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非モテ男子過激派テロ、宗教でも人種でも政治でもない新たな社会分断リスク。

 この見出しを見て何のこっちゃと感じる人が大半だと思う。一種の冗談と感じるかもしれない。だが、私は非モテ男性のテロや社会分断はありうると本気で思っている。実際にインセルと呼ばれる人々によるテロ行為は事件として起こっているからだ。

目次

1.非モテ男子

2.日本の非モテ男子

3.なぜ非モテ男子は過激化したのか?

4.総括

1.非モテ男子

 皆さんは「インセル」と呼ばれる男性たちをご存知だろうか。インセルとは‘involuntary celibate‘を掛け合わせた造語で、不本意の禁欲主義者、非自発的独身者のことを指す。分かりやすく言えば非モテ男子ということだ。彼らは、恋愛や性交渉の経験がない事に強烈なコンプレックスを抱え、モテない自分を被害者と思い込み、女性やリア充の男性を敵視している。彼らは主にネット上でコミュニケーションをとり、日々社会憎悪を募らせている。

 これだけならば社会的に見ればただのモテないをこじらせた男たちだ。しかし彼らは社会への報復としてのテロを起こし始めたのだ。非モテ男の憎悪は現実社会へと牙をむいたのだ。その象徴的な事件の一つがエリオット・ロジャーによる銃乱射事件だ。彼は2014年にカリフォルニア州サンタバーバラで銃を乱射して6人を殺害し、自殺した。彼は事件の前日に「報復」と題した殺害予告動画を投稿している。


https://www.youtube.com/watch?v=nn514Y2j73k◀内容はかなりセンシティブなものになるので、閲覧の際はご注意下さい。またこれは日本語字幕が付けれられているものになります。)

さらに昨年4月にカナダのトロントにおいてワゴン車が歩道に突っ込み、8人の女性と2人の男性が殺された。犯人のアレク・ミナシアンは事件直前に「インセルの抵抗はすでに始まっている!私達は全てのチャドとステイシーを葬り去る!最高の紳士エリオット・ロジャー、万歳!」と投稿している。

▲実際の投稿。性的魅力がある男性たちのことをチャド(chad)、チャドばかりを選ぶ性的魅力がある女性たちのことをステイシー(stacy)と呼んでいる

このような非モテ過激派男子によるテロ行為は複数存在し、アメリカで社会問題化している。「インセル」を自称したテロ行為は4件にのぼり、45人の犠牲者を出している。また、実際問題としてモテない男の社会報復としてテロが行われている。これは新たな宗教でも人種でも政治でもないテロの形である。

2.日本の非モテ男子

 ここまで読んでこれってアメリカやカナダの話で日本には関係ない話だと思われた方もいるかもしれないが、それは大きな間違いだと指摘したい。私は「まだ」アメリカやカナダのようなテロが起きていないだけだと感じる。間違いなく日本にもインセル的な要素を持つ人々は存在する。

 上記のチャンネルは加藤純一さんというあるコアな層に人気な配信者である。チャンネル登録者数は約28万人である。私は個人的に彼が好きで、中学生くらいの時分からよく配信を見ている。彼の配信はゲーム実況や雑談などが主であるが、たまに女叩きをする回がある。そんな影響からか視聴者層は10代から30代の男性が主な層となっているようだ。実際に彼の配信に流れるコメントを見ればわかるが、女性蔑視の風潮がこのコミュニティにはある。彼はその層に対してのキャラクターを演じてる節もあるし、一概に批判するわけではないがこの雰囲気はアメリカのインセルと似ている。(配信者自身は普通に異性交遊しているようだが)

 また、2ちゃんねるなど他ネット社会においても似たような風潮は随所で確認することができる。日本にも非モテ男子が現実社会に対して、女性に対して不満を抱えているという現状間違いなくはある。

 独身男性、性交渉の経験のない男性の増加は統計上でも表れている。1987年の調査では、30歳から34歳の男女のうち、性交渉経験を持たない割合は女性が6.2%、男性が8.8%だった。この割合は2015年には、女性が11.9%、男性が12.7%まで高まっている。(数値は国立社会保障人口問題研究所の第15回出生動向基本調査2015より)英国の医学ジャーナル「BMC Public Health」の論文においては、男性の性交渉経験と収入の関連が指摘された。収入が最も低いグループでは、最多収入のグループと比べ、童貞率が10倍から20倍に達していた。
これらの数値が一概に童貞男性の増加がインセル化しているかと言えばそうではない。しかし、ながらインセル化する下地を持つ男性が増えることは間違いない。

3.なぜ非モテ男性は過激化するのか

 さて、ここまでは非モテ男性の過激化について記述したがなぜこのような状況になっているかを稚拙ではあるが分析をしてみたい。この問題の背景には2つの社会的な要因が存在する。まず1つ目は男性と女性の社会的地位の変化である。そして2つ目はSNSをはじめとしたソーシャルメディアの発達による幸せ相対化社会による影響だ。

 A.男性と女性の社会的地位の変化

両性の社会的関係は以下の推移があると私は考えている。

①古代・中世 男女共依存関係 

②近代    女性の男性依存関係

③現代    女性の脱依存

④近未来   両性の自立

 古代から中世における農耕社会においては、男性女性問わず労働力として必須であった。農業が人手のいる作業に性別を問わず参画しなければ食料が得られず、直ちに死につながる状態であったと言えよう。人類は一部を除き総動員して食料を生産しなければならなかった。

 時代が進むにつれて農業も効率化し、産業革命が起こり農業主体から工業化され始める。最早社会においては総動員体制は必要とされなくなった。また、社会においては男性が働き、女性は家を守るといった性による役割分担が都市部で起こり、世界的な都市化も伴いこれがスタンダードな形となる。これは男性の経済・政治的優位を生み出し、女性は生存に際して男性に依存することになった。

 現代から近い将来にかけてはこの状態が徐々に変化しつつある。女性も社会参画をし、男性と同等の経済自活ができるようになりつつある。このことから男性と女性は相互に自立し始めている。

 このことが生み出すことは男性が男性であるだけでパートナーを獲得できる時代が終焉しつつあるという事だ。経済的依存をしない女性は男性をパートナーとする条件が高くなる。少なくとも自分よりは稼ぎのある男性を選ぶ。このように男性の選ばれる基準値が高くなり始める。こうなると女性の基準に見合わなくなる「不合格」になった男性たちが増えるのだ。

▲手書きの筆者図式  わかりにくかったらすみません)

B.幸せ相対化社会

 実際問題として日本社会においてはパートナーがいる人の割合は下がり続けている。しかし、SNS等によって比較対象となる人が増えたことで自分の幸せと可視化された他の人との幸せを比べることができるようになった。このことにより、自分の幸せを相対化してしまうことによってより不幸感や自己肯定感の低下につながっている。これがより社会における自己の敗北者感を高めているのではないだろうか。

▲上記の記事でも幸せ相対化社会について考察しているので合わせて読んでみてください。

 このような背景の中で、社会的な敗北者と化した男性はインターネットインターネット社会の中でアンダーグラウンド化していく。その極端な発露がインセルによるテロ行為なのではないだろうか。

4.総括

 ここまで新たな社会分断リスクとして、インセルが台頭するのではないかという問題提起とその背景について述べてきた。ぶっちゃけた話イスラーム過激派や極右の台頭と並ぶほどのものになるとは考えていない。しかし、従来考えられていなかった新たな社会的な分断はありうる。その顕著な例として、インセルが存在するのではないかと考えれられる。

 資本主義が東西冷戦に勝利し、グローバルスタンダードとなって30年余り。格差の拡大は人々の心の分断をも引き起こしているのではないだろうか。また、技術進展による従来の人のコミュニティの崩壊と再編の最中、取り残されている様々な人々も存在する。何も非モテ男子だけでなく、独居老人や過疎化した村落、現代には様々な取りこぼされていく人々がいる。人は他社とのコミュニケーションなしでは生きられない。これは比喩でなく本当に人間は死んでしまう。フリードリッヒ2世の著名な実験(実際にしたかは議論がある)や心理学者のルネ・スピッツの実験において赤ん坊に一切のコミュニケーションをとらずに育てた場合、ほとんどの赤ん坊が死んでしまった。

 激化する競争社会の中取り残された人々を無視することは手痛いしっぺ返しが返ってくるのかもしれない。

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