見出し画像

[詩]つながり

今日という日が暮れようとしている。
ぼくは正しく生きただろうか。

春のような陽気に誘われて外に出ようと思った。
けれどもちょっと文庫本なんて読んでいる間に
手足が冷えて億劫になってしまって、
まだ春は遠い日であることを知った。

冷たい両手に包まれた一編の物語は熱を帯びていて、
文字の向こうに生きる彼らの世界は夏だった。
ふたつの季節と温度と世界は交差したけれど、
ぼくという接点に深く刻まれることはなく、
透きとおって薄れて離れていく。
指先を素通りてして伝ったこの胸の熱だって、
やがては冷めて、もう思い出すこともないだろう。

今日の夜がはじまる。
正しさなんてくそくらえと手を揉むぼくの冬、
秋へと突き進む彼らの満月、
ふたつをつなぐ夜という糸は、
もうぼくには見えない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?