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図書館に住む本の声を聴く

本が好きだ。

新しい本の、あの紙とインクの匂いを嗅ぐと、ワクワクした気持ちが胸いっぱいに広がる。真っ白で綺麗な紙をめくるのは、しっかり手を洗ったあとの綺麗な指で、紙質をたしかめながら。

新しい本をめくるときはいつでも、新しい自分になった気持ちになる。

だから私は、そんな本がいっぱい並ぶ本屋が好きだ。どの本も、ぴかぴかキラキラしていて、期待を込めた目でこちらを見ている。

「コッチ見てー!コッチ見てよー!」

隣の本に負けるもんか、と言わんばかりに呼びかけてくる本たちが、大変可愛らしく思える。私もそんな一生懸命な声に対し、「いい子を見つけなくっちゃ!」と、背筋がぴーんと伸びる。


そんな本屋よりさらに好きなのが、図書館だ。

図書館にある本はみんな、どっしりと構えている。大人の余裕というものだろうか。

図書館の本たちは、私には話しかけて来ない。静かに、優しい瞳で、本棚の間を歩く私を見守っている。本たちの中には、窓から入る日の光を浴びて、うとうとしているものもいる。

私の心も本につられて穏やかになり、無口な本に、自分から声をかける。

「あなたのことを教えて。」

そういって語りかけると、本はゆっくりと自分のことを語り出す。その、色あせたカバーから。端が折れたページから。

古い本からは、少しほこりっぽい匂いがする。それは、その本の軌跡だ。数多くの人の手に渡った本は、面白いに違いない。図書館の本をめくるのは、いつもの私の指で、その紙質をたしかめながら。

古い本をめくるときはいつでも、幼い頃の読書の楽しさを思い出す。

あなたの話を、今日もたくさん聞かせてね。




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