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第二十九景 支配される話

普段寝る時間より早く寝たような気がする。そういう時は大体、夜中に数回は目が覚める。

今回は、寝返りを打った拍子にインナーが捲れて腹が出て寒かったり、窓の外から聞こえる雨の強い音や風の吹く音で目が覚めた。

そのたびにTwitterをスクロールして、表示されないツイートが無くなるようにしている。Twitterに支配されている。ライトのせいで目が冴えてしまってしばらく寝付けないこともある。

昨日の夜は翌日は何をして過ごそうか考えながら寝たような記憶がある。「風の谷のナウシカ」の最終巻を読もうと思っては、読み終えた後にナウシカの世界から退場させられる虚無感のことを考えては却下し、又吉直樹原作の「劇場」という映画を再視聴しようと思っては、どこかで見たことのある既視感を味わうことは億劫だと却下する。

かといって最近買った「桃鉄」をしようかと考えても、やり終わった後に訪れる時間を無駄にしたあの感じに苛まれることを恐れては、あーでもないこーでもないと、その先のことを考えてなにも出来ないなあと思っている内に眠りについたようだ。

時間を何かと等価交換して生きている感覚が身についてしまっているのはよくない。何かをしたあと、これをしなければ違うことに時間を使えたのにと思ってしまう自分がいる。時間を忘れるほど楽しいと感じることが少なくなってしまったからなのだろうか。時間にも支配されている。

そして夜中に何度か起きたのに、目覚ましの30分ほど前に起きてはまたTwitterを開き、見ていない人のツイートが無くなるように、スクロールさせる。

起きようかと思っても、外は雨だし気分は晴れない。気分だけでも明るくしようとカネコアヤノの「アーケード」の歌詞をつぶやいてみたりする。なにか変わるかなと思い、そのまま起きて朝ごはんを食べることにした。

「劇場」を見て心がおかしくなる理由を考えながら、朝ごはんを食べた。

見てもらうのが一番手っ取り早いのだけど、ざっくり言うと山崎演じる永田と、松岡演じる沙希が付き合う映画だ。

「永田」才能がないと気づきながら、それを認められない演出家。根拠のない自信を持ち、才能がないにも関わらず、才能を認めない世間が悪いと何事にも否定的。上手くいかないことを他責にしがち。自分の力じゃ食べていくことが出来ず、金銭的にも精神的にも沙希に依存し続ける。沙希のことを見下しながらも、自分を分かってくれるのは沙希しかいないと思っている。
「沙希」地方から上京した女優が夢の大学生(作中でのちにフリーターになる)。永田の理解者。稼げない永田を支えるために昼も夜も働き続ける。自分の夢をあきらめることになるが、永田の顔を伺って生きてきたため、永田に依存し、永田が生きがいとなる。次第に自分を騙せなくなり、心がおかしくなり、アルコールに頼りがちになる。

これを初めて見た時、このふたりに昔の自分を重ね合わせてしまった。ふたりの悪いとこどりで、自分の過去の現実を突きつけられている気持ちになって、いてもたってもいられなくなった。

ふたりに感情を支配される。

「悪いのは自分じゃない」「人に嫌われたくないから自分を殺す」「好きな人に依存する」等々、自分で自分の嫌いなところをまざまざと見せつけられる。

今では自分を嫌な人間だと理解して認めて、自分の身の程を知ろうと考えるようにはなった。しかしいつどこで悪い部分が再発するのか分からないという恐怖にも怯えている。

でもこの映画のラストシーンはかなり良い余韻を残してくれる。それを見るためには、始めから見なくてはいけない。見たいなあ、でもなあ、困ったなあ。

色んなものに感情を支配されて困っている。




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