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20代へのメンタリング──“飲み会苦手、欲もない”若者にどう寄り添うか

GOB Incubation Partners(以下、GOB)は2018年12月4日に「20代の若手を育てるメンターのあり方」と題してイベントを開催しました。登壇者は、学生向けのスキル研修を提供するTRUNK代表取締役CEOの西元涼(にしもと・りょう)さんとGOB共同代表の櫻井亮(さくらい・りょう)です。

*プロフィールや記事内容は掲載時点でのものです。

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動けない学生には、3回繰り返し説明する

現在、西元さんは関西学院大学で授業も担当しています。実際に学生と触れる中で感じることがあると言います。

西元 今の学生の多くは学び方がわからないし、それを調べない。でも、調べ方と、詰まった時の対処を3回くらい繰り返し説明すると、その後は自走してくれる子が多い印象です。

若いから、学生の検索リテラシーが高いように思うかもしれませんが、意外にそんなことはない。ただし、学び方さえわかれば新しいツールを使うことに対してのネガティブイメージは全くないので、すぐに取り入れることができます。

ですから、How toを伝えて、その後は学生の自走状態を見ながら、ティーチング(教える)とコーチング(考えてもらう)のバランスを見てメンタリングしていくのがよいと思います。最初からコーチングをしようとすると「学生ってなにもやらないじゃん」で終わってしまいがちです。

実は最近、文系でウェブのエンジニア職に就く学生が増えています。エンジニアの世界はオープンソースで、わからないことも検索したら出てくる。つまり「つまずいたら調べる」を繰り返すことで成長できる世界です。今の学生が、使い方さえ覚えてしまえばツールを使いこなす能力が高いことを示す例の一つだと感じています。

「飲みニュケーション」は本当に必要なのか

24、5歳の頃からメンターとして現場をみている櫻井は「年を追うごとに、年齢や肩書きなど、若者との距離がどんどん離れているのを感じる」と話します。

櫻井 私はいま40代ですが、私と同世代や上の世代は若者とコミュニケーションを取ろうとする時に、とかく飲みに誘いがちです。僕自身、いわゆる「飲みニュケーション」のメリットは少なからず感じていますが、一方で当の若者たちは飲みに行く機会を欲していないことが結構あります。飲みというのはその時々の文脈によるので、気をつけなければならないソリューションです。

業務でもなくプライベートでもない、セミパブリックな感じを若者が苦手にしている気がするんです。飲み会でもごく少人数か、完全にプライベートでランチに誘う、などの方が非日常業務の空間としてのコミュニケーションとして有効だと感じることも多くなりました。

欲がある世代、欲を隠す世代、そして欲のない世代

櫻井 今の50代の人たちはわかりやすく欲が表面化しています。良い車、イケメンの彼や美人の彼女、豪華なシャンパンでバカ騒ぎを求めていた。私を含め30〜40代は、欲はあるけど隠していたり抑圧されていたりする世代です。欲を刺激されると奥底から出てくるんだけど、それを普段、思いっきり前面に出すのを格好悪いと考えていたりします。

しかし20代は「欲そのものを持っていない、あるいは非常に小さい」世代だと感じます。足るを知っている。ある意味で、悟っている。ですから、メンタリングする時にも私はどうやってその人の欲望を引き出そうかを考えますが、実は欲望そのものが無いんですよね。

でも、事業というものはセクシーでワイルドでなくてはいけない。人を魅了できないといけない。その点で俗物的な性質のものでもあります。そこに無欲な人が入ってきた時、どうやって巻き込んでいくか、というのは非常に難しい問題です。

西元さんの話に、いまの学生はわからないことを調べないという話がありましたが、「欲がないから調べても調べなくてもオッケー」ということなのかもしれません。その点で、3回言ってあげるというのは素晴らしいソリューションです。3回言うと、調べた方が良いんだと理解してくれるのでしょう。

そこまで寄り添う必要があるのかと思う人もいるかもしれないけど、これは全体としてのトレンドですから、トレンドに寄り添って彼らが何をしたいかを考えることは大切だと思います。

模索する新たなメンタリングのカタチ

櫻井 先ほども話したように、事業を成功させるためには厳しさは必要。同時に、チャレンジャーの良さを引き出すために多少ダメな部分に目をつむる必要性もあります。それを自分1人でやろうとするとなかなか切り分けるのが難しいので、チームでメンタリング体制を整えるという方法を模索しています。

コーチとしてチャレンジャーに寄り添う人を決めて、事業へアドバイスをするなどの他のメンターはピンポイントで入ります。マインドの話も、1対1でやらずに、あくまでも全体の話としてチーム内で話すことでやんわり提示をしていく。実験中ですが、効果は出始めており今後社内でも体系化していきたいと思っています。

西元 うちも最近、新しい試みをしています。ある人に教えてもらったんですけど、出身や居住地が同じ人同士だと話が弾みやすいっていうデータがあるんです。TRUNKでもチームを作る場合には同郷出身者同士で組んでもらうなどの工夫をしています。

櫻井 それは本当に効果的だと思います。僕も特に大企業など固い場でワークショップをする際には「浜松出身」と入れるようにしています。すると浜松出身の人がいれば、休憩中に必ず話しかけてきてくれるんですよ。そこで一気に関係がフラットになりますね。

登壇者プロフィール

TRUNK代表取締役CEO 西元涼氏

鹿児島県出身。横浜国立大学卒業後、新卒でDeloitteグループ入社し、人事コンサルティング業務に従事。入社2年目で、新人MVPと全社MVPを同時獲得。その後、メンバーのマネジメントに従事し2年連続でチームを目標達成に導く。4年目からは新規事業開発の部署と兼務で採用業務にも従事。

採用業務を担当時に気付いた企業側の「スキルや実績ベースでの新卒採用がやりにくい」という課題と、自分自身の学生生活で感じた「実際にやってみなきゃ、やりたい仕事なんてわからない」課題を解決すべく、2015年7月1日にTRUNK株式会社を設立。

TRUNKは「生まれた環境に関係なく、やる気次第で誰でも活躍できる世界を創る」をビジョンに、企業から月額定額制で料金をいただき、学生にはプログラミングやマーケティング等の専門スキルがを現場のプロから少人数のリアル研修形式で無料で学べる機会を提供している。

GOB-IP共同代表 櫻井亮氏

日本ヒューレッド・パッカード、企業支援等を経て、2007年よりNTTデータ経営研究所にてマネージャー兼デザイン・コンサルティングチームリーダーを務める。

2013年より世界11カ国に15のオフィスを持つ北欧系ストラテジックデザインファームであるDesignitの日本拠点、Designit Tokyo株式会社を立ち上げ、代表取締役社長に就任。新規ビジョン策定・情報戦略の企画コーディネート、ワークショップのファシリテーション、デザイン思考アプローチによるイノベーションワークなどを行う。

その後共同代表である山口と共にGOB-IPを立ち上げ。イントレプレナーとアントレプレナーの両方の経験を活かし起業家支援に携わる。現在もシリアルアントレプレナーとして様々なチャレンジを実践中。

主な著書:「ITプロフェッショナルは社会価値イノベーションを巻き起こせ」「RFPでシステム構築を成功に導く本- ITベンダーの賢い選び方見切り方」など。