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香川 隆登/GOCKO
2021年3月27日 00:52
『贖罪とは』そもそもジャン・ヴァルジャンの犯した罪はたった一片のパンを盗んだことに過ぎなかった。何度も脱獄を繰り返したとはいえ、市長になり、町を復興させ、自らの罪を告白した時点で、その罪は十分過ぎるほどに贖われているのではないか。しかし、彼は再び脱獄をする。一人の女の子を助ける為に、そして、自分自身を助ける為に。脱獄は罪だが、彼は罪を償う為に脱獄をした。何故なら彼の贖罪はもはや法を超え
2021年3月20日 01:48
『悩ましい快感以上恋未満』私は知っている。男なら誰もが己の意思とは関係なくふとした折に女に悩ましい快感を抱く事があることを。そんな、男なら誰もが知っているこの秘密の事情を、志賀直哉は繊細に、かつ鮮やかに描き出す。それだけでは無い。寝る前の挨拶だけだとちょっと物足りないからと、わざわざ滝にペンを取りに行かせたり、毛布を掛けてもらったりする。この脈がないわけでも無さそうな女に対する下卑た下心を、隠
2021年3月13日 20:01
生きることにおいて"友人"とは一体どういう存在であるのか、そして、私の元に現れやがて去っていった(或いは私が去った)数々の友人達のことを思いながら本作を読んだ。冒頭、鴎外とF君の出会いの描写では森鴎外という人間の、人を見る視線が緻密に描かれている。よく巷では"人は第一印象で八割決まる"などという文言が耳にされるが、ここでの鴎外は冷静だ。突然現れたF君を一旦は狂人呼ばわりするものの、F君のドイツ
2021年3月6日 00:25
本作『鼻』は顎の下までぶら下がった自身の鼻をコンプレックスとする坊主の話だ。(引用始め)長さは五六寸あって、上唇の上から顎の下まで下っている。形は元も先も同じ様に太い。伝わば、細長い腸詰めのような物が、ぶらりと顔の真ん中からぶら下がっているのである。(引用終わり)p.20顔にイチモツつけとるやないかい、と真っ先に思ったが、なんでもファルスに解釈するのはいかんいかんと思いつつもネット