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帰省

お盆に札幌の両親のところに帰省した。朝早く7時の都市間長距離バスに乗って、5時間かかる旅になる。バスは3列シートで、一列に3つの座席があり、それぞれ離れていて、カーテンも引け、プライベートな空間が維持できるので、落ち着いた旅ができる。昨夜出発前にダウンロードしておいた韓国ドラマなどをタブレットで観ながら、時折車窓を眺める。ほとんどの区間を山の中の高速道路を走るので、変わり映えのしない景色が続く。コンビニで買ったチップスターをかじり、ペットボトルのコーヒーを飲む。バスは1回、高速道路のパーキングに止まってトイレタイムになったほかは、ずっと走り続けた。
予定時間より早く札幌駅前ターミナルに到着し、父に到着の旨メールする。手稲駅まで迎えに行くと返信があり、札幌駅からJRで手稲駅に行く。
手稲駅の改札口で迎えの両親を探した。杖をついた小柄な老人がいるのをよく見ると父だったので、内心驚く。前回は年の瀬だったから、半年ぶりの帰省になるが、半年ぶりに見る父はあまりに痩せ、小さくなってしまった。父にあいさつして、母と妹は駅近くのショッピングモールで買い物していると聞き、長いエスカレーターを降りて向かう。妹は独身で東京で仕事をしていて、昨日札幌に帰省していた。家族と合流して、父の運転する車は、15分ほど離れた住宅地の実家に走った。
車の中で、父が運転免許証をまた3年更新したという話を聞く。気をつけてね、というほかは特に何も言うことはない。父は80歳を越えており、高齢ドライバーのいろいろな事故のニュースが始終流れる中で、更新するかどうか一番悩んだのは父本人だろう。慎重に運転しているが、左折の際にハンドルを切るのが早いようで、後輪が縁石をこする。左折する3回くらいの間繰り返した。そのことを言おうかどうか悩み、結局言わなかった。
午後1時過ぎに実家に到着し、父はさあ飲むぞと弱々しく張り切った。父と母と私と妹、もともとの家族のメンバーで昼からビールを飲み、買ってきた刺身の盛り合わせを食べる。あらためて弾むような話もなく、私の仕事ぶりや、老齢の猫と留守番している私のパートナーの様子など、近況を話した。
たいして盛り上がったわけではないが、昼の酒は効く。手早く風呂に入り、寝る支度を整え、居間でコーヒーを飲み、夜8時頃には寝む。最近は北海道も夏はひどく蒸し暑い。北海道の住宅には一般的にエアコンはあまり普及していなかったが、最近ではエアコンを取り付ける住宅が増えてきた。しかし、私の実家は未装備だ。2階の使っていない部屋のパイプベッドで横になり、汗だくになって結局よく眠れなかった。
朝5時頃、いくらか涼しい風が、開け放った窓から入り込んでくる中、薄暗い居間でコーヒーを淹れて飲んだ。親はまだそれぞれの部屋で寝んでいる。妹が起き出していろいろ会話した。この家にもエアコンいるかもね、お母さん暑くて結構バテてるみたい、と妹が話し、そうだねエアコンつけようか、と私も話す。6時頃になって両親が起き出し、居間で4人でまた近況など話し、7時過ぎに朝食をとった。
午前中、私はJRで札幌に出向き、紀伊国屋書店でお目当ての本があったので購入した。札幌駅前も歩く。駅直結のデパートに入ると、閉店セールをやっていた。北海道新幹線が函館から札幌まで延伸される計画に基づく、札幌駅前の再開発が始まっているのだ。閉店セールに賑わう多くの人が行き交うデパートの中で、疲れてベンチに腰をおろす。
実家に帰るとまた昼から飲んだ。庭に出てたばこを吸っていると母が来て、お父さんが庭でバーベキューしたいみたいなのよ、と言う。見ると炭と着火剤が庭のテーブルに置いてあった。いや、炭火の肉は遠慮しておく、と言う。父母も歳だが、私と妹も50歳を越える歳なのだ。
夜になって、風呂から上がり、コーヒーを飲んでいると、父がかき氷機を居間に持ってきた。昔買ったもので、プラスチック製だ。父が冷蔵庫の氷を入れて蓋を閉め、上についているハンドルをくるくる回す。ガリガリと氷が砕ける音がして、下に置いた皿にかき氷が溜まっていく。いちごシロップをかけて、練乳までかける。暑い夜に冷たいかき氷が口の中でひんやり溶けた。父と交替して私もハンドルを回した。冷蔵庫の氷がなくなるまで、かき氷機を回し続けた。
翌日は風が吹き、少し暑さも和らいだ。父は、盆と正月と言わずに、三連休とかの時を利用してもっと来なさい、と言い、私はわかったと言った。午後の便のバスに乗る予定で、昼にそうめんを食べて、実家を後にする。また手稲駅まで送ってくれた。また来るから、と言って手を振って出発する。

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