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「ギブ&ギブ」にとびつくな

しゅんしゅしゅんです。

googleで「ギブ&テイク」そして「ギブ&ギブ」と検索してみてほしい。言葉として昔からあったのは「ギブ&テイク」だ。しかし、検索結果を見ると、「ギブ&テイク」は25万7000件。「ギブ&ギブ」232万件。

なんと、桁が違う。

ここ3年くらいは、自己啓発界隈で幸せに生きるためには「ギブ&ギブ」が大切だ、SNSやネットの世界で成功するためには(フォロワーが増えたり、著名になることを成功と一旦おく)「ギブ&ギブ」のスタンスが大切だの論調ばかりだ。

どの本をよんでも、どの投稿をみても、そうなんだろうと思う。たしかにギブ&ギブの精神で貢献を続けていたら幸せになる気がするし、SNSにおいても有益な情報発信を続けることでフォロワーが増えていくのだと思う。

しかし、この「ギブ」は一筋縄ではいかない。「ギブ」とは何であって何でないかを知らずして「ギブ&ギブ」のスタンスを貫くのは、無理なのではないか。そんなことを感じさせてくれる本が「世界は贈与でできている」だ。

本書では「ギブ≒贈与」と「交換」と「偽善」と「自己犠牲」の違いを鮮やか描く。

誤解をおそれずに簡潔に書くと、「贈与」も「交換」も相手に価値ある何かを与えることではあるが、その違いは見返りを求めるかどうかにある。「贈与」は見返りを求めず、「交換」は等価の見返りを求める。

「交換」は太古の物々交換からはじまり、現代においても「モノ」に見合う「カネ」を支払うことで経済は回っている。ごく当たり前の概念だ。

「贈与」は相手から何かをもらうことを前提とするのではなく、見返りを求めずに相手に何かを与える行為であることから、等価での交換はそこにない。一方は何かを与えて、一方は与えられるだけなので経済的に合理的でない。

この不合理な「贈与」という行為は、合理的な「交換」という行為で成り立っている資本主義経済の中でこそ煌煌と輝くのだ。

まず「贈与」と「交換」の違いをこのように述べる。

ここで疑問にあがってくるのが、見返りを求めずに相手に何かを与える、この聖人君子のような行為など存在するのか。「贈与」は「偽善」ではないかということ。

まさにそうで、「贈与」と「偽善」は紙一重だ。贈与的な行為として社会貢献感のある「ボランティア」と「献血」の例がわかりやすい。

ボランティアは人気があるが、献血は人気がないという。どちらも社会の役に立つ行為であることは間違いないのだが、この人気の違いはなぜ生まれるのだろうか。

それは費用対効果だ。社会貢献活動をしたい根っこにある気持ちは「ありがとう」と言われたい。相手が喜んでいる顔が見たいだ。その気持ちに照らすと、直接的なレスポンスが見られるボランティアはコスパがいいが、献血はコスパが悪いということになる。

ここでふと気づくのは、「ありがとう」と言われたい、相手が喜んでいる顔が見たいは動機としてはすばらしいが、結局これは「交換」なのだということ。

そして、ボランティアをすることで人からよく思われたい、褒められたい、誰かに貢献することで自分が満足したい、という目的が透けて見える行為を、人は「偽善」と感じるのだ。

なるほど、では次の疑問である。何の見返りも求めずに相手に何かを与えることができたとしても、それは「自己犠牲」にならないか。自分を殺して相手に与えてばかりだと疲弊してしまわないか。

これもまた、まさにそうだ。疲弊は「贈与」をいつのまにか「交換」へすりかえる。なぜ私はこんなに頑張って与えているのに、相手には響かないのだろう、報われないのかと。いつのまにか見返りを求めるのだ。

では、「贈与」など存在しないのだろうか。これが最後の疑問となる。

否、存在する。それはいつ存在するのか。その答えは、すでに受け取ったものに対する返礼であれば、それは偽善にも自己犠牲にもならない、である。

「贈与」か「偽善」か「自己犠牲」かは、それ以前に贈与をすでに受け取っているか否か、その事実に気づくか否かによるのだ。

「贈与」は受け取ることなく開始することはできない。贈与は返礼として始まる。贈与は必ずプレヒストリーをもつのだ。

このように、「贈与」に対する考察をふかめていく。

冒頭の「ギブ&ギブ」の話に戻る。「なるほど『ギブ&ギブ』が大切なのか、どんどん与えるぞー!」は決して適切な入り方とは言えなさそうだ。

まずは自分がギブされているのではないか、日常の中の当たり前にひそむ有難さに目をむけ、自分が周りに生かされているのではないかということに気づくこと。すると自然と返礼の気持ちがわきおこる。

これが「ギブ&ギブ」の適切な入口なのだろう。


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