「メンターは立体的」──メンタリングにおけるモードの使い分け
GOB Incubation Partners(以下、GOB)は2018年12月4日に「20代の若手を育てるメンターのあり方」と題してイベントを開催しました。登壇者は、学生向けのスキル研修を提供するTRUNK代表取締役CEOの西元涼(にしもと・りょう)さんとGOB共同代表の櫻井亮(さくらい・りょう)です。
TRUNKのサービス──全12職種のトレーニングを学生に無料で提供
TRUNK(トランク)では、学生向けにスキル研修等を提供しています。代表の西元さんが、サービス立ち上げの背景を話します。
西元 学生が企業に入社してからのミスマッチ率は31%とも言われます。この課題を解消したくてTRUNKを起業しました。新卒採用を考える企業からのスポンサードで、大学生に全12職種の職業体験やスキル研修を全て無料で提供しています。
学生のステージに合わせていくつかのコースを用意しており、入り口の「入門コース」は主に大学1〜2年生を対象にしたものです。
大学3〜4年生からスキルを磨こうとしても、半年や1年で身につく能力はたかが知れています。企業も2〜3年経験を積んだ学生を採用したいと考えていますから、TRUNKでは1、2年生へのサービス提供に力を入れています。
西元 職業体験としての「入門トレーニング」の後は、「TRUNK BASE」というプログラムで職業訓練を行います。これは学生を企業の長期インターンに送り出す上でのスキルギャップを埋めるWeb+リアルの仕組みです。
また、企業主催のリアルイベント「実践トレーニング」では身に付けたスキルのチェックができます。これまで3年半で1400回以上開催しました。
あえて、モチベーターにはならない
西元 入門コースで最も大切にしているのは、学生に「仕事が楽しい」と感じてもらうことですね。これがゴール。まず仕事が面白いと感じてもらえなければ、それから先の勉強が続かなくなってしまいますから。
同時に、もう1つ大切にしているのが、こちら側から積極的に学生のモチベーションアップを図らないこと。上と矛盾するようですが、メンタル面でのフォローは可能な限り控えています。つまずくたびにメンタルサポートをし過ぎてしまうと、企業入社後に、メンターなしではモチベーションを保てなくなってしまうので。
櫻井 はたして、我々メンターが寄り添ってメンタル的な価値が出せるかという問題もありますね。カウンセリング的なメンタリングはできるけど、カウンセラーではない。要素はあるけどプロではないですからね。
西元 そうですね。メンタル面とスキル面のフォローは切り分けています。だからこそ、スキル面のフォローの中で「楽しさ」を感じてもらう仕掛けは大切にしています。
例えば、この職が誰のどんな課題にどう役立っているのかといった全体像を説明することもその1つです。日本では、大学生になるまで仕事に触れずに育っている場合がほとんどですから、まずは「自分の仕事が誰かの役に立っている」ということを講師の業務経験とともに伝えるようにしています。
また、「何かをつくる」経験を全職種のプログラムに組み込むというのも意識していますね。ペライチの資料でも何でも良いので、目に見える形に残して、フィードバックをもらうことが楽しさにつながります。
櫻井 具体的なアウトプットを見せるというのはメンタリングにも通じます。
例えばスポーツは、練習試合があって、本番として地区大会や県大会、全国、世界と1本の道が見えています。だけど、ビジネスってスポーツと違って、“晴れの舞台”を作りにくい。だからメンタリングの中で、「ここまでにこれをしよう」「このコンテストに出よう」などとアクセントをつけていくことが重要になります。
メンターは“立体的”であるがゆえに難しい
続いて、GOB共同代表の櫻井がメンタリング論を語ります。GOBは「カイシャを作る」会社として、特に若者を主体とした、経済価値と社会価値を両立する事業体を10年で100社輩出することを目標に掲げて、現在5年目に入っています。
櫻井 メンターという言葉は立体的だと解釈しています。先ほど西元さんからティーチングとコーチングの話がありましが、それはどちらもメンタリングという言葉の中に包含されていて、そこにメンターの難しさがある。
例えば部活で監督が生徒にゲキを飛ばしている時、監督に同調するコーチもいれば、選手側に立ってケアをするコーチもいる。つまり、コーチがどういう立場をとるかはその人によってさまざまです。選手側に寄り添うコーチの場合、得意な部分は伸びるように工夫をして、苦手な部分は痛みを共有するような優しさがないとうまくはいきません。
一方で事業にアドバイスをする場合、ある目標のレベルがあって、メンターもそこへ到達するための答えのようなものをある程度持っている。そうなると、前述のようなコーチとしての寄り添い方ではなくて、チャレンジャーを引き上げていくための厳しさも必要になります。
顔が変わるからこそ、変わらない信頼関係が必要
櫻井 メンターはその時々で役割が変わるので、どの顔でチャレンジャーと接するのかに苦しみます。チャレンジャーの側も「あ、今日のメンターはこのモードの日だ」って器用にわかればいいけど、お互いそんなに明確にスイッチを切り替えられるわけじゃないし、そうやって混乱すると「メンターの考えていることがわからない」という問題が出てくるわけです。優しさと厳しさの提示を同じ人間がするのはとても難しいことです。
だからこそ、ベースにあるのは信頼関係。どの顔で接していても、チャレンジャー側がこの人の話を聞いていたいと思えるかどうかがポイントだと思います。
よいメンターの条件は? 成功体験は必要、でも成功パターンを押し付けない
櫻井 最近、社内のランチ会で「この1週間でどんな失敗をしたか」をシェアしていますが、これは非常に効果的です。
メンターが自分の成功体験をだけをシェアすると、まだ成功体験のないチャレンジャーたちは自信をなくし、どうしたらいいのかわからなくなってしまうんです。すると、メンター側がモチベーションを上げるために割く時間が増えてしまい、事業が前に進まないという負のサイクルにはまってしまいます。
むしろ、半分くらいはメンター自身が失敗した経験やつまずいたことを話しながら、成功のヒントを掴んでもらうことが求められます。チャレンジャーに「この人も失敗しているから私も大丈夫だ」と思ってもらえることが大切です。
とはいえ、メンター自身にも「成功したことがある」という“実感”は大切です。そこに大きさは関係ありません。これが無いとここ一番で強いアドバイスができなかったり、アドバイスがぶれたりします。過去に成功した実績があると、それに基づいて「僕はこういうパターンで成功している」ということをベースに話ができます。
ただし、人によって成功のパターンというのは本当に違う。だからメンター自身の成功を唯一のパターンとして押し付けてはいけません。特に昔の成功を語る際には慎重さが必要です。時代は動いているので、その成功が今でも通用するかはわかりませんし、過去の美談を鬱陶しく感じる人も多いですから。
繰り返しですが、メンターの成功を伝えることがダメなのではありません。メンターが自分の経験をメタ認知して、それをチャレンジャーに伝える前に一拍置くことを意識できるくらいの余裕があるのが望ましいと思います。どこまで何を伝えることができたら相手にとって意味があるのか、それが過去の成功なのであれば今の時代の文脈に置き換えて伝えることが大切です。
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登壇者プロフィール
TRUNK代表取締役CEO 西元涼
GOB-IP共同代表 櫻井亮