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宅建士試験合格講座 業務上の規制 > 広告開始時期の制限・誇大広告の制限と取引態様の明示・契約における規制

 本章からも毎年1~2問出題されるが内容は難しくなく、常識的な判断で正解を得られる問題が少なからずあります。まず一度過去問を解いてみて、引っかかる問題だけを反復して解けばよいでしょう。


第1節 広告開始時期の制限

 宅建業者としては、宅地や建物はできるだけ早く売りたいです。できれば、未完成のうちからでも売りたいのが本音です。不動産は、半年、1年と売れないこともあるのです。したがって、「できれば設計図ができた段階で売り出したい」と思う業者は少なくないです。
 しかし、買う方としては逆に、できれば実物を見た上で買いたいと思うものです。そこまででなくとも、せめて設計図どおりの物件が出来上がる保証がないと、取引をしたくはありません。そこで、業者が未完成物件についての広告を開始できる時期は、あまり早すぎないように規制がおかれています。

宅建業者は、宅地の造成または建物の建築に関する工事の完成前においては、開発許可、建築確認等の処分があった後でなければ、広告をしてはならない。

 建築確認や許可等の処分があれば、工事者は許可どおりのものしか建てられなくなるので、一般消費者も設計図どおりのものができ上がると信じてよいのです。
 なお、広告開始時期の制限は未完成物件を対象としているので、完成物件であれば適用はありません。
 『開発許可』とは、都市計画区域内で行う一定の宅地造成工事等に知事の許可を要するというものであり(都市計画法29条)、『建築確認』とは、建築行為について、一定の場合に、建築主事の確認が必要となるというものです(建築基準法6条)。

1. 処分には、開発許可、建築確認のほかに、農地法上の権利移動・転用等の許可、宅地造成及び特定盛土等規制法上の宅地造成等に関する工事の許可、風致地区内・都市計画事業地内の建築等の制限についての許可等がある。
2. 「広告開始時期の制限」は、すべての取引の態様について適用される。後述の「契約締結時期の制限」では、「貸借の代理・媒介」については制限の適用がないが、それとは異なることに注意。


第2節 誇大広告の制限と取引態様の明示

■ 1 誇大広告の制限

 虚偽広告や誇大広告は一般消費者を惑わせるものであり、論外であるのはいうまでもありません。宅建業法はこの点についても禁止規定を置いています。

宅建業者は、広告を行うときは、宅地建物の所在・規模・形質、現在又は将来の利用制限・環境・交通その他の利便、代金借賃等の額又は支払方法、代金又は交換差金に関する金銭貸借のあっせんについて、著しく事実に相違する表示又は実際のものより著しく優良・有利と人を誤認させるような表示をしてはならない。

 「著しく」という文言ではあるが、一般人の通常の感覚で「何かがおかしい」という程度の誤認を生ぜしめれば、本条違反になると考えてよいとされます。「著しく」という文言を過大評価してはなりません。

1. おとり広告、すなわち実際には存在しない物件や実際に存在しても取引の対象となり得ない物件、存在するが取引する意思のない物件についての表示は、物件の形状等に虚偽がなくても誇大広告となる。
2. 誇大広告は「広告すること自体が違法」とされ、実際に契約をするといった損害が生じなくても業法違反である。それを信じた者が存在しなくても同様である。
3. 利率について、アド・オン方式(実際の金利よりも半分程度に見える利率の計算方法)のみで記載し、実質金利を記載しないことも違法となる。
4. 不動産の表示に関する公正競争規約(不動産業者の自主規制)が誇大広告か否かの判断基準になることもある。
5. 広告は、テレビ・新聞・チラシ・ダイレクトメール等媒体を問わない。

 

■ 2 取引態様の明示

 宅建業者は、広告をする際には取引の形態を明らかにしなければなりません。取引相手が、地主の直売だと信じていたにもかかわらず、手数料を請求されて不測の損害を被るといった事態を招かないためです。

宅建業者は、取引態様の別を、
① 広告をするとき
② 注文を受けたら遅滞なく
明示しなければならない。

明示の方法は口頭でもよいが、広告に明示したとしても、注文を受けたときに明示しないと本条違反となる。たとえ、相手が取引態様を知っていても明示しなければならないのである。


第3節 契約における規制

 ここでは、契約に関連して、宅建業法が禁止している事項をまとめて述べます。

■ 1 契約時の制限・義務等

(1) 契約締結時期の制限
 
前節「広告時期の制限」とも関連するが、宅建業者としては、未完成物件でも広告はおろか、契約までも締結してしまいたいのが本音です。これに対して、一般消費者としては、契約した物と完成した物とが同じであることが保証されなければならず、それがない段階では契約したくありません。この両者の利益調整として、以下の規定があります。

宅建業者は、宅地の造成又は建物の建築に関する工事の完了前においては、開発許可、建築確認等の処分があった後でなければ、取引のうち、売買、交換契約を、自ら行い、あるいは代理・媒介してはならない。

 本条は、広告開始時期の制限と異なるところが一つだけあります。「広告開始時期の制限」は、すべての取引の態様について適用されるが、「契約締結時期の制限」は、取引のうち「売買・交換」についてのみ制限されます。「貸借」の代理・媒介については制限されないという点です。
 なぜ貸借の代理・媒介が制限から除かれたのかは明らかではありません。強いていうならば、未完成物件について賃貸借の契約が結ばれたとしても、実際にお金を払うのは完成した後であるから、損害の発生する蓋然性が低いということであろうと考えられます。

(2) 宅建業者の業務処理原則
 宅建業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行わなければなりません。
 宅建業者は業務を適正に実施するために必要な従業者教育を行うよう努めなければなりません。

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