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寄り添い時計

なかなか眠れない。
毛布を頭からかぶって、その音が始まらなければいいのにと念じながら、
わずかな音も聞き逃すまいと、息を凝らしてじっと音を探している。

時間がたつほどに、その時は近づいて、動悸も激しくなってくる。

そして、
おじいちゃんが起きだす小さな音。
はっと気づいたすぐ後に、明かりが漏れてきた。
おじいちゃんの部屋の明かりが障子越しに廊下に漏れて、おばちゃんの部屋まで薄く照らしてくる。

ゴトッというのはベッドを降りて障子を掴んだ音。
ガタピシッと滑りの悪い障子を不器用に無理くり開けている音。
静寂の中に響く音で、おじいちゃんの動きがわかる。
ああ、玄関に向かっている。
三和土に降りて、玄関のかぎを開け始めた。

このまま、寝たふりをしていようかと考えてみる。

だめだ。
外へ出る前に止めなければ。
それでも、時間稼ぎのようにゆっくりと起き上がる。

今夜は眠れるだろうか。


ある日、風変わりな雑貨屋が訪ねてきた。
おじいちゃんが昼と夜が逆転して、困っているなんてことを誰に聞いたのか、内情をよく知っているようだ。
「素敵な寄り添い時計」というのをよく分からないままに買ってしまった。
ストレスやら疲労やら睡眠不足やら、いろいろで疲弊していた心がその人の笑顔でふっと癒されたような気がした。
「この素敵な寄り添い時計はおじいさまの時計でございます。持つ人を幸せにする素敵な時計でございます。どうぞお時間とお体を大事にされて下さいね」
優しく微笑んで去っていった。

それから、おばちゃんはちょっと気持ちと体が楽になった。
おじいちゃんと同じように起きて、同じように眠ることができるようになったから。
素敵な寄り添い時計はちゃっかりおばちゃんの寝室にある。

これでよかったんだっけ・・。




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