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ザワークラウトと私

 3年ほど前からザワークラウトを作り続けている。

 ザワークラウトとはいわゆるドイツのキャベツのお漬物だ。酸っぱさが特徴で、その酸っぱさからお酢が使われていると思われがちだがお酢は使われていない。

 きっかけはコロナ禍でお家時間が増えたことと、もともと私が胃腸の調子が悪くなりやすく、何かいいものはないかとネットで調べていたところ、発酵食品のザワークラウトが腸の調子を整えるということが分かったことだった。

 作り方はいたってシンプル。千切りしたキャベツに総重量の2%程度のお塩をふり、水が出てくるまで塩揉みする。そこに防腐剤代わりの鷹の爪とお好みのスパイスをふり、保存容器に入れ1~3日常温で発酵するのを待ち、好みの酸っぱさになったら冷蔵庫に入れる。それだけだ。

 ジャーに入れてしばらく置いておくとぷつぷつと泡がわいてくる。その泡が発酵している証だ。作り始めた頃はその泡を見ると発酵という不思議な営みに感動し、ずっと泡を見ていられた。朝起きて「ザワ子さんおはよう」と泡が出ているのを見てうれしくなり、仕事から帰ってきては「ザワ子さん調子どう?」と泡が出ているのを確認し「あー発酵してるなぁ、すごいなぁ、特別なことは何もしてないのに不思議だなぁ」と思う。

 スパイスは最初はクミンシードを入れていた。だが初めて出来上がったザワークラウトを食べたとき夫に「これカレーの味がする」と言われた。どうもクミンシードはカレーに使うスパイスらしい。ネットで調べてみると通常はキャラウェイシードを入れるようだ。それからはキャラウェイシードをベースにそのとき家にあるイタリアンハーブスパイスやレモンハーブスパイスなどを入れていた。

 3年ほど作り続けていたのだが、つい最近夫に「これ昆布入れたらどうなるのかな?今度作ってみてよ」と言われた。昆布入れたらもうザワークラウトじゃなくて普通のお漬物なのでは…と思いつつも「いいよ。1回だけね」と作ってみた。

 いつものように千切りしたキャベツを塩もみする。違うのはキャラウェイシードの代わりに昆布をキッチンバサミで切って入れることだ。だが不思議なことに、いつものようにジャーに入れてしばらくすると、ぷつぷつと泡がわいてくる。最近は発酵食品として糠漬けが流行っているようだが、普通のお漬物も発酵食品なのだなぁと当たり前のことに今更気付かされる。「キャベツの漬け子さんも発酵してるなぁ」とニコニコと見守る。

 出来上がったものを食べてみるとヨーロッパ感は消え去り、これはまったくもって食べ慣れたキャベツのお漬物だ。夫は食べ慣れているからか「おいしい、おいしい」といつもの倍以上のスピードで箸がすすむ。「今度からこれがいいな」

 少し「えー」と思う。これまで私が作りたかったのはザワークラウトでお漬物じゃないんだけどな、と。でも、お漬物も発酵食品で腸にいいのは変わりないし、なにより夫がおいしいと言って食べてくれるのが一番だ。それならザワ子じゃなくて漬け子でもいいのかな。

 仕方ないな、と思いつつ、塩揉みしたキャベツの千切りにキッチンバサミで昆布を切っていれるのだった。

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