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ハウス食品グループの新規事業提案制度「GRIT」、立ち上げから4年の今を聞く

ハウス食品グループ本社(以下、ハウス)が、社内から新規事業を輩出するための取り組み「GRIT(グリット)」は、2023年度で4期目を迎えています。

GRIT参加者は、半年ほどのプログラムを通じてアイデアを練り上げ、最終審査を通過すると、専門部署に異動して、事業責任者として実証に注力することになります。

当社GOB Incubation Partnersも、GRITの立ち上げ時から、プログラムの設計や現場でのメンタリングなどを通じて伴走してきました

GRITの取り組みや、成果、課題について、新規事業開発部 課長の井筒勇樹(いづつ・ゆうき)さんに話を聞きました。

GRITから輩出された「タスミィ」「Kidslation」についてはこちらの記事をご覧ください。いずれも現在、事業実証を進めています。


2020年立ち上げ、4期目を迎えているGRIT

新規事業開発部 課長の井筒勇樹さん

——2020年にスタートした「GRIT」ですが、当時の立ち上げの背景を教えてください。

井筒勇樹さん(以下、省略) 長期的に見たときに、既存事業だけではビジネスモデル上厳しいタイミングが来るだろうという課題感があり、新規事業の必要性を感じていました。

そこで、社内からアイデアを公募し、幅広く新規事業の種を見つけ出すとともに、そういったアイデアを持つ社員たちがモチベーション高く働ける環境、組織風土を作るというのも、1つの狙いでした。

GRIT4期の年間スケジュール

——GRITを運営する新規事業開発部では、部署内でも新規事業の立ち上げに取り組んでいると思います。部署発の事業と公募型のGRITとは、どういう棲み分けになっているのでしょうか

事業を立ち上げる際の目線が異なります。

私たち新規事業開発部が主導する場合、基本的にはハウス食品グループが持っているシーズ(ノウハウや技術力など)を起点に起案します。社内から新たな価値創造の種を見つけ、事業として育てていくような役割です。

それに対して、公募型のGRITに期待しているのは、顧客課題や社会課題を起点としたアイデアですね。

素早い意思決定を可能にする出島「パッチワークキルト株式会社」

——ハウスの新規事業制度の特徴の1つが、出島としての「パッチワークキルト」の存在だと思います。機能している実感はありますか?

パッチワークキルト株式会社について
GRITの最終審査を通過した参加者は、新規事業開発部に所属しながら、専任の事業責任者として実証フェーズに注力する。その際、ハウスのようにすでに市場で一定の地位がある企業の場合、純粋な価値検証が難しかったり、大企業の既存の枠組みではスピード感が出ないケースもある。そこで、新規事業の実証のための「出島」として、2022年10月にパットワークキルトを立ち上げた。現在は、2事業が同社内で実証を進めている。

一番は、意思決定のスピードが早いことです。何かを実証したい、確認したいというときに、(パッチワークキルト代表の)藤井の判断さえあればすぐにスタートできるのは強みです。

これがハウスの中にいると、申請書類を提出したり決裁権を持っている担当者に説明したりとか、複雑な手順が必要になりますから。

——そのパッチワークキルトでは現在、1期のプログラムに参加した、石井さんの「タスミィ」、岸さんの「Kidslation」という2つの事業が、実証を進めていますね。この辺りの成果はどう受け止めていますか。

1期の最終審査から時間はかかってしまいましたが、やはり彼らが先頭を走って、社内に背中を見せてくれているのは、うれしいです。

Kidslationもタスミィも、従来ハウスが得意としてきた量販モデルとは異なるビジネスなので、新しいチャネルをもって挑戦できるということを示してくれているのは、大きな成果だと思います。

最近だと、タスミィがリリース直後にSNSで大きく取り上げられて、テレビなどにも出ましたが、社外はもちろん、社内からの反響も非常に大きかったです。

今はどうしても「1人で頑張っているしんどい部署」と見られてしまうこともあるので、そこは変えていくための働きかけも必要だと感じます。会社にとって新しい道を率先して作っている彼らが花形であってほしいと思います。

GOBとの連携と、内製化に向けた取り組み

——私たちGOBでは、プログラムの立ち上げ時期からご一緒してきました。4年間、形を変えながら進んできましたが、率直にどういう感想をお持ちでしょうか。

本当に、良かったことばかりです。新規事業に関する理論や本の言葉を借りて話すことは私たちでもできますが、やはりそれを生業にしている人の言葉は重みが違いますし、説得力もあります。

昨年は、河川敷でのイベント(GOBが開催したイベント。16社の新規事業の担当者たちが集まり、対話を通じて意見交換をした。イベントレポートはこちら)にも参加しまして、GOBさんのネットワークを通じて、いろいろな会社と話す機会を作ってもらえたことも非常に感謝しています。

——GOBとしては社外のパートナーとして、1期から3期まで、プログラムの設計や運営、メンタリング全般で伴走してきましたが、今年度の4期からは、より内製化できるような方向へとシフトを進めていますね。そのあたりの狙いを教えてください。

私が新規事業開発部に異動してきたのがちょうどGRITの3期のタイミングでしたが、それ以降プログラムを運営する中で感じていたのが、社内向けの“翻訳”の必要性です。

会社的に、新規事業に慣れ親しんでいるメンバーはほとんどいないので、新規事業の文脈でよく使われる用語や横文字とは、やはり距離感があるんです。

とはいえ、用語だけ覚えてもらっても意味がありません。ですから、社内の既存業務などと重ね合わせながら、言葉を置き換えて、本質的な意味合いを伝える役割が必要だと感じていました。例えばGRITの参加者は営業出身が多いんですが、幸い私も営業出身なんで「営業の仕事でいう〇〇のことだよ。やってたでしょ?」みたいな。

ここは社内にいる私たちだからこそできる部分ですし、私たち事務局の役割だとも思っています。そこが固まってくると、GOBさんのような外部の企業に入ってきてもらった時にも、より理解が深まるのでは、と感じています。

プログラム中の様子

——数年続けていると、参加者層も変わってくるので、参加者に合わせたチューニングは必要かもしれませんね。1期目は特に、情報感度の高い、関心の強い人たちが入ってきますが、回を重ねるごとに、その先の人たちにまで届けていく仕組みが必要ですね。

そうですね。支店の人や工場勤務の人など、職種や年次を問わず全社員を対象にしているので、普段の担当業務によっては新規事業とはかなり距離感がある人もいます。

しかし、そのことを置き去りにして事業開発経験者や、新規事業に強い関心がある人のためだけにやるのでは、公募型のプログラムを運営する意味がありません。「環境を変えたい」といったモチベーションで参加してくれた人たちが、プログラムの中で成長していけるような設計、仕掛けが必要だと考えています。

——実際、内製化にチャレンジしてみて、どうですか?

やはり、先に挙げたような言葉の持つ影響力みたいな部分が薄れてしまった感覚はあります。どうしても、社内の人がしゃべっていると、重みが出なかったりというところは感じますね。

また、3期〜4期を通じての1番の課題は、いかにビジネスの全体像を掴んでもらうかにあります。

ビジネスを作るという目的があって、そのための各論として顧客にインタビューして課題を特定したりというステップがあるわけですが、現状だとそれぞれが独立したTo Doのようになってしまっていると感じます。そこがゴールではないという意識付けは必要ですね。

本質的な内容を理解してもらうための翻訳機能と、同時にビジネスの全体像や勘所を掴んでもらうための設計と、両輪で考えていく必要があるなと感じています。

——ビジネスの肌感を掴んでもらうために、プログラムを早く2周してもらうみたいな工夫はあり得ると思います。少し駆け足でまずはプログラム通して経験してもらえると、アウトプットのイメージをより解像度高く持った上で、各論に反映していけるかもしれません。

そうですね。もしかしたらタスミィやKidslationの事業を手伝ってもらうような取り組みもありかもしれませんね。彼らも人手がいなくて困っているので。

——すごく良いと思います。実際に他社の事例でも、一部の業務時間を新規事業のサポートに入る仕組みを導入しているケースはあります。既存部署にいると、会社の一部しか見えないので、新規事業の全体を間近で見られるというのは、良い経験になりそうです。

若手だけでなく、ベテラン社員にとっての入り口も作りたい

——2024年にはまたすぐ5期のプログラムを予定していると思いますが、何か変えようとしている点などありますか?

あくまでもビジネスを作るんだということのアウトライン(全体像)をもう少し掴んでもらえるような設計が必要だと感じています。

そこは、エントリー後に何らかプログラムなどを挟みたいと考えています。全体像がわかった上で活動が進んでいくと、インプットやアウトプットのあり方もまた大きく変わってくるのでは、と期待している部分です。

それから、新たなエントリーの入り口を設けたいと考えています。他社もそうかもしれませんが、GRITは、「若い人のためのプログラム」だと受け取られがちです。どうしても研修的な見られ方をしてしまいます。

若い社員が参加してくれること自体はとても良い風土ですが、一方で、ベテラン社員が持っている開発力ももっと活かせるのではと考えています。社歴を重ねる中で、会社や社会に対して「こんなことをやれたらいいのに」というものはきっと何らかあるはずです。さまざまな部署を経験して、多角的な視点や知識、自走する力もあるので、例えば「セカンドキャリアの一歩目」のようなイメージで、ベテラン社員が参加しやすい導線を設計したいですね。

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GRIT参加者で、現在は事業検証を進めている「タスミィ」石井さん、「Kidslation」岸さんへのインタビューも合わせてご覧ください。