見出し画像

『AI NOW 2019 Report』抄訳 ネットワーク監視社会の官民連携について

内容を3行で
・AIインフラの活用については、公共セクターと企業セクターの統合が進んでいる
・北米では官民連携の結果、公共空間だけでなく私有地への監視網も広がっている
・アプリを通じた個人間の監視網が、地域社会に不穏な影響を与えているという指摘もある

人工知能の社会的意義を研究するための機関であるAI NOW、その2019年版報告書の一部を抜粋して訳したものです。

報告書全体のトピックは多岐にわたっており、本稿で扱うものはそのうち、官民連携がもたらす監視社会の高度化について論じた章です。

AIプラットフォーム活用の論点は今や、公共セクターと企業セクターの対立ではなく、両者の協力体制に移りつつあります。
監視技術を持つ企業が利益を求め、監視の目をくまなく広げたい行政の思惑。両者の利害が一致した結果ともいえるプログラムが、今やカナダやアメリカで始まっています。
こうしたプログラムは警察や行政が個人の録画データへスムーズにアクセスできるような仕組みになっているため、犯罪捜査の効率化が期待される一方、監視社会化への兆候であるという意見も出ています。

自分の勉強を兼ねて訳したものなので、誤訳などありましたらご指摘ください。

原文:https://ainowinstitute.org/AI_Now_2019_Report.pdf
以下、訳文

~~~

AIインフラに関する懸念に注目が集まっているが、これについては公共利用と営利活用の二項対立として論じられている場合が多い。ところが両者が分裂しているという論は、ある段階からは一切成り立たないものであった。様々なAI分野にまたがって公共システムと営利システムの大規模な統合が進行中であるという明白な証拠が見られるようになり、今年になって議論の根本が覆される兆候が現れた。

AIと近隣監視

政府とプライベートセクターに属するテクノロジー企業が不健全なパートナーシップを結ぶことは今年になって現れたトレンドであり、公共空間だけでなく私有地や家屋などの私的空間にまで監視を拡大した事例が特に取り沙汰される。

例えば今年の夏、カナダのアルバータ州レッドディアの王立カナダ騎馬警察隊は、「録画された証拠の活用を通じ、コミュニティの助けを借りて行う治安維持」を実現するためのCAPTUREと呼ばれるプログラムを開始した。これは地域の安全を守るという名目のもと、セキュリティカメラ設備を有する企業や住民に対し、私有地で撮影された映像を警察に提供するよう求めるという発想だ。11月の時点でプログラムに参加した物件は160に上っており、この時点で町全体がカバーされている。そして警察は、これまで立ち入りに礼状と同意が必要だった場所も監視できるようになった。2016年以降アメリカのデトロイト市で進められているプロジェクトグリーンライトも、その内容はほぼ変わらない。2019年3月の時点でデトロイト市長は「市内におけるリアルタイム情報収集プログラム」を立ち上げることを決定している。その内容は「州と連邦政府から資金提供を受ける900万ドル規模のプロジェクトであり、プロジェクトグリーンライトで企業に設置された500台超の監視カメラに加えてデトロイト市内の交差点500か所に監視カメラを設置するとともに、犯罪の兆候を察知するための顔認識ソフトウェアを活用する」と説明されている。

アマゾンは商用監視技術の新しい潮流を象徴している。アマゾンは2018年、スマートセキュリティデバイス会社のRingを買収した。Ringの主要製品は、ドアの前に立った人の姿を見て通話ができ、録画も可能なカメラ付きドアベルである。これは近隣監視アプリの「Neighbors」と組み合わせることができる。Neighborsは地域で起きた犯罪や安全性に関する問題について、コメントおよび写真や動画などを添えて投稿できるというアプリだ。アマゾンはアメリカ各地にある700の警察署とRingの動画共有パートナーシップを結んでいることが複数の報告書から明らかになっている。このパートナーシップによって警察は、犯罪捜査の際に近隣のRingユーザーから動画の提供を直接要請できるポータルを使えるようになる。アマゾンは割引を通じて警察署へのRing売り込みを行っているだけでなく、警察用ポータルを通じてNeighborsの監視カメラ映像を活用・取得する方法の講習も行っている。デジタルレッドライニングと差別的慣行について研究しているクリス・ギラード教授は「本質的には、アマゾンは警察に対して彼らの仕事のやり方と、Ring製品の宣伝のやり方を教えている」と語る

NeighborsにNextdoorやCitizenといった他のアプリが加わることで、ユーザーは近隣で起きる犯罪をリアルタイムで見、他のユーザーと話し合うことができる。Ring、Nextdoor、そしてCitizenはいずれも、犯罪傾向のある人についてのバイアスを強めているという批判を受けている。Nextdoorの場合は、プラットフォーム上で人種的ステレオタイピングの証拠が多数あることを受け、ソフトウェアと利用規約を変更するまでに至った。アプリを使った監視が不穏な風潮を生み出し、その一方で犯罪が増えていると誤認させることでテクノロジー企業が利益を得ているという意見もある。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?