尻の下の相棒
高校時代からの相棒がいる。私をどこまででも連れて行ってくれる相棒だ。
15歳の時、高校へ自転車で通うことになった私は、親に自転車のパンフレットを手渡された。
そのパンフレットの表紙で誰よりも輝いていたのが、何を隠そう、私の相棒である自転車だった。その華やかな色がひときわ目を引き、私はそのパンフレットの中身を見ることなく、この自転車にする!と決めたのであった。まさしく一目惚れだった。
私はその自転車をとても気に入っていた。自転車置場でたくさんの自転車たちの中にいても、可愛いオレンジ色がすぐに目につくのだ。私の自転車が1番かわいい、といつも思っていた。
青々とした匂いがする田舎道を、私は毎日この自転車で走った。
クラス替えに心を躍らせた日も、部活が辛くて涙が出そうになった日も。綺麗な桜の写真を撮っていたら遅刻した日も、ミニストップで限定のアイスが食べたくて、こっそり寄り道した日も。
私はいつも、鼻歌を歌いながら自転車に乗っていた。
この子に乗っている時間が心地よかったから。
そして月日が流れ、私は大学生になった。
通学は電車に変わり、あまり自転車に乗ることがなくなった。大学生の間、私の自転車はお飾りのようなものだった。
そして社会人になる時、私は思った。自転車通勤がしたいな、と。
びゅんびゅん風を切っている時間は、物事を忘れられて最高に気持ちいいのだ。その感覚を久しぶりに味わいたい。そう思った。大学生の間詰め込まれ続けた、電車という空間に少し嫌気がさしていたのかもしれない。
そして私は、会社まで自転車通勤ができる家に引っ越した。今の家は、会社まで自転車で20分。うん、ちょうどいい。
私は約4年ぶりに自転車に乗った。
4年もまともに乗らずにいてごめん。この子は気を損ねていないだろうか。急に調子のいいやつ、だとか思われたりはしないだろうか。
そんなことを思いながら。
でもそんな私の気持ちなんかどこ吹く風。自転車は、以前と同じように私をどこまでも運んだ。気持ちよさそうに。
よかった。
以前より色々な場所に汚れが増え、サドルもボロボロだけど。そのオレンジ色の体は、やっぱり誰よりも可愛いよなぁ、と私は自転車を見るたびに思う。
そして私は今日も、鼻歌を歌いながら自転車に乗る。
高校生の頃と歌う歌があまり変わっていないことに、この子は気付いているのかな。
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