第九十九景
良い事を思いついてしまった。冬は雪がないところへ、山を求めて行く。雪は全然珍しくないし、むしろ見たくもない。雪を拒絶している。でもさっきかまくらを作りたいと思った。小さい頃に父が作ってくれたかまくらの中で、兄妹揃っておもちを食べている写真がある。記憶はない。とりあえずかまくらの作り方を調べてみたが、結構重労働にみえる。腕がパンパンになりそうだ。明日ひとりで作ろうと思っている。雪ならたくさんあるけど、ひとりでも作れるだろうか。その中でビールでも飲めたら、傘を盗まれたことも忘れて最高の気分になりそうだ。傘を盗まれたことを記憶したまま月曜日を迎えるのはきつい。週明けで気分が乗らない上に、傘も無い。傘が無いのだ。これは僕にとって重要な事実だ。ああまた思い出してきて、むしゃくしゃしてきた。かまくらを作ろう。そうすれば、何かが変わるかもしれない。かまくらによって、得られるものはきっと大きい。と思うようにしておかないと気が持たない。
作り方には何種類かあって、まずひとつ。
雪を高く積み上げる。ときに固めながら、叩きながら、適度な高さまで積み上げる。ドーム型の雪山が出来たら、壁を突き抜けないように入口を掘る。雪山の中に入れるスペースが出来たら完成だ。雪の硬さにもよるけど、積み上げてまた中を掘るのが大変そうだ。一見無駄が多そうだ。
次のパターンは買い物かごのようなものに雪を詰め込んで、雪のレンガを作る。それをたくさん作りながら、三匹のこぶたに出てくるレンガ作りの家の要領で、下の方から壁を積み重ねていく。それを適度な高さでアーチ状にして、天井を閉じる。そうすると勝手に、中に空間が出来たかまくらが出来上がる。
どっちのやり方でやろうか迷ったけど、雪のレンガを作るのは大変そうなので、適当に山を作って、それを掘ることにする。この作り方でいこう。
目を瞑ると、かまくらの中に潜んで、手をかじかませて、ビールを啜る僕が浮かんでくる。かまくらとビールと傘。傘。ああまた傘が出てきた。きっと逃れられない。きっと憂鬱だ。
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