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プロダクトづくりのためのユーザーインタビュー 〜年間100人のユーザーに会う開発チームの試行錯誤

先日会社で開催された Cookpad Product Kitchen #5 というデザイナーさん向けのイベントで、生まれて初めて社外の方向けに発表をさせていただきました。その時の資料をこちらで公開させていただきます。拙い発表ですが、目を通していただけたら嬉しいです。

-------☺️ここから発表内容☺️-------

こんにちは。クックパッド投稿開発部、ディレクターの五味と申します。私はデザイナーのキャリアはないのですが、デザイナーさんとチームを組んで、たくさん一緒に働いてきた立場として、お話しさせていただきます。

私たちクックパッドの開発チームは、ユーザーさんに会う機会が多いです。サービス開発に関わるメンバーは、デザイナーさんもエンジニアさんも、職種問わず、積極的にインタビューに参加してもらっています。

今日はそんな私たちが、どんな風にユーザーと向き合って、またそれをプロダクトづくりに活かしているのか、少しでも様子が伝わるようお話ししたいと思います。

ちなみにこれから色んなお話をするのですが、私が今日本当に伝えたいことはひとつだけで...

これです!ユーザーインタビューは、終わってからが本番です
これだけは覚えて帰っていただきたいと思います。

はじめに

改めまして、自己紹介させていただきます。
サービス開発ディレクターの五味と申します。

クックパッドには、ちょうど10年前に、広告制作ディレクターとして入社しました。丸5年、タイアップ広告づくりをしてから、レシピ事業の開発ディレクターに社内転職し、去年から「投稿開発部」という部署に在籍しています。
ちなみに最近の心のテーマは「クリエイターを増やす仕事をしたい」です。

さて、その「投稿開発部」という部署ですが、クックパッドには、レシピを投稿してくれるユーザーと、そのレシピを検索して見にくるユーザーの2種類がいます。投稿開発部は前者の、レシピを投稿してくれるユーザーのための開発をする部署です。わかりやすいところでは、クックパッドにレシピを書く画面などの改善も行っています。

事業目標は「レシピ投稿ユーザーの数を増やす」ことです。私の解釈では、「家庭料理界のクリエイターを増やす」部署だと思っています。

いま、その投稿開発部では、ムーンショットを狙った新プロジェクトに取り組むチームがあります。メンバーは、プロダクトマネジャー、デザイナー、エンジニア、ディレクターの4人です。

このチームの1番の特長は、4人しかいないのに、年間100人くらいのユーザーにインタビューしながら開発していることです。

どうしてそんな人数のユーザーに会うかというと...

インタビューしまくる開発フローを採用しているからです。

これは私たち新規プロジェクトチームの実際の開発フローなのですが、プロダクト化の前に繰り返す仮説やソリューションの検証に、がっちりユーザーインタビューを組み込んでいます。
基本2週間で1回検証サイクルを回していて、1度の検証で最低5人のユーザーにインタビューするので、気がついたら年間100人に会ってしまうというわけです。

ユーザーインタビューしまくっているチームということがわかったところで、今日のアジェンダです。今日はこの3つについて、お話ししていきます。
まずひとつめです。

なぜ「インタビューは終わってから本番」?

そもそも、なんでそんなにたくさんのユーザーに会いながら開発する必要があるのでしょう?

ユーザーインタビューをする理由は色々あります。
ユーザーのことを知りたい、仮説が合ってるか確かめたい、アイデアを評価したい、使い勝手をテストしたいなどなど...ですが、

1番根底にある理由は、ユーザーにとって本当に価値のあるプロダクトを作りたいからです。

今日お越しいただいているみなさんには共感してもらえる方が多いと思うのですが...私たちはかなり本気で、ユーザーの生活が変わるようなプロダクトを作りたいと思って開発にあたっています。

でも、そんなプロダクトを作るためには、いくつか必要なものがあります。

まず、既にユーザーが「ほしい」と気づいているものを作るのでは、彼らの期待を超えることはできません。新しくて、ユーザー自身も良いかどうかすぐにはわからないような「未知の良さ」を創り出さないといけないですよね。そして「未知の良さ」を作り出すには、ユーザー自身も気づいていない「隠れた欲求」を捉える必要があります。

それは数字やデータでは絶対に見つけられず、ユーザーの日常に入り込むくらいの勢いで生活を観察しにいかなければ、見つけることができません。
なので私たちは、インタビューという形をとって、ユーザーに直接、生活の深いところに突っ込んで話を聞くことを大事にしています。

でも、「隠れた欲求」って、ユーザーにインタビューして見つけられるのでしょうか?

答えはNOです。
ユーザー自身も気づいていない感情が、本人の口から「本当はこう思ってるんです」という言葉で出てくることはありません。

では、ユーザーから話されないものを、どうやって見つけるのでしょうか?
ここで冒頭のメッセージにつながります。

ユーザーインタビューは、終わってからが本番です!

なぜなら、「隠れた欲求」を見つけるには、インタビューが終わった後にそれを考える工程が必要だからです。

なぜインタビューは終わってからが本番なのかがわかりました。では、肝心の「隠れた欲求」を、どうやって見つけるのかについて、お話ししていきたいと思います。

「隠れた欲求」を見つけるには?

とはいえ、「隠れた欲求」を見つけるのって、難しそうですよね。
ちょっとここで、スターバックスコーヒーの例を参考に考えてみましょう。

拡大当初のスターバックスには、家でも職場でもプレッシャーを受けている人に、癒しを感じられるように、「第3の場所」を提供するというコンセプトがありました。ターゲットは「働いている人」ですね。
ここから、隠れた欲求は、癒しの場だと思っていた家でも、プレッシャーを感じているので、解消したいというところだと推察されます。

もしこの欲求をインタビューを通して見つけようと思うなら...

ユーザーとチームの当たり前にあるギャップを見つける」ことが有益そうです。

スターバックスなら、チームにとっては「家は癒しの場所である」ことが当たり前だったけど、ユーザーにとっては「家でもプレッシャーを受けている」ことが当たり前だった...というところに気づけたことが勝因です。でも、どちらもお互いに「当たり前」だと思い込んでいるので、普通に話しているだけでは、そこにギャップがあることに気がつきません。

「仕事を頑張ってる」「土日は家族サービス」と言いいながら、でも「帰り道についコンビニに寄っちゃう...」みたいな言動や行動の違和感を、こちらから見つけに行く必要があります。

つまり、「隠れた欲求」を見つけるためにやるべきことは、インタビューで「当たり前(= 日常)」を聞き出すこと、「当たり前」に潜むギャップを見つけること、のふたつです。

どちらも、何度やっても難しいです。私たちが試行錯誤の末に採用してきた手法をいくつか紹介します。

まず、インタビューは、いかにユーザーの「当たり前」を引き出せるかが勝負です。ここで良い情報を聞き出せないと、後の議論も上手く行きません。

特に知りたいのは、普通は初対面の人には話してもらえないような、感情の負荷が高いエピソードです。時間制限がある中でそれを引き出すために、色々な工夫をしています。

例えば、狙ったタイプのユーザーをインタビューに呼ぶために、心理テストみたいなアンケートを配信しています。仮説で狙っているシーンを持っていなかったり、期待と違う性質の人を弾くためです。

料理を作る相手がいるかや、アーリーアダプター気質かなど、かなり独自の項目を考えて、狙ったタイプの人が引っかかるよう仕掛けています。

また、インタビューでは、事実に近い情報だけ引き出して、ユーザーの考察が混じった話は敢えてシャットアウトします。
「どう思ったか」「どう感じたか」と聞かれると、どうしても回答に、頭の中で補正が入ってしまうためです。

行動と状況の話を引き出すことに専念して、背景にどんな感情があるかは、ユーザーではなく開発チームで考えることにします。

最後は、スクリプト無視です。スクリプトとは事前に用意している、インタビューの台本です。ユーザーの気になる発言を見つけたら、そのスクリプトを無視してとことん話を聞き進めます。
強い感情がありそうなキーワードは、その周辺に「隠れた欲求」が隠れている可能性があるからです。

ちなみに、ユーザーと話しながら「掘るべきキーワード」を見つけるのは難易度が高いので、必ずインタビュールームの外で中継をみてもらうメンバーを用意し、チャットでリアルタイムに掘りどころを指示してもらうなどの工夫もしています。

次はいよいよ「当たり前」に潜むギャップを見つけるところです。
ここでは、全員分のインタビューの中から、料理に関する、もっとも強力なモヤモヤを見つけられるかが勝負です。

ユーザーが話してくれた「当たり前」と、自分が思っていた「当たり前」を付け合わせる作業になるのですが、自分ひとりの視点でそこまで分析するのは難しいですよね。なので私たちはこの段階では、チーム総動員で議論することを重要視しています。

まず、インタビューは1人終わるごとに、チーム全員で振り返りをします。ユーザーは、属性や行動が似ていても、たいがい違う価値観や欲求を持っているからです。

この時のポイントは、少し意地悪な目線で感想を言い合うことです。
「この人、言葉ではこう言ってたけど、本気でそう思ってる表情じゃなかったね」とか、「途中で言っていることが変わったよね、本当のところはどうなんだろう?」とか、小さな違和感が大きな気づきにつながることがよくあります。

全ユーザーのインタビューと振り返りが終わったら、施策全体の評価と、次の一手をどうするかの議論に入ります。
そこではまず、各ユーザーの振り返り結果を並べて、チーム全員で気づきを出し尽くします。複数の人がやっていた行動や、自分たちの思い込みが外れたことを探して、ふせんに書き出します。

ここで出したものが、後の議論のタネになるので、頭がすっからかんになって何も出なくなるまで何回か繰り返します。

気づきを出しつくしたら、チームの注目度の高い気づきを可視化します。
具体的には、メンバーおのおの「これは大事」「もっと話したい」と思った気づきに印をつけます。

そこからは、票の多い順に、書かれていることをテーマに雑談をして、「その背景にはどんな感情がある?」という議論を深めていきます。

ここまで来ると、力ずくで発散と収束を繰り返します。
正解はないので、とにかく色んな方面から話を深めていきます。過去の事例や、自分たちの料理体験を引き合いに出したり、心理学や行動経済学の知識を引っ張り出したりします。

その後は、「これは発見だ!」と思えるものが出てくるまで議論し続けます。

最後は、これまでのユーザーインタビューで試して面白かった手法をいくつか紹介して終わりたいと思います。

ここまで紹介してきた私たちの手法も、完璧には程遠く、まだまだ進化が必要です。思考停止せず、毎回インタビューの精度を上げ続けるために、いろんなトライをしています。

おもしろかった取り組み

1つめ、インタビューに来るユーザーさんに、直近1週間すべての食卓の写真を撮ってきてもらいました。
写真を見ながらだと、その時の状況や行動の話をたくさん引き出せたのと、普段は見せてくれない「手抜き」の様子が目の当たりにできたのがよかったです。

2つめ、ある女性の、料理を巡る小説のようなストーリーを用意して、インタビュー中に読んでもらいました。
ここで用意しているのは、サービス側の理想のユーザーストーリーです。ユーザーには、共感や違和感を覚える場所を示してもらいながら、主人公と比べて自分の場合はどうか...という話を引き出せました。

3つめはユーザーさんのお宅訪問です。
通常のインタビューと同じような話を伺うのでも、実際のキッチンの様子や、サービスを使う時に家の中をどう行き来しているなどを見せてもらいながら話を聞けると、理解が深まりました。

また、サービスの利用状況が似ているユーザーさんでも、お宅の様子はまったく違ったりするのも新鮮でした。

インタビューの結果を「ユーザー白書」というドキュメントにまとめる取り組みもしています。チームで導き出した気づきや、印象的なエピソードを、人物像とセットでストックする試みです。

たくさんユーザーに会うチームだからこそ、ユーザー像をインデックス化できるこの手法は重宝しています。

これらの試み含め、ユーザー調査やコンセプト作りに関する本は日頃から色々読んで、良さそうと思った手法はどんどん試しています。
ちなみにこのあたりの本は、チームでもかなりお世話になっており、おすすめです。

まとめ

私たちクックパッドの開発チームが年間100人のユーザーに会うのは...

ユーザーにとって本当に価値あるもの、生活が変わるプロダクトを作りたいからです。

また、ユーザーインタビューは、プロダクトにつながる「隠れた欲求」を見つけるために行います。

ただし、「隠れた欲求」を見つけるには、インタビューが終わったあとの議論こそが重要です。

ユーザー自身も気づいていない欲求のタネを見つけ出すのは、すごく大変だし難しいけど、とても楽しいです!今日お越しいただいているみなさんのプロダクトづくりにも、少しでも参考にしていただけることがあれば幸いです。
そして、しつこいですが...

ユーザーインタビューは、終わってからが本番です。これだけは覚えてください。笑

-------☺️ここまで発表内容☺️-------

いただいたご質問

最後に、イベントの中で発表に対してお寄せいただいたご質問を、いくつかご紹介します。当日うまくお答えしきれず悔しかったこともあり、ここで改めて回答させていただきます🙏

Q.
インタビューする相手はどうやって選んでいますか?

A. 
今のチームでは、クックパッドのユーザーから条件に会う人を探して声をかけることが多いです。まず施策のターゲットになる人物像を描いてから、具体的に定義できる選定条件を考えます。アクセスログで特定できそうな条件があれば、該当するログを持つユーザーを大まかに抽出し、メールでスクリーニングアンケートを配信します。そのアンケートに、期待したパターンの回答をしてくれた人に、直接スカウトする流れです。
ただしプロジェクトの特性によって、クックパッドの利用者ではない方が望ましい時や、特定の方に継続的に話を聞きたい時もあります。そういう時は、スタッフの知り合いづてなどで地道に条件が合う方を探すこともあります。

Q.
インタビューをすると、事前の仕込みが大切だと感じます。インタビューの設計にはどのくらい時間をかけていますか?

A.
具体的なインタビュー設計にかける時間は、半日〜1日くらいです。経験則がある程度たまってきていることもあり、チームで集中的に議論してさっさと決めてしまいます。
ただ、重要なのはそれよりも前の段階で、何のためにインタビューをするのか、どんな仮説やコンセプトを検証するのかという大元の策定をすることは、もっと時間をかけています。仮説を見つけるために別のインタビューを行なっていたり、構想段階で数週間〜数ヶ月を要することもあります。

Q.
インタビュー後の議論のファシリテーションのコツを教えてください。

A.
「力ずくで発散・収束」のところですね。笑
正直私たちもまだ勝ちパターンは持っておらず、試行錯誤を繰り返しているので、良い手法があったらぜひ教えてほしいです...。ただ、tipsレベルで良ければ、いくつかご紹介できるものがあります。
例えば、議論が行き詰まる時って、インサイトやコンセプトなど、抽象度の高い話が続いている時が多いです。そこで立ち行かなくなった時は、議論の対象を具体的なものに切り替えてみることにしています。例えば、「論理的な根拠づけは一旦置いて...前回の検証で使ったこのプロトタイプをどう変えたいかを、みんなで考えて来よう!」という感じです。同じ議題でも、具体と抽象を意図的に切り替えながら話すことで議論を進捗させます。
また、議論が静まり返ったり、偏ったりする一因に、参加者全員の考えていることがお互いわからない状態になっていることがあります。なので、時間を区切って、各自いま何を考えているのかをふせんに書き出してもらう、という手法もよく使います。参加者全員等しく吐き出してもらった考えを見ながら、それぞれについて感想を言い合うと、不思議と議論が進みます。

終わりに

やや抽象度が高く、また拙さの残る発表でしたが、今年いちばん夢中で取り組んできたテーマについて自分なりにお話しさせていただくことができて、とても勉強になりました。
イベントで発表をお聞きくださった方、直接話しかけてくださった方、この記事を読んでくださった方も、本当にありがとうございました。

イベントにいらしていたkimixさんが、当日の様子を、私の資料より100倍わかりやすくまとめてくださっていたのも、とっても嬉しいです😭超絶わかりやすいので、よろしかったらぜひ読んでみてください!

また、今回のProduct Kitchen含め、クックパッドで開催するイベントなどの様子は、クックパッドのnote公式アカウントでも随時発信しています。こちらもぜひ覗いてみてください!

note初心者です。発信力を研鑽したくて書いています。