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第二景 写真の話

みなさんはどんな時に、どんなものを、写真に収めておきたいと思うだろうか?好きな人の顔、家族の顔、珍しい食べ物、風景、鉄道、海、車など色々考えるとキリが無いし、無限に考えられるだろう。

そんな中で僕が写真を撮る時の話をしたいと思う。それはクラフトビールを飲んだ時である。クラフトビールを好きになった経緯も話したいがここではひとまずスルーする。とても長くなる。それこそ書き出したらキリが無い。

まずここで僕が以前撮った写真を見ていただこう。家の中にろくな背景がなく手に持ったままで撮影した。

これはiphoneで撮ったものだ。結構きれいに見える。そして素人臭く見えると思うが、昨日までこれで満足していたのだ。他のSNSでこのような写真をよくUPしている。自分が飲んだ珍しいビールを見せびらかしたい一心からだ。

ここでふと思い出した。写真の撮り方について、怒られた事を思い出した。昔付き合っていた彼女からだ。僕はとてもせっかちで、それに加えてとても恥ずかしがり屋な性格だ。余談だ。

一緒に山に登った。炎天下の中、急な道、ゴロゴロした石の道、ぬかるんだ泥の道を越え、やっとの思いで頂上にたどり着いた。そこでの景色は登っている時の辛さを忘れさせるくらいの素晴らしい景色だった。

そんな辛い思いをして、とても綺麗な景色に出会ったとするなら、する事があると思う。なんだろうか?100人に79人くらいはそう答えると思うし、世間のスタンダードだと思う。それは記念撮影だ。

当然のごとく彼女は、登った証明であるその山の標識の前で写真を撮りたいと言い出した。特に断る理由もないのでiphoneを構え、彼女を標識の前に立たせた。

色々なポーズをとり、そのたびにシャッターボタンを押す。カシャ!カシャ!カシャ!素早くシャッターボタンを押す機械と化す。十数枚撮っただろうか、今度は一緒に撮りたいと言い出した。

僕は内心困った。ここは人気の山だ。僕の後ろには、まだかまだかと写真を撮りたくてうずうずしている人たちがいるのだ。その人たちの気持ちを考えるとここは切り上げたい気持ちで一杯になっていた。

そこで僕はどう行動したか。あろうことか彼女の提案を断り、後ろの人たちに撮影権を渡したのだ。僕の後ろの人だかりが見えていたはずなので、彼女は不満げであったが、仕方ないという表情を見せた。

そのあと無事に下山し、ふもとにある牧場で有名なソフトクリームを食べた。僕は暑さと疲労で体調が急変し、頭痛と吐き気、そして腹痛に見舞われた。高山病のような症状で文字通りとても辛かった記憶がある。

道中は覚えていないが、帰宅した後の出来事である。記念撮影をした写真を見返していた時だった。彼女が突然怒りだしたのだ。なぜそんなに怒っているのか理由を尋ねた。

彼女の言い分はこうだ。「撮ってくれた写真はぶれているし、わたしが全然かわいく撮れてないじゃない!」ここで僕はハッとした。思えば後ろに群がる人たちを気にして、適当にボタンを押し、彼女がかわいく見えるタイミングを逃していたのだ。彼女がポーズを取っているのを見られるのが恥ずかしかったのだ。

後悔はしたが、その当時は特に気にする事もなく、写真にきれいに写らなくてもどうって事はないだろうと思っていた。自分の記憶に残ってさえいれば、人にどう見られようと知った事ではない。あくまでも主観である。僕からすれば、いつでも彼女は可愛いのだ。

でも衝撃的なこと起きた。これを見て欲しい。背景をよく見て欲しい。

撮影シートと出会ってしまったのだ。これならグラスに注いで、ボトルと一緒に撮影できる。この出会いで僕の写真観は一変した。この臨場感、泡立ち、濁り。このビールを説明する上で大切なものが揃ってしまったのだ。

今では分かる。彼女の気持ちが。一番かわいく写りたいその気持ちが。謝りたい。かわいく撮れなくてごめんと素直に謝りたい。この撮影シートを使い、よく見える角度、明るさを追求していきたいとさえ思う。ひとは変わることが出来るのだ。

ちなみにこのクラフトビールは、界隈ではとても有名な醸造所が作る入手困難なビールだ。秒で売り切れる。へへ、いいだろう。少し自慢しておく。

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