普通でなにがわるい

みんな”特別”に呪われている。

Youtube、Twitter、あらゆるところで、キラキラした特別な人たちが”夢”を売っている。「好きなことで生きていく」「会社から自由になる」。どれもこれも甘くて、魅力的な言葉たち。みんながそれに群がって、登録者はどうやったら増えるだの、いいねはどうやったら増えるだの言っている。

きっとみんな、「何者か」になりたいのだ。

ありのままの自分ではどうしても不安で、まるでゲームのレベル上げみたいに、フォロワー数を追い求めている。そのためなら、叩かれても、話題になりさえすればそれでいい。「学校に行かない少年」も「スーパーの商品に穴をあけるYoutuber」も、きっとみんな”特別”に呪われているのだ。

どうしてみんな、”ありのままの自分”でいられないんだろう？

「"特別な人”になれば人から尊敬されて、自由に生きられて、楽しいよ、みんなこっちにおいでよ」って。そんな声が強くなるたびに、どんどん”普通”がないがしろにされていく。そんな風潮に強烈な違和感を感じている。と同時に、わたしは件の彼らの気持ちを、どうしようもなく理解できてしまう。だってわたしも、”特別”に呪われているひとりだからだ。

「普通の会社員にはなりたくない。なんか特別な仕事がしたい」

ちょうど就職活動をはじめたころ、両親に言った言葉だ。”なんか特別な仕事”。なんの計画もなく、ただその”特別な人がすごい”という風潮に、みごとに踊らされた結果でた言葉だった。いま思い返すと、ほんとうに反吐が出る。「普通に働いたこともないくせに」って、自分をぶん殴ってやりたくなる。

だって、わたしの両親は”普通の人”だから。

父は建築会社で働く普通のサラリーマンで、朝から晩まで働いていた。わたしが幼いころは現場にも出ていて、よく作業着をドロドロしていた。重い石を運んで、爪がはがれていたこともあった。母は専業主婦だったが、パートに出ていたときもあった。落ち着きのないわたしと妹を自転車に乗せて、パート先まで向かっていた。普通に働いている、普通の人たち。

今ならわかる。父と母が、一番すごいと。

汗水たらして働いて、理不尽な上司に叱られて・・それらはすべて、愛する家族のためだ。わたしの両親だけじゃない。みんなそうだ。疲れた顔して電車に乗っているサラリーマンも、電車の運転手さんも、駅のトイレをそうじしてくれているおばちゃんも。みんな、めんどくさい普通の日々を、愛するだれかのために生きている。そんな人たちをだれがバカにできる？この人たちこそ、尊敬されるべき人たちだ。たしかに世界のなかで目立つことはない、”普通の仕事”かもしれない。でも、わたしたちの暮らしは、そんな”普通の仕事をしてくれているだれか”がいるから、成り立っているのだ。おいしい野菜を食べられるのも、野菜を育ててくれた農家さんがいて、それを出荷して運んでくれた人がいるからだ。

普通の日々を生きる、普通の人たちに、わたしたちは生かされているのだ。

こんなことを言いながら、わたしはいまだに”特別の呪い”から逃げられないでいる。Twitterやnoteを開いては、フォロワー数やいいねを気にしている。「いいねの数でその人の価値ははかれない」。分かっているのに、どうしようもなく振り回されている自分にうんざりしている。キラキラした特別な人が「夢を叶えるための方法」を売って、それを買う人がいて・・。この流れが社会の一部としてたしかに組み込まれている。それを否定するつもりは一切ないし、実際、参考になる意見があることも知っている。「夢を売る側」の人たちだって、自分のため、大切なだれかのために、必死にがんばって「特別」といわれる立場までたどり着いたことも、ぜんぶ、ぜんぶ、分かっている。・・・でも、どうしても、苦しくなってしまうのだ。

「”普通のわたし”じゃダメなの？」と。

特別はまぶしい。そんなこと分かっている。自由なことやって、好きなように生きて。どうしたってうらやましいし、みんな特別になりたいのだ。
きっとこの呪いは、一生消えないんだと思う。

分かっているからこそ、わたしは”普通を見逃さない人”でありたいと思う。

”特別の呪い”を捨てられない普通の自分を、となりのサラリーマンを、運転手さんを、そうじのおばちゃんを。わたしを生かしてくれている”普通”をちゃんと目に焼き付けて、感謝できる人でありたいと思う。

今、もしかしたら読んでくれているかもしれないあなただってそうだ。

ちゃんと朝起きて、メイクして、満員電車に揺られて、行きたくもない会社に行って、なんとか仕事を終えて、ささやかなごほうびにビールを飲んで・・。どうしようもないくらいめんどくさい日々を、ちゃんと生きている。もうそれだけで充分で、愛すべき存在だ。だれもそんなあなたをバカにする権利なんてないし、自分で自分を見下してほしくない。

ただの一般人が何言ってんだって感じかもしれない。フォロワー10万人になってから出直してこい！って自分でも思ってる。でも、どうしても伝えたかった。こんな社会の歯車の一部でしかない、普通でしかない自分と、そしてあなたのために。

みんな、普通に生きてて、ほんとうにすごい。

となりのサラリーマンも、電車の運転手さんも、そうじのおばちゃんも、両親も、そして、いま読んでくれているあなたも。わたしは心から尊敬していて、そして愛している。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。