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小さな無人販売所の話12<農家の私が家庭菜園を勧める理由>

「5月に買ったミニトマトの苗、もう小さな実が付いたのよ〜」
「なんか、トマトの葉っぱが元気ないんだけど、どうしたらいい?」
6月の無人販売所ではトマトや茄子、きゅうりなどを育てるお客様との家庭菜園トークも多く聞かれる。
こたろうファームのお客様は、家庭菜園をやっている方が多い。
毎年5月のゴールデンウィーク最後の2日間は、「野菜の苗販売会」をやってもう4年目くらい。
年々増える、野菜苗を買うお客さま。そのほとんどが苗のリピーターさん。

コロナ禍に増えた家庭菜園

データが残っているのが2021年からですが、ちょうどコロナ禍でソーシャルディスタンスな時期。だったら、外で野菜でも育ててみようか、という方が出始めた頃。
トマトの苗だけで15種類くらい販売していることもあり、トマト好きや野菜を作ってみたい方が集まってくる。
ゴールデンウィークの最終日ということもあり、遠方から毎年のように来てくれる方も多い。

野菜苗販売会


2022年にはなんと苗販売の売り上げが前年比約50%増。
去年よりももっと作りたい、友達も連れてきた、友達の分も買っていくの、なんて方も増えてきた。
2023年、だいぶ定着してきたゴールデンウィークの苗販売会。
前年比約20%増。
トマトの中でも作るのが難しい皮の柔らかい「プチプよ」がよく売れた。
毎年予約と初日で準備した分の「プチプよ」が売り切れちゃうので、今年は80苗くらい準備。それも売り切れた。
今年2024年の売り上げは前年比約30%増。それまでベランダ菜園だった方が、今年は市民農園を借りたとか。家庭菜園のスペースを広げたとか。そんな話題で楽しく話す。
「野菜が食べたくて野菜を作る」というよりは、
「外で家族で一緒に畑仕事をする」
「子どもが自分で作って収穫した野菜だとよく食べる」
「朝のサラダに収穫したてのミニトマトを食べたい」

こんな理由もあるようだ。

そんな野菜苗を売ったら、野菜買いにこなくなっちゃうんじゃない?

心配した友人にそう言われたこともある。
でもその心配はほとんどない。
うちはプロの農家なので、皆さんの家庭菜園よりもたくさんの種類を長く栽培して収穫しているから。
お客さまの中には、自分で作ったトマトを持ってきてくれる人もいる。
そして、プロが作ったトマトと自分の作ったトマトを比べてみたくなる。
そして、
「やっぱりプロが作ったトマトは美味しいわ〜」
ということになる。
ほとんどのお客さまはベランダでのプランター栽培や露路栽培。
雨風に当たるとどうしてもトマトの皮は厚くなる。
野菜が可愛すぎて、つい水をあげすぎてしまう。トマトの場合は熟す前に皮が破けてしまうこともある。
でも、いろいろあっても、自分で育てた可愛い野菜。
毎年楽しく育ててくれて、毎年苗も野菜もリピートしてくれる方が多い。

自分で育ててみて初めてわかる、野菜を育てることの大変さ

私が家庭菜園を勧めている大きな理由はこれである。
私は、家庭菜園もやったこともないのに、いきなり農家になった。
野菜を作ることがどれだけ大変かに驚き、野菜が安くしか売れないことに驚愕した。
天気に一喜一憂し、虫や病気の発生におののき、無事に収穫できた時の安堵感と幸福感。
野菜は種を蒔いたら勝手にできるものではないし、他の仕事ができないから「農家にでもなるか」なんて気楽な気持ちで農家になれるものでもない。
それを消費者の皆さんに知ってほしい。

最近流行りの野菜の収穫体験。
畑で野菜がどんな風に育っていて、どう収穫するのか、それを知るには良い体験である。農業に対するポジティブなイメージもつくだろう。
こども達が体験するのにはちょうどいいと思う。
でも大人の皆さんには、家庭菜園をおすすめしたい。
大人が野菜を育てたら、採れたての美味しさも野菜作りの楽しさも大変さも、家族の中でこども達に伝えられる。
キャベツや白菜高騰のニュースを見ても、どんな天気や自然災害などで野菜の値段が今上がっているのか、理解することができるはず。

百聞は一見にしかず

5月31日にvoicyパーソナリティの木下斉さんがカスハラの話をしていた。
「ちょっと詳しい素人が一番ヤバい」

確かに。農業界隈でもそうかもしれない。
特に、自分で農業したことなくて、ネットや本などの情報だけで農業を語る人たちはヤバい人たちなのかも。

だから私は家庭菜園をおすすめする。
他の職業と違い、野菜作りは自分で試しやすい。
同じ農家でも米や果樹は難しい。
でも野菜を作ったら、他の農作物だって同じことがわかるはず。

うちは慣行農法なので農薬使いますが、それでも虫や病気は発生する。
安定供給と品質管理のためには、いいタイミングで適量の農薬を使用する。
農薬を使わないという選択をしている農家の皆さんが、どれだけ手間をかけて、どれだけ苦労をして出荷しているか、よくわかる。
湿度が高く雨や台風の多い日本で野菜を作ることは、農法に差はあれど、なかなかにチャレンジングなことである、ってことを体感するためにも家庭菜園、いいと思う。

どんな仕事でも大変さは同じ

「農家さんは、大変ねぇ」
と言われたいわけではない。
教師も看護師も、カフェオーナーも宿泊業も、会社員も自営業も、どんな職業にだって大変なことはある。
農家だけが大変なわけではない。
プロとして仕事をすることは、どんな職業でも大変なこと。そして農家にも他の職業にも、大変さと同時に嬉しさも楽しさもある。

去年だったか、無人販売所に来たご家族が
「うちのお兄ちゃんね、野菜を育てるのが楽しいって。今年はトマトだけだったけど、来年はきゅうりと茄子も育てたい、って言ってるの」
なんて話してくれた。
きっと彼の家庭菜園体験は心のどこかに残って、大きくなってから
「そうだ、農業を仕事にしよう!」
って思う日も来るかも。
そんなお子さんが育ってくれたら、家庭菜園を勧める農家としてこんなに嬉しいことはない。




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