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#5 【コラム】ムーンクラブ~人類は月に行ってもシャンクする~

 みなさんは人類が地球だけでなく、月でもゴルフをしたことをご存知でしょうか。USGAゴルフミュージアム¹には、月で使用されたゴルフクラブが展示されています。

提供 USGA Golf Museum & Library 360 Tour


 このクラブは、ジャック・ハーデン(ヒューストンのリバー・オークスCC所属プロ)によって製作されました。ヘッドはウィルソン・スタッフのダイナパワー6番アイアンを使用、シャフトは月の岩石サンプルをすくい上げるために設計された折りたたみ式の道具を転用して造られました。

 アメリカのアポロ計画では1961年から1972年にかけて、6回の有人月面着陸に成功し、合計12人(全てアメリカ人宇宙飛行士)が月に到達しました。このゴルフクラブを持って月に向かったのは、3回目のアポロ14号の船長アラン・シェパード(1923-1998)です。彼は1971年2月6日、47歳のときに月面で2つのゴルフボール(注1)を打ち、地球以外でゴルフをした最初の人物になりました。

 しかし、第1打はシャンク!・・・第2打は、シェパード自身が「マイル、マイル、マイル!(何マイルも何マイルも 飛んだ!の意)」と叫びましたが(YouTube参照)、実際にどれくらい飛んだのか確かめようがありませんでした。

 ところが、映像解析のスペシャリストであるアンディ・サンダースが、高解像度スキャンと最新の画像補正技術を駆使し、当時のフィルムから月面に残された球の位置、スタンスの跡、ショットの際のディボット跡など、細かい部分まで特定することに成功しました。さらに2009年に打ち上げられた月探査機ルナー・リコネッサンス・オービター(LRO)が撮影した画像から既知のスケールを使用し、「球」と「ディボット跡」間の距離を測定することでムーンショットの飛距離が判明したのです。

 結果は、1打目が24ヤード、2打目が40ヤードでした(写真参照)。サンダースは、「距離が短いとはいえ、これは驚くべき偉業である」²と言いました。なぜなら、月は巨大な岩だらけのバンカーで、宇宙服を着た宇宙飛行士は極端に動きを制限されるからです。ヘルメットで足下の球さえ見えないような状態でスイングをしたのですから、そりゃあ、シャンクの1つも出ようというものです。

シェパードのゴルフボール、生命維持バックパック(左)テレビカメラ
(写真提供 NASA/JSC/ASU/Andy Saunders)
2011年にLROが撮影したクローズアップ画像
(写真提供 NASA/GSFC/ASU/Andy Saunders)


 さいごに…今年(2024年)に入って、1月には日本(JAXA)が、2月はアメリカの民間宇宙開発企業(インテュイティブ・マシンズ)による月面無人探査機の月面着陸が相次いで成功しました。現在、アメリカが中心となって進めている国際月探査プロジェクト「アルテミス計画」³には日本も参加しており、今後日本人が月面に降り立つことも考えられます。次は誰がムーンショットにチェレンジしてくれるのか、今から楽しみでなりません。シャンクが出ないように、みんなで祈りましょう!

(注1)シェパードは、月面でのゴルフショットが商業的に利用されることを防ぐため、ボールのメーカーを公表しませんでした。しかし、「そのうちの少なくとも1球はスポルディングだった」⁴ことがわかり、同社は宇宙で使われた最初のゴルフボールを記念して1971年に記念ボール⁵を製作しました。


(追記)NASA video 「Alan Shepard Hits A Golf Ball on the Moon」では、ムーンショットの映像を観ることができます。


参考文献・参考URL
1)USGA Golf Museum & Library 360 Tour (matterport.com)
2)The Mystery Behind Alan Shepard's 'Moon Shot' Revealed (usga.org) 2021.2.5
3)月から「地球見」する日—アルテミス計画って?日本の役割は?|三菱電機 DSPACE (mitsubishielectric.co.jp) 林公代 2019.10.15
4)Golf Ball B 181 – The Golf Museum at James River Country Club (jamesrivergolfmuseum.com)
5)【スポルディング公式】SPALDING HISTORY

From the Vault: The Moon Club (usga.org) 2020.8.17
Golfing The Moon | Sports History Weekly 2023.8.8

・国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構「小型月着陸実証機(SLIM)、超小型月面探査ローバ(LEV-1)、及び 変形型月面ロボット(LEV-2)の月面着陸結果について」2024.2.26 
20240226-mxt_uchukai01-000034190_1.pdf (mext.go.jp)
JAXAの月面無人探査機SLIM、極寒の夜耐え再起動 データ受信 - 日本経済新聞 (nikkei.com) 2024.2.26

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