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じぶんだけの色

ぼくの色は緑色だ。
ぼくは、色が変えられないカメレオン。
お父さんもお母さんも色を変えることのできる立派なカメレオン。
なのに、ぼくは色を変えることができない。

時間がたてば、大人に近づけば、自由自在に色を変えることができると思っていた。けれど、歳をとれば取るほど色の数が減っていく。ぼくの色は緑色。決して変化しないぼくの色。じぶんだけの色。

夏のある日、職場に新しいメンバーが入社してきた。
めずらしくカメレオンだ。
そのカノジョは色を自由自在に操ることができた。感情を色で表したり、話す人に合わせて色を変えたり、ときには空気に合わせて色を変えて周りに気づかれないほどだった。とてもおしゃれだった。かのじょはクラスすぐになじんでいく。ぼくはカノジョの色にしっとしながら、カノジョに恋をした。

ぼくはカノジョとデートした。
秋、カノジョはあざやかな茶色になって落ち葉に溶け込んだ。
冬、カノジョはやわらかい白色になって雪に溶け込んだ。
春、カノジョははかないピンク色になって桜に溶け込んだ。
ぼくは幸せだった。色とりどりのカノジョをみていると、自身がカメレオンであることがとてもほこらしかった。

夏、僕たちは海へ行った。カノジョは焼けた真っ白な砂の色になった。
「ねぇ。カメレオン。色を変えてみてよ。」
「え。」
「あなたもできるはずよ。同じカメレオンなのだから。」
「…あの、その、あの。色を変えないといけないのかな?」
「…色を変えたくないの?」
「…分からない。」
ぼくは色を変えようと、砂をみつめた。カノジョをみつめた。
…けれど、色は変わらなかった。
「ごめん。ぼく、飲み物買ってくる。」

海の家でカノジョの好きなサイダーを買うことにした。
カノジョはぼくにとって、とてもかわいくて、魅力的で、そして憧れで。カノジョに少しでも近づきたい。けれど…。色の変えられない僕はなんて情けないのだろう。ぼくはカメレオンなのに色を変えることができない。

「ねぇ。こっちで涼まない?」
カノジョが呼んでいる。カノジョに近づいたら、ぐいっと手から身体ごとひっぱられて、カノジョのペースは早すぎる。心も身体も頑固なぼくにとってはどうにかなってしまいそうだ。
「着いた」
地に足がついて、なんとなく自分が立っている感覚に気づいたとき、目の前にはおおいしげる草の畑が広がっていた。
「これがあなたの色ね。」

ぼくもカノジョも同じ色になった。

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Ver.01

企画
・色を変えないカメレオンが色の変えられるカメレオンに恋をして色を知っていく話
魅力
・季節等環境に合わせて変わる美しい色


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