見出し画像

32年連続、世界で1番の対外純資産国。日本の"円"はなぜ安全資産なのか

新聞やニュースを見ていて、"安全資産の円"、"有事の円買い"といったワードをご覧になったことがある方は多いと思います。

"円"がなぜ安全資産として価値があるのか?

それは日本が32年連続で「世界で1番の対外純資産国(対外債権国)」であるからです。

世界最大の対外純資産だとなぜ円が安全資産になるのか

もう少し詳しく見てみましょう。

"対外純資産"については、「日本人が海外に持っている資産(対外資産)から負債(対外負債)を引いた金額」とイメージしてください。財務省が毎年5月末に発表する「本邦対外資産負債残高」によると、日本はこの"対外純資産"が32年連続で世界1位なのです。

日本の企業や個人は海外にたくさんの資産を持っていて、外国人が日本に持っている資産(対外負債)を大きく上回っています。

対外純資産が多いとなぜ円が安全とみなされるのか。

"有事"の極端な例

簡単のため"有事"が起きた場合の極端な例をあげてみます。

・有事の際に現金を確保する流れが発生
・日本勢:全ての対外資産を売却
・海外勢:全ての日本の資産(日本からみた対外負債)を売却

日本勢、海外勢ともに株や債券などから手を引き、ここでは会社や不動産、工場も全て現金化できて、最終的に全ての現金を手元に置くと仮定します。

売却した資産は現金になりましたが、他国通貨ですから下記のように通貨の売買が発生します。

日本勢:ドルやユーロなど他国通貨を売り、円を買う
海外勢:円を売り、ドルやユーロを買う

この時、日本は対外負債を上回る対外資産を持っていることを思い出しましょう。つまり、日本勢が海外で持っている他国通貨の方が、海外勢が持っている日本円よりも多いのです。

結果、ドルやユーロを売り、円を買いたい需要が高いので、円高になる。

かなり極端な例ですが、対外純資産が多いことで、上記のように日本円の需要が有事の際に安定すること、最悪のケースを見積もっても大暴落の可能性が少ないことがイメージして頂けましたでしょうか。

対外純資産が日本と同様に多い国々もありますが、これが32年連続で1位となっているため、より「安全資産としての円」とみなされているわけです。

これらが円が安全資産として価値がある理由の1つとなっています。

もう一度、冒頭から全体をおさらいしておきましょう。

Q."円"がなぜ安全資産として価値があるのか?
A.日本が32年連続で「世界で1番の対外純資産国(対外債権国)」であり続けているからです。

Q.日本が世界で1番の対外純資産だと、なぜ円が安全資産になるのか?
A.日本が海外に持っている資産が、外国勢が日本に持っている資産よりも多く、有事の際に外貨を売り円を買う需要が見込めるからです。
 さらにはその純資産が32年連続で世界で1番多い国で安定している点も見逃せません。

ここからは対外純資産について、さらに深掘りしたい方向けの内容になります。

お時間のない方は「あとで読む」系サービスに入れて頂くか、「スキ」や「フォロー」して頂けると嬉しいです!

対外純資産が多い = 良いこととは限らない 

ここまで対外純資産が多いことは安全資産として円が認められているというプラスな側面を見てきましたが、必ずしも良いこととは限らないのです。

なぜ対外純資産が多くても良いこととは限らないのか

それは、対外純資産が増えているということは、

・日本の企業や個人の投資が国内よりも海外へ向いている
・海外の企業や個人の日本へ投資が少ない

ことの裏返しでもあるからです。

そのため、日本が海外でたくさんの資産を持っていても手放しに喜んでいいのか、という議論があります。

対外純資産の内訳変化による、円の立場

もう1点、安全資産としての円を理解する上で重要な変化にも言及しておかなければなりません。

それは対外純資産の内訳の変化によって、安全資産としての円の立場にも影響が出ている点です。

対外純資産は3つに分けられる

対外純資産は大きく3つ、「直接投資」「証券投資」「外貨準備」に分けられています。

証券投資はイメージしやすく、いわゆる株や債券への投資のこと、外貨準備はそのまま。少しわかりにくい直接投資は海外に工場を設立したり、合併や買収を通じた投資のことです。

このうち、証券投資と直接投資が対外純資産に占める割合が過去20年で多く変化しているのです。

2003年
・証券投資:52.9%
・直接投資:15.2%

2022年
・証券投資:17.4%
・直接投資:54.6%
参考:財務省HP 統計表一覧

20年でほぼ逆転しています。

圧倒的に多かった証券投資を直接投資が追い抜き、今や対外純資産の半数以上を直接投資が占めています

直接投資した資産は証券投資ほど簡単に売れない

"有事の極端な例"では、日本勢が海外で保有している資産を全て売り、現金化すると仮定して説明しました。

日本の個人投資家が米国株をたくさん持っていて、米国で銀行不安によるパニックが起きた際に、米国株の大半を手放し日本円へ換金する流れはイメージがしやすいでしょう。

しかし、戦争が起きそうな地域に向上を持つ日本企業が、「ヤバそうだから向上を現金にして日本に持ち帰ろう」と思っても、そう簡単にはいきません。

この2つの例は対外純資産のうち、1つ目が「証券投資」、2つ目が「直接投資」の資産についての例です。

対外純資産の半数以上を直接投資が占める円への見方

これを踏まえて、過去20年で対外純資産のうち直接投資が占める割合が増えたことによる、円に対しての見方を想像してみましょう。

日本が32年連続で世界最大の対外純資産国だとしても、内訳の変化によって少し円への信頼性が薄れる気がしませんか?

円が盲目的に安全資産として認識され続けるという保証はなく、様々な要因によって変化していることがわかるかと思います。

この変化については、みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストである唐鎌大輔さんがBusiness Insiderに寄稿された下記の記事にグラフがたくさん掲載されていますので、興味のある方はご覧ください。

記事リンク:日本は32年連続「世界最大の対外純資産国」を維持。海外から「戻ってこない円」の増加が気になるが…

おわりに

今回は「なぜ日本の"円"は安全資産なのか?」という疑問から、対外純資産について、対外純資産の内訳の変化、それに伴う円への影響について触れてきました。

少し長い記事ですが、できるだけ読んでいて詰まらないよう、最大限工夫をして執筆してみました。

noteに本気で取り組み始めたばかりのため、まだ画像や表など、ビジュアルを追加できていませんが、今後、少しずつテンプレートを作って全ての記事に反映していく予定です。

このマガジンでは今回の記事のような、自分で「調べるのは面倒」だけど、「眺めるだけで知識が身につく」記事を目指して執筆しています。

ぜひフォローして頂けると嬉しいです。

コメントで感想やご指摘なども頂けると嬉しいです。

それではまた!

専門用語「本邦対外資産負債残高」のwiki解説:https://goemon-biz.com/wikis/international-investment-position-of-japan/

サポートを頂くことがありましたら、主に投資資金としてありがたく頂戴しますm(_ _)m