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第九十二景

あれは確か、伊香保旅行に行ったときのことだろうか。石段を登って、その奥の神社の更に先の赤い橋を覚えているからきっとそうだと思う。石段の途中のお土産屋さんで名物なのか分からないが、餃子まんを半分こに割ってふたりで食べた。赤い橋を見た帰りには、酒屋に寄って、(当時は地ビールと言っていた)クラフトビールを買って宿に戻った。温泉は屋上にあり展望が良かった。ツレはピアスを無くしたと言って、半べそをかいていたので、ふたりで探したのを覚えている。通った階段や通路をくまなく探したけど、見つらなかった。結局、浴場まで戻ってみたらそこにあって、ほっとした。機嫌がよくなってくれて本当によかった。

旅館のご飯はついつい食べ過ぎてしまう。そのときも、ご飯のおひつを2回おかわりした。その前の旅行でもそれくらい食べたので、食べられるかと思ったが、その時はきつくて、なんとかご飯は食べたけど、ビールを捨ててしまった。ビールよ、済まなかった。当時も断腸の思いで捨てたと思うが、ここでも懺悔しておこう。うーうーうなって横になっていると、ちょっとは良くなってきて調子を取り戻したと思うのだけど、その日のそれ以降の記憶がない。

次の日は、観光地に寄りながら下道で帰った。と言いながらも特に行きたいところは無かったので、適当に調べると、ロックハート城というものがヒットし、気になったので行くことになった。駐車場に着くと、6割くらい埋まっていてそんなに人はいないのかなとも思ったけど、店が並ぶ階段通りは結構繁盛していた。

階段を登りきると、立派な城が見えた。中にも入れるようだったので、ソファーの置いてある部屋で、それっぽいポーズをしてカメラに収めたりしていた。ドレスを着ることが出来るみたいで、雰囲気のある城をバックに写真を撮っているカップルなどもいたが、僕たちは興味が全くといっていいほどなかった。カップルはなんとなく分かったが、よく分からなかったのが小汚いおっさんのカメラマンとコスプレをした女の子のペアだ。何かの契約を交わしているのだろうか?とか愛人なのだろうか?とかふたりでささやき合ったりした。それも何組もいたので、そういうスポットだったのかもしれない。未だに気になっていることのひとつだ。

そのほかには薄暗い建物に展示された古いドレスを見たり、石の飾られたミュージアムを見たりしたけど、庭にいたアヒルに一番興味を惹かれた。

乾いた冷たい風の吹く、よく晴れた日だった。風で枯れ葉が舞っていた。この思い出も、忘れないうちにここに置いておこうと思う。

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