく こんなにも熱を放つ皮膚がある もう落っことしてしまった あの日の火とは違うけど けれども思い出す 底冷えなんて知らなかった 裏庭に椿が咲いていたっけ おろしたてのシャツはまだかたい みかんでも食べよう 健康だ

          [詩]手をのべて

          [詩]田舎道

          かなたに森 夜空よりずっと黒く ゆくてに灯 ひとつだけ煌々と めのまえに道 砂利に敷かれたツユクサの ひだりに小川 さよさよと映して みぎに藪 小雨にカラカラと 私しかいない この半径110メートルは私のもの 踏みだす足は泥溝をきざんでつよく そんな甘い孤独を囲う 幾千万の小さき命は静か この風よりも静か きっと鳴かないでいてくれ 黙々と歩けよ

          [詩]田舎道